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衝撃が走った髙江麗央、深津康太らの移籍劇…ゼルビアのフロントが、苦渋の決断の先に見据えるもの

2023.08.30

ゼルビア・チャレンジング・ストーリー 第4回

町田の名を全国へ、そして世界へ轟かせんとビジョンを掲げ邁進するFC町田ゼルビア。10年以上にわたりクラブを追い続け波瀾万丈の道のりを見届けてきた郡司聡が、その挑戦の記録を紡ぐ。

第4回は、チームが首位をひた走る中、サポーターに衝撃が走った移籍市場での動向について。新陳代謝を早めているフロントの思惑を、関係者への取材も通して読み解く。

 懐かしい光景だった。

 モンテディオ山形戦の13分。山形の髙江麗央がボランチの位置から右サイドのスペースへフリーランを敢行し、味方からのフィードを引き出すと、山形がCKを獲得した。そうした大胆なフリーランは、髙江が夏に山形へ移籍するまで今季の進化の一端として、町田で披露してきたプレーだ。また試合中に打ち込まれた鋭い縦パスを含めて、髙江のそんなプレーを懐かしく思う町田サポーターも少なくなかった。

 その一方で、わずか1カ月半前まで町田に在籍していた髙江が、山形のセカンドユニフォームに袖を通している光景は、にわかに信じがたい。そう思う町田サポーターもいただろう。

 それもそのはず。今季の髙江は開幕から14試合連続の先発出場を果たし、クラブレコードである6連勝達成にも貢献。開幕からのスタートダッシュに寄与してきた一人として、原靖フットボールダイレクター(以下FD)も「首位という現状の成績の一因を、髙江選手が担ったことは強調しておきたい」と話してきた。

 またランコ・ポポヴィッチ前体制における主軸の大半が昨季限りでチームを去る中、加入4年目の髙江は残留。サポーターの思い入れが強い分、その衝撃度は大きかったが、髙江の電撃移籍は、クラブが積極的に取り入れている“アップデート”のサイクルが速くなっていることを象徴している。

改革に伴う“痛み”

 今季の町田は1年でのJ1昇格が至上命令。昨年12月にオーナーから代表取締役社長に立場を変えた藤田晋氏は「就任1年目から勝負を懸ける」と豪語し、クラブ史上最大規模のトップチーム人件費を投じながら、チーム強化を推し進めてきた。チーム編成を司る原FDは、1年でのJ1昇格というクラブ側がマスト事項に掲げる結果にコミットするため、「この編成で本当に優勝できるのか?」と自問自答の日々を過ごし、「強化や現場としても、少しずつアップデートしていくことは宿命」とまで語っている。……

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Profile

郡司 聡

編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクション、エルゴラッソ編集部を経てフリーに。定点観測チームである浦和レッズとFC町田ゼルビアを中心に取材し、『エルゴラッソ』や『サッカーダイジェスト』などに寄稿。町田を中心としたWebマガジン『ゼルビアTimes』の編集長も務める。著書に『不屈のゼルビア』(スクワッド)。マイフェイバリットチームは1995年から96年途中までのベンゲル・グランパス。

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