REGULAR

【サッカー小説】カテナチオ炎上 VOL.3「フットボールの勝利」

2020.12.20

タカラバラ

 インテルがローマを訪れた時、ある選手が地元の記者の質問に答えてこう言った。

 「僕らはローマにプレーしに来たんですよ」

 スペイン階段もトレビの泉も関係ない。観光に来たわけじゃない。そう言いたかったのかもしれない。しかし、彼はエレニオ・エレーラ監督によって試合のメンバーから外されてしまった。コメントが間違っていたからだ。

 「ローマには『勝つ』ために来た」

 そう言わなければならなかったのだ。

 エレーラがインテルの監督に就任した最初のシーズンは3位、次のシーズンが2位。それでも危うくクビになりかけていた。世界一の高給監督への期待はスクデット以外なかった。言い訳無用の3年目、エレーラのインテルはセリエA優勝を果たす。次の1963-64シーズンはチャンピオンズカップ優勝、1964-65も連覇。インターコンチネンタルカップも連覇。“グランデ・インテル”時代の到来である。

 バルセロナでラディスラオ・クバラと対立したエレーラは、インテルでもスター選手とことごとく対立している。最初の“犠牲者”はアントニオ・アンジェロだ。2シーズン前に33ゴールもゲットした得点王は「生活が乱れている」という理由で放出された。グランデ・インテルの象徴とも言えるリベロのアルマンド・ピッキも、エレーラに反抗的な態度を取った“罪”で放出された。自由奔放なレフティ、マリオ・コルソも危なかったが、モラッティ会長の寵愛ゆえに命拾いしている。

 TACALABALA――この、まるで呪文のような言葉は本のタイトルだ。……

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Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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