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教訓にするには問題が根本的過ぎ、修正するには時間がなさ過ぎる…スペイン視点で見た対日本戦分析

2022.12.03

日本戦徹底解剖

コスタリカに敗れ、一転してグループステージ突破への道は険しいものになったかと思われた日本代表だが、見事スペイン代表を下し2大会連続での決勝トーナメント進出をグループ首位通過で決めた。一方で、日本に金星を献上する格好となったスペイン視点では、この敗戦はどう受け止められているのか。スペイン在住の木村浩嗣さんが分析する。

 日本に足りないのは勇気だけだった。

 せっかく5バックにしたのだから、引きこもる手はない。5人で5レーンを塞ぐだけではこのシステムは機能しない。人数をかけてスペースを埋めているのだから後ろにいくほど数的有利で、最悪でも数的同数なのだから、相手をフリーにしてはいけない。

 アルバロ・モラタが下がってボールをもらいに来ても、ガビがCBとSBの間のレーンにドリブル侵入してダニ・オルモがサイドから横走りしても、日本の選手はついて来ない。人数は足りているのだが、スペースを埋めることを優先したのだろう。その結果、モラタは楽々反転し、ガビはニコ・ウィリアムスと2対1を作れ、ダニ・オルモはゆっくりと周囲を見回せて、アレハンドロ・バルデが上がって来る間を作れた。

 そんな中、ペドリはしばしばセルヒオ・ブスケッツの高さまで下りてきた。これには最後までついて行く必要はない。途中までついて行き、[5-4]ブロックの外に出たら放してやれば良い。ブスケッツの横のペドリに危険はない。そこはスペースを埋めること優先でいい。だが、ブロック内ではマンツーマン。この原則が守れていなかった。

 マークに出てついて行くのは怖い。

 担当スペースを放棄することになり、そのスペースを使われたり、マークがずれたりするからだ。だが、引きこもっての5バックで、最終ラインはペナルティエリアの高さという状態で、スペインにボールを持たれてコンビネーションされたり、少々強引でもシュートを撃たれたりする方がもっと怖い。

 勇気不足は次のシーンに典型的に表れていた。

 スペインのボール出しの際に日本は深追いをせず、相手CBをフリーにしFWがブスケッツを抑えて出方を待った。“出してみろ”の態勢だ。で、パスコースがなくバックパスを選択したら、そこは深追いする。左SBバルデ、左CBパウ・トーレス、GKウナイ・シモンとパスが回る。ここでサイドが変わって右SBのセサル・アスピリクエタにボールが出るのだが、そこに日本のマーカーはいなかった。大外のニコ・ウィリアムスと中のガビをケアしていたからだ。で、フリーのアスピリクエタはドリブルで上がって行く。彼をフリーにすると深追いのプレスがすべて台なしになるし、数的有利が解消されるまで侵入され放題なのだが。

 この日本の慎重で、用心深い態度はスペインにとっては好都合だった。なにせ、敵陣の3分の1のスペースまでほぼフリーでボールも人も侵入させてくれるのだから。たとえ崩し切らなくても、アクシデントでもファウルでも何かがあれば日本ゴールはわずか十数m先にあってビッグチャンスになる。モラタの先制後は、さらにスペインペースに拍車がかかることになる。これで無理に攻めなくていい。ブスケッツからウナイ・シモンまでの後ろの広大なスペースが、自由にパスを回して時間を使えカウンターの機会を待てるフリースペースとなったからだ。

モラタの打点の高いヘディングによる先制シーン。日本の出方もあり、前半は悠々とプレーしていたが…

いい意味で指示を“裏切ってくれる”選手はいなかった

 しかし後半、日本は態度を一変させた。……

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Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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