指導者1年目で発揮し始めた稀有な手腕。柏レイソル・大谷秀和コーチが『バンディエラ』たるゆえん
太陽黄焔章 第4回
ネルシーニョ監督の退任を受け、井原正巳監督の就任以降で大きく変わったのは、コーチが担当する裁量の大きさだ。中でも主に守備面を任されている大谷秀和コーチの存在感は、その的確な指導力も相まって、日に日に増しているという。まだ指導者1年目。駆け出しのコーチは、いかにしてチームに変化をもたらしているのか。『バンディエラ(大谷秀和 “柏レイソルの象徴”が過ごした日立台でのサッカー人生)』を上梓した鈴木潤が選手の声を拾いつつ、その真相をあぶりだす。
守備面を担当する“大谷コーチ”の確かな力量
今年1月、大谷秀和の指導者としてのキャリアがスタートした。
それまでと変わらないコーチングスタッフの中に加わる形になり、コーチ就任当初は若手の指導や、各セクションのサポートが主な仕事だった。
5月にネルシーニョ監督が退任し、それに伴いフィジカルコーチのディオゴ・リニャーレスがクラブから離れることになった。井原正巳監督就任後の新体制では、スタッフの人数が減ったことも相まって、大谷コーチがより密接に指導に関わる機会が増えていった。
現在では、戦い方の大枠や戦術面の落とし込みを井原監督、チーム内の役割分担として、攻撃面を栗澤僚一コーチ、そして守備面を大谷コーチが担当している。
残留争いの渦中にある柏だが、8月以降は守備が劇的に安定し、公式戦では8戦無敗を記録した。さらに天皇杯ではベスト4へ進出するなど、結果の出なかった7月以前と比べて上向き傾向にある。
こうした復調の要因について、大谷コーチは「以前は、チームとしてスライドの意識が薄かったり、常に人へ人へという意識が強かった部分が、まずスペースを埋めてからスライドをして埋めていく意識が付いたことが大きい」と、7月の中断期間中に井原監督が落とし込んだ戦術面の整理を第一に挙げている。ただ、守備陣に細部にわたる動きを要求し、選手に様々な意識を植え付ける大谷コーチの存在もまた、復調を促した要因の一つだろう。
プロ2年目・田中隼人が“タニさん”から言われたこと
多くの選手が、悪い流れを変えた試合として挙げるのが、8月2日に行われた天皇杯4回戦の北海道コンサドーレ札幌戦だ。リーグ戦と連戦ということもあり、キャプテンの古賀太陽はベンチスタート、夏の移籍で柏に加わった犬飼智也は前所属の浦和レッズで天皇杯に出場していたため、柏では出場ができず、代わりに札幌戦では立田悠悟と、プロ2年目の若い田中隼人がセンターバックを組んだ。
「タニさん(大谷コーチ)は、現役時代はボランチだったので、中盤の選手としての視点で今まで自分が感じていなかったことを教えてもらっています。タニさんから教わったことを理解して実践してみたら、しっかりと結果にも表れました」(田中)……
Profile
鈴木 潤
2002年のフリーライター転身後、03年から柏レイソルと国内育成年代の取材を開始。サッカー専門誌を中心に寄稿する傍ら、現在は柏レイソルのオフィシャル刊行物の執筆も手がける。14年には自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信中。酒井宏樹選手の著書『リセットする力』(KADOKAWA)編集協力。