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「より自分が生きる」大木サッカーを日々吸収。唐山翔自は熊本の推進力として“自ら翔く”

2024.08.15

【特集】Jリーグ夏の新戦力、救世主は誰だ?
#5 唐山翔自(ロアッソ熊本)

今夏も動きが活発化している移籍市場。経験をもたらすベテランから即戦力として期待を背負う実力者に武者修行で再起を図る若手まで、各Jクラブが補強した救世主候補たちの物語を番記者がお届けする。

5回は、ガンバ大阪から育成型期限付き移籍でJ2ロアッソ熊本に加入した唐山翔自。今季J19試合に出場していた21歳は、合流直後から3戦連続スタメンで右ウイングに定着。これまでプレーしたチームとは「異なる」大木武監督のサッカーを消化し、新天地の前線で存在感を増し続けている。

 「点を取る力があるし、プレーのスピードもある。それがうまく、チームの中で生きてくればいいと思います」

 ガンバ大阪から育成型期限付き移籍で加わった唐山翔自に期待することについて、トレーニングに合流したばかりの7月12日、大木武監督はそう述べた。

 ロアッソ熊本がJ3を戦っていた2020年、唐山はガンバ大阪U-23の選手としてプレーし、当時まだ高校生ながらチームトップの10得点を挙げている。熊本との2試合では無得点に終わっているものの、当時丸刈りだったヘアスタイルとともに、その推進力のあるプレーは、J2復帰を目指す熊本にとって警戒すべき存在として強く印象に残ったということだろう。合流からわずか4日後の第24節ジェフユナイテッド千葉戦で先発起用したことからも、期待の大きさが窺い知れる。

 唐山自身はその千葉戦について、「もっといけると思いますけど、自分の推進力やゴール前に入っていくところ、ボールを取られないところは見せられたと思う」と振り返る。その後も、3トップの右ウイングとして先発に定着。第26節の大分トリニータ戦を終えた時点でまだ得点は生まれていないが、個人としての持ち味である積極的な仕掛けのみならず、徐々に周囲の選手との意思共有が進み、これからの残りの試合で浮上を目指す熊本にあって、存在感は確かに増しつつある。

「周りとの関わりの中からゴールに向かっていく」自分のプレーを「続けることが大事」

 期限付き移籍を決断したのは、「ガンバでなかなかチャンスがなかったので、試合に出ることが大事だと思っていた」(唐山)ことが大きな理由だが、移籍先についてはイメージがあった。

 「自分はボールを持っている時も持っていない時も、ゴールに向かうのが特徴。その中でも、ロングボールを収めて1人でゴリゴリ持っていくのではなくて、周りとの関わりの中からゴールに向かっていく方が得意なので、移籍するチームとしてはそういうサッカーをしているところに行きたかった。水戸に在籍していた昨年までもいろんなJ2のチームを見ましたけど、J3で対戦した時からそういうサッカーをしている印象のある熊本なら、より自分が生きるんじゃないかという思いはありました」……

Profile

井芹 貴志

1971年、熊本県生まれ。大学卒業後、地元タウン誌の編集に携わったのち、2005年よりフリーとなり、同年発足したロアッソ熊本(当時はロッソ熊本)の取材を開始。以降、継続的にチームを取材し、専門誌・紙およびwebメディアに寄稿。2017年、母校でもある熊本県立大津高校サッカー部の歴史や総監督を務める平岡和徳氏の指導哲学をまとめた『凡事徹底〜九州の小さな町の公立高校からJリーガーが生まれ続ける理由』(内外出版社)を出版。