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【連載】風間八宏が語る“速さ”とは何か?選手が「時計を持つ」ことで、基準が生まれる

2022.12.26

「風間八宏×セレッソ大阪」育成革命の最前線 第3回

「ここまで早く成果が出るものか」と驚いた。日本サッカー界が誇る“奇才” 風間八宏がセレッソ大阪アカデミーの技術委員長に就任して2年目を迎えた2022年、U-18とU-15、そしてU-18ガールズまでもが夏の全国大会であるクラブユース選手権の頂点に立った。カテゴリーをまたいだ“3冠”は史上初である。

U-15とU-18が見せたのは、まさに川崎フロンターレと名古屋グランパスで体現してきた“風間サッカー”だった。しかし、実際に選手を指導するのは本人ではない。彼が直接現場に入ることなく、なぜこのような現象が起きたのか――?

本連載では風間八宏がセレッソ大阪で取り組む育成改革の実態に迫る。第3回のテーマは、ここ最近になって風間氏が口にするようになった「自分の時計を持つ」という言葉だ。止める・蹴るをはじめとした技術の向上とその定義については、風間氏の口から多く発せられていたし、本誌でも触れてきている。では、その技術をさらに高めていく、技術レベルを次のステージへ上げるためにはどうすれば良いのか? その問いの答えを探る。

平均ではなく、「一番速い選手」に合わせる


――セレッソ大阪U-18が夏にクラブユースで優勝しましたが、その後のリーグ戦では苦戦を強いられました。島岡健太監督は「構えてくる相手が増えた中で、まだ自分たちの技術が足りないこと。そこを高めてもっとうまくならなければいけない」とその要因を語っています。

 「相手どうこうではなく、自分たちの問題です。どんどん自分たちの速度が上がってきているのですが、その速度でプレーできる技術が伴っていない。ボールが次の味方に渡るまで、夏のクラブユース決勝の頃と今とではその時間が変わってきています。夏のスピードだとミスも少なかったのですが、今はそこを速くしようとしている中、まだ自分たちの技術が足りない。これはある意味、順調とも言えます。いつも私が言っていることですが、『サッカーの定義は同じだけども、基準は変わるよ』と。選手たち自身も成長しますし、入れ替わる選手も出てきます。その中で、いかに速さと技術を高めていくか。

 もう1つ成長している点を挙げれば、プレーの方向も変わっています。後ろや横へのパスが少なくなっています。今のスピードを持っているチームはなかなかないし、もしかするとトップチームより速いスピードの中でやっているかもしれません。チャンスもたくさんできています。ただ、最後のところでボールがコントロールできなかったり、シュートを打てなかったり、そういう技術的な問題がたくさん出てきている。ただ、この速さの中でもやれてる選手は何人かいます。勝つためにプレーのスピードを落として全体のアベレージに合わせてしまえば、夏のように上手くいくかもしれません。でも、それが目的ではない」


――速い展開の中でも技術の質を落とさない、という理解のされ方が普通だと思いますが、風間さんの考え方は技術があるから速さが上がっていくということなんですね。

 「そうです。一番技術のある選手の速さに周りがついてくるのが、このチームだということです。基準はあくまでもその技術を最も速く出せる選手。ついてこれる人と、そうでない選手が出てくるのは自然なことではあります。チームの平均に合わせていたら、それがチームの限界になってしまいます。常にチームで最高の技術と速さを持つ選手の基準に合わせていくことで、チーム全体が伸びていく。このチームが、その土壌を得ているのはすごく大きいです。この速さの中でプレーができるようになると、彼らの技術は“確信”になっていきます。そして、それまでは頭で意識していたものが、次第に無意識でできるようになる。U-18は今、アカデミーの先行事例としていろいろなものを示してくれていると思います。

 例えば、具体的な数字として『何キロの速さで走る』という基準を設けたとしても、前まではその前提条件である単純に走る能力すらなかったのが、今は『ボールと一緒に何キロで走るか』というステージにまで高まってきています。でも、正確性はまだまだ足りないから突き詰めていかないといけないですけどね。これは終わりがあることではなく、永久的に求め続けていくことです。だから過去の映像を見ることは何も意味がないんです。今よりも遅いので。もう自分たちは先に進んでいる。前は80キロの速度で走ろうとしていた車が、今は100キロで走っている。それを全員ができなければいけないし、もっと速くなることを目指す状態を作らなければいけません」


――スピードの基準が上がることによって変わる部分はありますか? 速い展開の中で「外す」のは特に難しい気もします。
……

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Profile

竹中 玲央奈

“現場主義”を貫く1989年生まれのロンドン世代。大学在学時に風間八宏率いる筑波大学に魅せられ取材活動を開始。2012年から2016年までサッカー専門誌『エル・ゴラッソ 』で湘南と川崎Fを担当し、以後は大学サッカーを中心に中学、高校、女子と幅広い現場に足を運ぶ。㈱Link Sports スポーツデジタルマーケティング部部長。複数の自社メディアや外部スポーツコンテンツ・広告の制作にも携わる。愛するクラブはヴェルダー・ブレーメン。

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