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フランスのトラップディフェンスによる誘導、オランダの根性と必殺技…代表戦らしい細工満載の0-0【EURO分析】

2024.06.23

【特集】EURO2024 注目マッチ分析 #2
グループD第2節:オランダ 0-0 フランス

7月14日までドイツで開催されるEURO2024。グループステージから決勝ラウンドまで注目の試合を、各国の事情に精通するレギュラー執筆陣や戦術分析のスペシャリストが独自の視点で深堀り!

6月21日のEURO2024グループステージ第2節で実現したD組の大一番。ともに初戦白星で発進したオランダとフランスの強豪対決は、両チーム譲らず今大会初のスコアレスドローでタイムアップを迎えた。

 ムバッペが負傷で欠場したフランスは、代役として今大会初登場のチュアメニが中盤で先発。ラビオをサイドハーフとして起用するのは、かつてのマテュイディが担っていた役割を彷彿とさせる策だ。そもそもムバッペの代わりなどいないわけで、自分たちの計画をまるで別のものにすることで、ムバッペ不在の解決を図るというのは理にかなっていると言えるだろう。

 第1節ポーランド戦(○1-2)で流動的な配置を見せたオランダ。流動性を支える生命線は大外レーンで価値を示せる選手がいるかどうかにある。左サイドでは前線でガクポが質を相手に示していたが、右サイドのSBドゥムフリースが苦労していたことを考慮して、フランス戦ではレバークーゼンでブレイクしたフリンポンをウイングとしてスタメン起用。大外でも内側でもプレーできるフリンポンにドゥムフリースを添える形で改善を狙ったが、対面にラビオが配置されたことはなんの因果だろうか。

フランスの仕掛けた2つの罠

 オランダのキックオフで始まった試合は、前線へ放り込む匂わせからのボール保持で開幕する様相を見せた。オランダの立場からすれば、チュアメニの起用で第1節オーストリア戦(○0-1)から変化したであろうフランスのプレッシングの配置やルールを観察したかったはずだ。前節で披露したメンフィス・デパイをフリーマンとして機能させる流動的アタックを起点として、フリンポンがいきなり決定機を迎えたことで、オランダにとっては試合の展望をポジティブに考えられそうな開始直後であった。

 しかし、オランダからすれば試合の雲行きはどんどん怪しくなっていき、フランスからすれば試合を思い通りにコントロールできるようになっていく。ボールを奪った時のオランダの振る舞いの変化は、この試合の困難さを象徴していたと言えるだろう。序盤のオランダはボールを奪っても急がずにボール保持を優先させ、流動的な前線を出発点とし、両サイドのウイングによる攻撃を狙っていたが、徐々にカウンターをメインとするように変化していった。

 オランダが自分たちの得意なボール保持攻撃よりも、カウンターを優先させるように変化していった大きな理由は、フランスのプレッシングのギミックにある。オランダのビルドアップや奥の手の特徴は、ドゥムフリースが高い位置に上がり、左SBのアケを残す3バック化と、その3バックからのアケの攻撃参加であった。ポーランド戦では困った時に後方から突然に現れるアケのチャンスメイクで試合を決めたことは記憶に新しい。

 現代のスタンダードになりつつある3バックからの攻撃参加を止めるために、フランスはいびつなプレッシング構造でオランダに迫った。プレッシングの基本配置は[4-2-3-1]。グリーズマンをトップ下に添えるノーマルな形だが、守備の基準点の割り振りに特徴があった。オランダのビルドアップを担う3バックのうち、ファン・ダイクとアケにテュラムとデンベレをぶつける。残ったデ・フライには誰もぶつけない。つまり、オランダのビルドアップをデ・フライに誘導する形だ。デンベレの献身性によって、ビルドアップでも唐突な攻撃参加でもアケが目立つ場面がほとんどなかったことは、フランスの狙い通りだったのではないだろうか。

 ボールを持たされたデ・フライの右サイドには、ラビオとテオ・エルナンデスが控えていた。前節はこの位置にテュラムが移動してくる段取りになっていたことを考えると、準備万端で迎え撃つ気満々である。フリンポンにドゥムフリースを添えることで、個の能力と2人組のコンビネーションを相手に押しつけるつもりが、スライド完了で守備の枚数もばっちりとくれば、デ・フライが苦悩する展開はまさにフランスの思惑通りであった。20分が過ぎると、デ・フライも覚悟が決まったのか、長距離の運ぶドリブルをたびたび披露するなど奮闘するが、状況の改善には繋がらなかったことも相まって、オランダはボール保持で行き止まりになることよりも速攻とカウンターを選択するようになっていく。

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Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。