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サガン鳥栖フィジカルコーチが実践。「加減速トレーニング」が目指す走りの改善

2024.02.16

サガン鳥栖フィジカルコーチが教えるGPSデータ活用ガイド 第6回

トッププロから育成年代まで多くの現場でGPSの導入が進んでいるが、その活用法には試行錯誤しているのが現状だ。そこで2022シーズンJリーグ首位の平均スプリント回数を記録したサガン鳥栖の野田直司フィジカルコーチが「GPSデータの活用法」をガイドする。

第6回のテーマは、野田コーチが鳥栖で取り組んでいる「加減速トレーニング」。前回の「止まる」の延長線上にある「ブレーキ(止まる)→ハンドリング(方向)→アクセル(再加速)」という一連の流れをスムーズにする理論と実践を伝授してもらった。

加減速トレーニングの土台は「ブレーキ→ハンドリング→アクセル」

——連載も最終回となりました。最後に「加減速トレーニング」について教えてください。ここまでお話しいただいた「止まる」など、動作に関係するトレーニングということになるのでしょうか?

 「動作の中でも大事なのが『止まる』ことと、『止まった後の再加速』です。昔はよく、完全に止まってから再加速をするようなトレーニングをやっていましたが、実際のサッカーではそんな場面はなくて、『ブレーキ(止まる)→ハンドリング(方向)→アクセル(再加速)』の流れだと思っています。そのブレーキの種類も“タン・タン・タン”の3歩前か、ちょっとまだ相手の対応をうかがう時は4歩前で、ハンドルは左右両方にあるイメージです。右ハンドルと左ハンドルをそれぞれ使えば『180度ターン』もできる。そこを目指すのが加減速トレーニングの一番の土台かなと思っています」

——トレーニングの成果を計測するわかりやすい指標として、加減速のZ3の値が伸びているかなど、GPSが活用できるということですね。

 「そうです。加減速でZ3(=1秒あたり3m以上の速度変化)が多い選手というのは、間違いなく止まる/再加速という動作を多くしている選手ということになります」

——加減速という名前だけだと走って止まるみたいなイメージで、最初に聞いた時はシャトルランみたいなものを想像しました。加速と減速を盛り込んだあらゆるトレーニングというか、コーディネーションのトレーニングということですよね。

 「大枠でいうとコーディネーションの中に入ります。ネーミングは自信がないので、募集中ということで(笑)」

——連載前にいただいていた資料で「距離ごとの足の速さを測定する」というものがありましたが、これはどういった目的からなのでしょう?

 「速度を測る中で、加速局面が20mで、最高速に到達するのはおよそ50mになります。サッカーの場合はほとんど10~20m以下の動作なので、20mの中でどれだけ最高速度に乗れるのかが重要になります。なので、まずGPSを使って20mの最高速度を測定し、そこから30・40・50・70mと測定していきます。

 まず基本的に、最初の10mまでの動作は深い姿勢で加速させるバックサイドメカニクス、後ろさばきになります。垂直飛びのようなジャンプの高さと、この最初の加速は強く相関しています。そして20m以上で速度に乗ってからは、フロントサイドメカニックという前さばきの走りになって、バネっぽい力、リバウンドジャンプというアキレス腱を使ったジャンプの能力と相関します。

 選手の中には、初速は速いけどスピードに乗ると追いつかれてしまう選手もいれば、最初は遅いけどスピードに乗ってくると速い選手もいます。どのタイプなのかを初速と最高速の速い・遅いで4分割します。同じ鳥栖のウイングでも、長沼選手、横山選手、樺山選手はみんな速さのタイプが違いますので、それに応じたアプローチをしていきます」

2023シーズンはリーグ戦でキャリアハイとなる10ゴールを記録した長沼

——能力を測るとともにタイプをはっきりさせて、それ応じたトレーニングをしていくのですね。 例えば、初速に難のある選手にはどのようなトレーニングをしていくのでしょう?

 「走り方を教えるのに近いところがあります。まずは深い姿勢から、上体を立たせるか落とすかの違いはあるのですが、ウイングの選手などスペースへ行くことが多い場合は、陸上の走り方と同様に上体を前に倒して、その力をもらいながら進んでいく、ハムストリングとお尻が伸びたのを感じて進んでいくような走りが必要になってきます。そこで深い姿勢のジャンプ、カウンタームーブメントジャンプと言いますが、重りを持ってこれを行ったり、空中で足をシザースさせたりのジャンプメニューなどを行ったりしますね。

 速度に乗ってからの中間疾走であれば、骨盤を挙上させることはもちろん、ピッチの維持が必要です。同じジャンプでも、ボックスの上から降りたり登ったりするドロップジャンプを行います。ジャンプの方向も重要で、前向きに飛ぶと前につっかけてからの戻し動作になるので、止まる力、どちらかというと加速局面のトレーニングになります。一方、後ろに落ちると自分の重心が体の中に入ってくるのでそれを返す力が働きます。中間疾走のトレーニングで代表的なのはこうしたジャンプですが、縄跳びも有効ですね」

——縄跳びがスピードの改善につながるのは意外です。

 「縄跳びは速度に乗ってからのバネに生きてきます。前に移動しながら、下がりながら、いろんなリズムでやっていきますが、加速だけでなく、加速しながらステップを変えていくことにもつながります。縄跳びで右、左から右、右、左というふうに移動しながらリズムを変えて飛ぶことは有効ですね。

 そして、これは谷川先生から指導してもらったのですが、縄跳びの前回し飛びだと後ろさばきの動きにつながるので、後ろ回し飛びの方が足が上がるのでスプリント的にはいいみたいです。基本的には後ろ回しで、足の裏が見えないような動きで行います」

——普通にフィットネスでやるような、足が後ろに跳ねるようなやり方だと求めているトレーニングとは違ってしまうんですね。

 「足が後ろに行くということは、加速局面で必要なバックサイドメカニクスの後ろさばきになります。中間疾走で求められるのは、フロントサイドメカニックの前さばきですから。DFの選手はどうしても、相手に対するリアクションが主体なので下がっての動作が多くなってしまうのですが、後ろさばきのかわりにオーバースライド、歩幅をちょっと大きくして動くようにしています。

カタールW杯、グループステージ第3節スペイン戦の勝利を祝う三笘と谷口(Photo: Getty Images)

 YouTubeで公開されている日本代表のTEAMcamを見ると、選手によって走り方が全然違います。三笘選手はポールを抜けた後、ぐっと上体を下げていきます。自分の体重を前にかけて、その反動をもらって前に進んでいっています。一方、DFの谷口選手は少し上体を倒し気味にはしているけど、すぐに起こしています。CBなので、倒すことで視界が悪くなるのが嫌なんだと思います。ポジションが違うので細かい部分は異なりますが、2人ともきちんと動作を学んだ理にかなった走り方をしています。……

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Profile

ジェイ

1980年生まれ、山口県出身。2019年10月よりアイキャンフライしてフリーランスという名の無職となるが、気が付けばサッカー新聞『エル・ゴラッソ』浦和担当に。footballistaには2018年6月より不定期寄稿。心のクラブはレノファ山口、リーズ・ユナイテッド、アイルランド代表。

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