スペイン戦完敗で「アズーリ再生計画」に疑問。スパレッティは「6つの掟」を貫けるか
CALCIOおもてうら#20
イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。
今回は、スパレッティ監督が「私のキャリアを通じて最も重要な試合の1つ」と位置づけたスペイン戦で手も足も出ない完敗を喫したイタリア代表(アズーリ)が置かれている現状を分析。前回EUROの優勝で1つの結果を出したはずの「アズーリ再生計画」は1つの岐路に立たされている。第3節クロアチア戦はイタリアサッカーの未来を懸けた一戦となる。
1-0で済んで本当に助かった。この試合についてイタリア側から語ることがあるとすれば、ほとんどこの一言に尽きる。スコアこそ1-0、しかも得点はカラフィオーリのオウンゴールによって生まれたものだが、内容的には4-0、5-0でもまったくおかしくない一方的な試合だった。
データ上でも残酷なまでの差
内容について多くを語る必要はないだろう。いくつかのデータグラフィックを見るだけで、どんな試合だったかを理解するには十分だ。
これはOptaのゼネラルスタッツ。1枚目に示されたxG(ゴール期待値)1.9対0.18、シュート20対4、枠内シュート9対1という数字はもちろん、2枚目の累積xG推移を見れば、スペインがどれだけ多くのチャンスを作ったか、イタリアがいかに手も足も出なかったかは一目瞭然だ。
こちらは、この試合を最も端的に象徴するニコ・ウィリアムスとディ・ロレンツォのヒートマップ。数字の上ではディ・ロレンツォもそれなりに健闘してはいるものの、スペインのチャンスの大半がこの左サイドにおける優位性を基盤にして生み出されたという事実を目に見える形で反映していることは間違いない。
スペインがどれだけ押し込んでいたかは、このロドリのヒートマップにもはっきりと表れている。アンカーであるにもかかわらず、パスの大半(95本中58本)は敵陣から、しかもその成功率は100%。ファビアン・ルイスとともにスペインのボール支配を支える屋台骨として機能した。
イタリアにとってこの試合は、スパレッティ監督が掲げてきた「ポゼッションとプレッシングによってボールと主導権を握って戦う」という戦術コンセプトが、まったく同タイプでしかも格上のスペインに対してどこまで通用するのかを肌身で知るための、きわめて重要な試金石だった。この試合にどう臨むかについて指揮官が一切迷いを持っていないことは、前日会見のコメントからも明らかだった。
「我々が主導権を握って戦うという強烈な欲求、それを通じて世界最強の1つであるスペインサッカーに対峙し自らを試そうという意志を貫くこと。それをできなかったと後悔しないよう全力を尽くすこと。私が最も気にかけているのは、相手がどう出てくるか、相手にどう対処するかではなく、我々のサッカーを貫いてどれだけレベルの高い試合ができるかだ」……
Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。