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「4」と「6」に分裂したアル・アイン。幸運なようで必然な横浜FMの逆転劇【ACL決勝第1戦分析】

2024.05.15

新・戦術リストランテ VOL.15

footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!

第15回は、5月11日に開催されたACL決勝第1戦、横浜FM対アル・アインを徹底分析。横浜FMの逆転劇をもたらした戦術的要因を掘り下げる。

 ACLファイナルの第1戦はホームの横浜FMが2-1と先勝した。ただ、アッバスの先制点の後、アル・アインはパラシオスがオフサイド判定となった幻の2点目を決めている。劣勢に見える流れの中でも2点取る力があったということだ。

 おそらくアル・アインの全貌が明らかになるのは第2戦だろう。もちろん、その時は横浜FMの本領が発揮される可能性も高い。

ヨコ対タテの戦い

 第1戦は互いに縛りのある戦いになった。

 アウェイのアル・アインはある程度引き込む守り方を選択している。横浜FMの縦のスペースを突く速さを警戒したのだろう。深さを限定し、裏を制限した。そのため横浜FMはボールを保持できても攻撃のアプローチが横方向に終始することになった。

 一方、アル・アインの攻撃は縦に威力がある。それは何度か発揮できたが、いかんせん回数は限られていた。トップのラヒミはその加速力でエドゥアルドとの競走を制してシュート、GKポープ・ウィリアムが防いだ後のこぼれ球をアッバスが押し込んで先制。ラヒミの一発に期待を懸け、それで1点を取れたのは思惑通りだろうが、それ以上は難しかった。

 横浜FMの攻撃力は脅威の縦を消されただけでは沈黙しなかった。

 72分の同点弾はヤン・マテウスのクロスボールに植中朝日がヘディングで合わせたものだが、これは横の揺さぶりから生まれている。左から中央のアンデルソン・ロペスを経由してペナルティエリア右角付近にいたヤン・マテウスへ。ヤン・マテウスは得意の左足アウトの切り返しで左足を振る間合いをかせぎ、コンパクトなキックで柔らかいロブを蹴った。ゴール前に殺到するアンデルソン・ロペス、植中、宮市。アル・アインのDFは混乱して植中がフリーとなっていた。

……

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Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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