[4-2-2-2]であり[1-9-1]。ナポリで進化したコンテ戦術、中央オーバーロードの独自発展形
CALCIOおもてうら#28
イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。
今回は、新監督のアントニオ・コンテの下でセリエA首位を走るナポリ。「型に当てはめる」印象が強い指揮官だが、今のナポリの戦術は従来のコンテサッカーとはかなり違っており、「最先端の戦術トピックがちりばめられた今シーズンのセリエAで、戦術的に最も興味深いチームの1つ」(片野氏)だ。現在ヨーロッパで注目されている「中央オーバーロード戦術」を独自発展させたメカニズムを解説したい。
アントニオ・コンテ率いるナポリがセリエAの首位を走っている。現在まで7節を消化した時点で5勝1分1敗。開幕戦でベローナに0-3の完敗を喫した時には前途多難を思わせたが、その後はユベントスと0-0で引き分けた以外、下位チーム相手に着実に勝ち星を積み重ねてきた。
注目したいのは、ここ10年以上頑なに3バックにこだわり続けてきたコンテが、9月半ばの第5節ユベントス戦から、4バックを基本としながら攻守両局面で配置が柔軟に変化する流動性の高い可変システムを導入するなど、これまで見られなかった戦術的試みに取り組んでいること。
システムや配置は変わっても、コンテサッカーのアイデンティティと言うべき主要なプレー原則は堅持されており、しかもその中に中央ゾーンへのオーバーロード、リレーショナルプレー、マンツーマン・ハイプレスと4/5バックのローブロック守備の両立といった、最先端の戦術トピックがちりばめられている。今シーズンのセリエAで、戦術的に最も興味深いチームの1つと言っていいだろう。
開幕ベローナ戦の惨敗。スタートは「ナポリの人々に謝りたい」
開幕戦の敗北はショッキングなものだった。戦力的にはセリエA最低ランクのベローナを前半を通して一方的に支配しながら、後半開始早々にカウンターから先制点を喫して以降は、コンテをして「最初の困難を前にチームは反発するどころか雪のように溶けてなくなった。ナポリの人々に心から謝りたい」と言わしめるほどの不甲斐ない戦いぶりに終始。似たようなカウンターからさらに2失点を喫しての惨敗だった。
戦力補強の原資となる多額の移籍金をもたらすはずだったオシメーンの売却に失敗したため、この開幕戦の時点では当初から予定されていたルカクら新戦力の獲得はまだ進んでいない状況。ピッチに送り出されたのは以下の通り、ポリターノとクバラツヘリアを2シャドーに配した[3-4-2-1]の布陣だった。大外ではなく1つ内側のハーフスペースに立ち位置を移した2人は、ボールを持っても強引に仕掛けるか、前が詰まって後ろに戻すかのどちらかで、居心地が悪そうだった。
GK:メレト
DF:ディ・ロレンツォ、ラフマニ、ブオンジョルノ
MF:マッゾッキ、アンギッサ、ロボツカ、オリベーラ
OMF:ポリターノ、クバラツヘリア
FW:シメオネ
続くボローニャ、パルマとの2試合(メンバーはCFがシメオネからラスパドーリに変わった以外は同一)もそれぞれ勝ち点3は確保したものの、チームとしてのアイデンティティは明確には見て取れなかった。それが変わったのは、移籍マーケット最後の1週間でルカク、マクトミネイ、ネレスという主力クラスの新戦力を獲得し、コンテが望んだ陣容がようやく整った9月の代表ウィーク明け以降のことだ。
「3バック原理主義」からの“転向”
準備期間がなかった第4節カリアリ戦では、従来通りの[3-4-2-1]で戦ったものの、続くユベントス戦では満を持して基本システムを4バックに変更。CFにルカク、2列目にマクトミネイという2人の新戦力を前線に配した[4-2-3-1]で同じ配置の相手にミラーゲームを挑み、敵地で0-0の引き分けをもぎ取ると、続く2試合でも同じ基本布陣からモンツァに2-0、コモに3-1と連勝を収め、首位の座を守っている。
GK:メレト(カプリーレ)
DF:ディ・ロレンツォ、ラフマニ、ブオンジョルノ、オリベーラ
MF:アンギッサ、ロボツカ
OMF:ポリターノ、マクトミネイ、クバラツヘリア
FW:ルカク
現時点での基本布陣は上の通り。前出の3バックの布陣と比較すればわかるように、メンバー的には右ウイングバックのマッゾッキとマクトミネイが入れ替わったのが唯一の変化。配置的には左のオリベーラが最終ラインに下がって4バックとなり、2列目にマクトミネイが加わって前線が1枚厚くなった格好だ。ここからもわかる通り、3バックから4バックへの移行は、コンテが強く獲得を望んだ2人の新戦力(ルカク、マクトミネイ)をチームに組み込むための解決策という意味合いが濃い。
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Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。