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グラスルーツの指導者は「そこにある」人種差別問題とどう向き合っているのか?

2020.10.29

中野吉之伴の「育成・新スタンダード」第10回

ドイツで15年以上にわたり指導者として現場に立ち続け、帰国時には日本各地で講演会やクリニックを精力的に開催しその知見を還元。ドイツと日本、それぞれの育成現場に精通する中野吉之伴さんが、育成に関する様々なテーマについて提言する。

第10回は、昨今サッカー界でも顕在化が著しい人種差別問題について、多くの移民やその家族が暮らすドイツで日本人として指導する中野さんがどう向き合っているのか、実体験も踏まえて綴ってもらった。

 「育成年代における人種差別問題との向き合い方」というお題を今回編集部からもらった。「デリケートな話題だと思いますが」とメールにあったが、確かにものすごくデリケートだ。

 でもデリケートだから避けられる話題かというとそんなことはない。むしろよくディスカッションされるテーマである。

 ドイツの日常生活では周りにいろんな人たちがいる。ドイツ国民とひと言で言っても、いろんな種類があるわけだ。ドイツ人-ドイツ人というパパ・ママを持つ子供は今、果たしてどれくらいいるんだろうか。

 それにそのパパ・ママのパパ・ママがいわゆるドイツ人かというパターンまで考えると、だいぶ割合は低くなるはず。

 数値的にどうこう言う以前に、欧州では自分を含めてルーツも育ちも宗教も哲学も違う人たちが普通にいる中で暮らしている。だから基本的にみんな自分とは異なる人種に対する意識を意識的に、無意識的に日常から持っているはずだ。

 「人種差別はしてもいいのか?」と尋ねたらほぼすべての人が「絶対にダメだ」と答えるのではないかと思う。少なくとも僕の周囲の様子を見る限りはそういう傾向があると感じている。

 では人種差別発言がないのかというと、それは普通にあるのだ。どこでもある。小学校でもあるだろうし、グラスルーツのスポーツ現場でもよくある。

社会生活における人種差別問題の現状

 人種差別は良くないと言っている人が人種差別発言をするのはなぜか。

 基本的にみんな「悪意はない」と口にする。つい言ってしまった、と。「無意識化で口にするということは、普段から人種差別的なことを考えているからじゃないのか」と思うかもしれないが、そうであることもあるけどそうでないことの方が多い。

 だいたいの人種差別発言は、人種を差別しようとする発言というよりも、感情を表す攻撃表現として浸透し過ぎていることが問題になっている。日本語でもたくさん「毒づくための言葉」があるだろう。……

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Profile

中野 吉之伴

1977年生まれ。滞独19年。09年7月にドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)後、SCフライブルクU-15チームで研修を受ける。現在は元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU-13監督を務める。15年より帰国時に全国各地でサッカー講習会を開催し、グラスルーツに寄り添った活動を行っている。 17年10月よりWEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)の配信をスタート。

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