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「ボールより後ろに4人以上の選手」現代サッカーの鍵を握るレスト・ディフェンス考察

2024.04.28

TACTICAL FRONTIER進化型サッカー評論#3

『ポジショナルプレーのすべて』の著者で、SNSでの独自ネットワークや英語文献を読み解くスキルでアカデミック化した欧州フットボールの進化を伝えてきた結城康平氏の雑誌連載が、WEBの月刊連載としてリニューアル。国籍・プロアマ問わず最先端の理論が共有されるボーダーレス化の先に待つ“戦術革命”にフォーカスし、複雑化した現代フットボールの新しい楽しみ方を提案する。

第3回は、マンチェスター・シティやアーセナルを筆頭にした欧州サッカーの上位クラブが趣向を凝らす「レスト・ディフェンス」について考察する。

 ゲームを4分割する思想は、攻撃と守備の間にあるトランジション局面を可視化することに成功し、現代フットボールを発展させた。そのトランジション局面に注目し、現代フットボールの成功者となった1人がユルゲン・クロップだろう。選手たちのフィジカルレベルは上がり、それゆえにゲームはスピードアップした。相手の守備組織は緊密になり、それを破るにはカウンターが効果的であることを多くの指導者たちが理解し、ボールを奪ってからの「数秒」が成功と失敗を分けるものとなった。激しいプレッシングでボールを奪い、そのまま敵陣から直線的にゴールへと迫るスタイルは、もはやドイツのフットボールを象徴するものと言える。

レスト・ディフェンス=スペースの予防的な守備

 実際に多くの研究から、ボールを奪った後の速攻が「最もゴールの可能性が高い攻撃」であることが示されている。

 守備組織はボールを奪われてから数秒ではバランスを整えられていないことが多く、そうなると全速力で向かってくる相手チームを止めるのは難しい。ドイツサッカー協会は、ネガティブトランジション(攻→守の切り替え)の目的を次のように定義している。

 「相手のカウンターアタックを防ぐために、危険なスペースを埋めること。また、可能であればボールを直接的に奪回すること」

ダニ・オルモを囲い込むハイデンハイムの選手たち

 相手と近接した距離でプレッシャーを強め、ボールを奪うことはカウンター・プレッシングという名前で呼ばれており、逆に危険なエリアを防ぐことは「Restfeldsicherung」というワードで表現されるようになった。これはもともとドイツサッカー協会が発明した言葉であり、日本語に訳すと「スペースの予防的な守備」だ。英語にすると「Rest defense(レスト・ディフェンス)」となり、その重要性についての言及も増えつつある。

 レスト・ディフェンスはボール保持、即ちビルドアップとも密接に関係している。ボールを持つチームが組織を整えながら、相手のカウンターにも備えているからだ。……

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Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。

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