いつから素走りがダメになった?フィジカルトレーニング進化の歴史
書籍『サッカーココロとカラダ研究所』本文特別公開#2
試合の内容、結果に大きな影響を及ぼし得るにもかかわらず、「テクニック」や「戦術」と比べて理解するために必要な視点や知識すらまだ十分に整理されていないサッカーの「フィジカル」と「メンタル」。そんな「未知の領域」について、選手、コーチ、監督という異なる立場からプロサッカーの現場を当事者として経験してきたイタリア人エキスパートのロベルト・ロッシと、 イタリア在住ジャーナリストの片野道郎が様々な角度から掘り下げ、全体像に迫ったのが『サッカー“ココロとカラダ”研究所 イタリア人コーチと解き明かす、メンタル&フィジカル「11の謎」』だ。今回はその中から、特に読んでもらいたい5つのエピソードを特別に公開。カルチョの理論と現場を深く知る2人の「メンタル&フィジカル」の謎を解く旅に、ぜひご同行願いたい。
※選手の年齢・所属等の情報はすべて発行時点のもの
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フィジカルへのアプローチの変遷
片野「前章は、サッカーのメンタルという側面はどのように捉えられるか、監督はチームの現場でどのようにこの側面にアプローチしているのかについて、概略的に取り上げました。この章では、フィジカルという側面について、同じ入り口から探求のとっかかりを掴みたいと思います。
プロサッカーの現場にフィジカルコーチという存在が入ってきたのは、1970年代の終わりから80年代の初め頃だったという話を聞いたことがあります。それから現在まで、フィジカルという観点からのアプローチがどのように変化してきたのか、そこから話を始めましょうか」
ロッシ「時系列については今言ってくれた通りだよ。70年代までは、フィジカルという観点から選手のパフォーマンスを高めようという科学的なアプローチは、ほとんど行われていなかった。毎日のトレーニングの中にはランニングや腕立て伏せ、腹筋運動といったボールを使わないメニューも多少は取り入れられていたが、今から振り返ればきわめて原始的なものでしかなかった。
そして80年代頃から、スタッフの中にフィジカルコーチが入って、フィジカル能力を高めるために科学的なトレーニングが行われるようになった。フィジカルコーチのほとんどは陸上競技の出身で、スピードや持久力、パワーといった観点から、アスリートとしての能力を高めることに特化したメニューが練習に組み込まれるようになったんだ。
当時は、フィジカル能力は技術・戦術的な能力とは別のものであり、切り離して強化できるという考え方が一般的だった。だからトレーニングの中でも、ボールを使った技術・戦術練習とボールを使わないフィジカルトレーニングがはっきりと分けられており、前者は監督、後者はフィジカルコーチがプログラムし、指揮を執るのが普通だった。
しかし、そうしたやり方でトレーニングを行い、その結果をフィードバックしながらメソッドを進化させていく中で、サッカーというゲームの全体からフィジカル能力という要素、側面だけを抜き出して強化しようとするアプローチは果たして有効なのかという疑問も出てきた。特に2000年代に入ってからは、選手の総合的なパフォーマンスを高める上で、そうしたトレーニングが必ずしも効果的とは限らないという考え方が、徐々に広まってきた。時代の流れは、ボールを使わないフィジカルトレーニングを極力減らして、ボールを使ったメニューの中にフィジカル能力の向上の要素も取り込んでトレーニングを組み立てるという方向に向かっている」
80年代:サッキ革命とインテンシティの向上
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