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視線の先にある「ポストゲームモデル」時代への適応。ナーゲルスマンの「原則」アップデートの日は近い

2022.10.08

『ナーゲルスマン流52の原則』重版記念企画#1

史上最年少28歳でのブンデスリーガ監督デビューから6年、当代屈指の名将の一人に数えられるところまで上り詰めた指揮官ユリアン・ナーゲルスマンの「“6番”の場所で横パスしてはいけない 」「ドリブル後のパスは、ドリブルで移動した距離より長くする」といったピッチ内でのプレー原則はもちろん、組織マネジメントの方法論や価値観に至るまで彼が実践している52の“原則”に迫った『ナーゲルスマン流52の原則』がこのたび重版! 記念として、ゲームとしてのサッカーの特徴という視座から見るナーゲルスマンとその原則について、五百蔵容氏に論じてもらった。

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優れた「ゲーム」の構成要素とは?

 ボードゲーム、ビデオゲームからスポーツ、パーティーゲームに至るまでどんなものであれ、「ゲーム」は固有のゲームシステムとルールを持っています。それらは文字通り1個の体系としてそのゲームの構造、特質を表現し、そのことでプレイヤーが「このゲームでは何ができるのか、何をすれば良いのか」を把握させます。そして、巧みにプレーする(優位にゲームを進め、勝利する)ためのガイドライン(原則)を導き出す基盤となるのです。

 例えば、『スーパーマリオブラザーズ』の主要作品では、「シンプルな操作系でジャンプアクションをベースに敵を倒し、障害物を乗り越えてゴールを目指す」というシステムに、「一定時間内にゴールしなければならない」や「水平方向(正面や背面)から敵に接触するとダメージとなる」「一定回数ダメージを受けると1ミスとなり、規定回数ミスするとゲームオーバーとなる」「障害物・障害の中には接触するだけで1ミスとなるため、触れることなく乗り越えねばならない」などのルールがセットになっています。加えて、マリオやプレイヤーキャラクターのアクションには慣性がつけられ、走っていてもすぐに止まることができず、ジャンプしても着地点の予測がしづらく、プレイヤーはアクションを1つ起こすたびに「どういう状況から走ったか、ジャンプしたか」「アクションの目的となる場所や、敵の状態はどうなっているか」を予測し、微調整しながらプレーすることを余儀なくされます。

 これらの「システム」と「ルール」の組み合わせは、そのまま「このゲームでできること、すれば良いこと」を表しています。それとダイレクトに結びつく形で、ゲームをスムーズに進めゴールするためには「アクションのたびに生じる慣性を制御しながら、迅速に前進しなければならない」という「プレー原則」が自然に生じるようデザインされています。さらに、この「原則」は、敵や障害物の配置や種類、マップ自体の地勢など状況設計との相互作用で無限に近い「巧みな慣性制御を求める」バリエーションを生み出しています。多様な要素が入り乱れる「混沌としたシチュエーションの中で、正しい意思決定と操作を間断なく行わなければならない」という、プレイヤーには理不尽な負荷に感じられる論理的な難易度の創出に結びついており、同シリーズの2D作品、3D作品いずれにおいてもシンプルながら深みのあるゲーム性を実現する基盤になっています。

 アナログ・デジタル・フィジカル問わず、古今東西の優れたゲームが備えている条件が、『スーパーマリオブラザーズ』シリーズにはそろっています。……

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Profile

五百蔵 容

株式会社「セガ」にてゲームプランナー、シナリオライター、ディレクターを経て独立。現在、企画・シナリオ会社(有)スタジオモナド代表取締役社長。ゲームシステム・ストーリーの構造分析の経験から様々な対象を考察、分析、WEB媒体を中心に寄稿している。『砕かれたハリルホジッチ・プラン 日本サッカーにビジョンはあるか?』を星海社新書より上梓。

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