NEWS

フットボールの歴史を彩った華麗な一撃。代表チームの“一発屋”たち

2021.07.04

 EURO2020とコパ・アメリカが佳境を迎え、いろいろな国で新たなヒーローが誕生しつつある。だが、いくらチームを救うようなゴールを決めても“一発屋”で終わる可能性がある。そんな代表チームの“ワンゴール・ワンダー(一発屋)”を、英紙『The Guardian』が特集しているので紹介しよう。

期待を背負うトリッピアー

 EURO2020で順調に勝ち上がっているイングランド代表では、ゴール前でFKを獲得する度に期待が集まる。

 ドイツ戦では、FKのたびにキーラン・トリッピアーがアップになり、歌手のエド・シーランの隣でスタンド観戦していたデイビッド・ベッカムまでカメラに映し出された。確かにトリッピアーに期待する気持ちはわかるが、彼がワールドカップ準決勝のクロアチア戦で直接FKを決めたのは3年前の話だ。

 それでも彼に期待してしまうのは、クロアチア戦のゴールがあまりに印象的だったからだ。加えて、トリッピアーはその1カ月後にもプレミアリーグの試合で完璧なFKを叩き込んでおり、それがイングランドファンの脳裏に焼き付いているのだろう。しかし、彼は2019年にアトレティコ・マドリーに加入して以降、1点も決めておらず、過去5年間で奪ったゴールは上記の2本だけなのだ。

 代表戦では30試合で1ゴール。今のところ、いわゆる“ワンゴール・ワンダー”なのだ。トリッピアーのように、大舞台で印象的なゴールを決めるも、あとはノーゴールという選手は他にもいる。

歴史に名を刻んだ男たち

 トリッピアーと同じくW杯準決勝のゴールが代表キャリアの唯一の得点となったのは、元ブラジル代表のクロドアウドだ。1970年W杯の決勝では、自陣で4選手をかわすドリブルを披露してカルロス・アウベルトのゴールを演出したことで知られる同選手だが、同大会の準決勝ウルグアイ戦でのゴールが代表キャリア5年間で唯一のゴールだったという。

 準決勝での印象的な活躍と言えば、1998年W杯のフランス代表DFリリアン・テュラムだろう。準決勝のクロアチア戦では、自身のミスで先制ゴールを許すも、そこから2得点でチームを逆転勝利に導いた。142試合の代表キャリアで彼がゴールを決めたのはその試合だけだが、2得点だったため“ワンゴール・ワンダー”とは呼べない。

 1950年W杯で優勝の行方を占う最終戦で先制点を決めたのはブラジル代表のフリアサだった。彼にとってはそれが代表キャリアでの唯一のゴール。それでも母国を頂点に導けたなら何も文句はなかったが、ブラジルはウルグアイにまさかの逆転負けを喫して“マラカナンの悲劇”を味わう羽目になった。

 2019年に他界した元アルゼンチン代表のホセ・ルイス・ブラウンは、代表キャリア36試合で唯一のゴールが1986年のW杯決勝だった。マラドーナの大会として知られる同大会だが、ドイツ戦で貴重な先制ゴールを決めて優勝に貢献したのはブラウンだ。

 そう考えると、今回のEURO2020で初ゴールを決めたスコットランドのカラム・マグレガー、スペイン代表のセサル・アスピリクエタやアイメリク・ラポルテ、そして英国のストーク生まれながらチリ代表としてコパ・アメリカでネットを揺らしたベン・ブレレトンなども、“ワンゴール・ワンダー”予備軍と呼べるのかもしれない。

スロバキア戦で代表初ゴールを決めたラポルテ(左)は“一発屋予備軍”だ


Photos: Getty Images

footballista MEMBERSHIP

TAG

アトレティコ・マドリーキーラン・トリッピアーセサル・アスピリクエタラポルテリリアン・テュラム

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

RANKING