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「運が悪かった」で終わらせてはいけないコスタリカ戦。ボールを“持たされた”日本が学ぶべき教訓とは

2022.11.29

日本戦徹底解剖

勝てば2大会連続のW杯16強進出に王手がかかる注目の一戦で、コスタリカに0-1の敗北を喫した日本代表。被枠内シュート1本で1失点という数字だけを見れば「運が悪かった」とも言えそうだが、その一言で決して終わらせてはいけないとらいかーると氏は警鐘を鳴らす。2月9日に発売する『森保JAPAN戦術レポート』の著者に、その理由となる試合内容を徹底分析してもらった。

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ボール保持対プレスの構図で山根が示した価値

 序盤からエンジン全開の日本は、ドイツに逆転勝利を収めた勢いを感じさせた。コスタリカはキックオフで長友佑都に長いボールを放り込むものの、その前で跳ね返した日本がさっそくロングカウンターを発動。さっそくスタメンに抜擢された相馬勇紀がドリブルで相手を突破した場面は、幸せな結末を予感させるには十分なプレーだった。

 日本は[4-4-2]でアタッキングサードをプレッシング開始ラインと設定。一方、ボール保持では3バックのコスタリカはゴールキック時にその中央に配置されたケンダル・ワストンを2トップの間に立たせることで、日本のプレッシングを牽制する。両脇のCBはGKケイラー・ナバスを擬似的なCBとして利用することで横幅を確保し、日本の2トップにどこまで追いかけてくるかを問いかけているようだった。ただし、ボールを保持している時のワストンは普通の3バックとして振る舞うことの方が多く、臨機応変な姿勢を見せていた。

柔軟な役割を果たしていたワストン

 左サイドを攻撃の起点とするコスタリカのボール保持に対して、日本は堂安律をスイッチとしてプレッシングをかけていくが、相手の左サイドハーフであるジョエル・キャンベルの降りる動きによって、守備の基準点の設定に混乱が見られたこと、ボールを奪いにいく局面でファウルになってしまったことから、コスタリカにセットプレーの機会を連続して与えながら序盤戦を迎えることとなった。

 相手のフリーキックをキャッチした権田修一のファインプレーとともに、日本のボール保持対コスタリカのプレッシングという構図が色濃い展開へと移っていく。

 日本のCBを放置してハーフライン付近をプレッシング開始ラインとするコスタリカは[5-4-1]で構える。日本は遠藤航が[4-3-3]のアンカーのように振る舞うが、守田英正と鎌田大地の位置が左右のインサイドハーフの役割を担っているようには見えなかった。ボールの位置に応じたそれぞれの立ち位置はボールを受けるためなのか、誰かに時間とスペースを与えるためなのかは場合によって成立と非成立を繰り返していきそうな雰囲気だ。

 フリーなCBから時間とスペースを紡いでいきたい日本だが、受け手がどうしても捕まっていることが多い。それならば 運ぶドリブルで相手を引きつけて味方をフリーにしたいところだが、相手が出てきそうな雰囲気もない。引き分けでも悪くない日本と引き分けではまずいコスタリカの状況を考慮しても、リスクを冒すには早すぎる時間帯であったことから、日本はCB同士でパスを交換しながら安全にボールを保持する道を選択していく。

 ライン間にボールをCBから入れられないのであれば、サイドから入れることがビルドアップの定跡となっている。山根視来がサイドから中央へパスを通した場面は、負傷の酒井宏樹に代わって先発した山根自身がこの試合に出場する価値があることを証明するには十分なプレーとなった。さらに堂安がゴールを横切るクロスを上げた場面は、吉田麻也のロングボールから発生したセカンドボールを拾って冷静に堂安にボールをつけた山根のプレーから始まっている。

ボールを争う山根

守備範囲外への移動が秀逸なコスタリカ

 時間の経過とともにコスタリカのビルドアップに怪しさを感じ始めた日本は、上田綺世をスイッチとするプレッシングを行い、その終着点が苦し紛れのロングボールとなるように仕向け始める。対するコスタリカは3バックの横幅を使うことで、2トップでは追い切れない意図をより全面に押し出していった。それならばサイドハーフが前に出ればいい。サイドバックも連携・連動のプレッシングをみせることで、強度で押し切ろうとする日本の振る舞いとともに徐々に試合が動き始める。

 段々と日本がボールを保持する時間が増えていく中で、ボール保持の出発点となる選手は板倉滉だった。板倉が相手の中盤を引きつけて味方にボールを渡すことで、日本は敵陣ゴールに仕掛ける機会が増えていくようになる。ただし、前線の位置関係が整理されていない状況は継続中。特に堂安は大外と内側のどちらでプレーするべきか困っているように見えた。

 上田をスイッチとするプレッシングでボールを奪い、鎌田のスルーパスに山根が飛び出した場面のように、ボール保持/非保持に関わらず、日本が優勢な時間帯となっていく。18分にはとうとうゴールキックで蹴っ飛ばすコスタリカが目撃されている。

 しかし、本当はボールを保持して試合をコントロールする時間も持ちたいコスタリカは、右セントラルハーフのセルソ・ボルヘスが右サイドバックの位置に降りることで、日本のセントラルハーフたちに選択を迫った。サイドまでついてくるか、中央に残るか。この場面以外でも、人を基準とする日本の守備の前に、コスタリカの選手は守備範囲の外への移動が秀逸だった。

 相手のゴールに迫っていくという観点から考えると、中盤の選手がサイドバックの位置に移動することは効果的でない一方で、ボール保持の安定を取り戻すことによって効果的でないプレーを遠回りで効果的にすることはできる。日本のプレッシングも連携・連動が命になるわけで、初戦でドイツが三笘薫に仕掛けられるスペースを与えてしまったように相手の意表を突いた立ち位置に対して、ボールを持っているからとプレッシングをかけ続ければフリーな選手が生まれてしまう。実際に25分頃から日本は上田がスイッチを入れることをやめ、相手にスペースを与えないよう全員でコスタリカのボール保持に対抗するように変化していく。つまり、コスタリカがボールを回復することに成功する時間帯となっていった。……

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Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。

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