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ドイツが施した対策を、真っ向勝負した日本はいかに打ち破ったのか? ドイツ対日本戦術分析

2023.09.11

日本代表欧州遠征2023徹底分析#3

カタールW杯でベスト16入りした森保一監督率いる日本代表は、続投が決まった指揮官の下で新チームが始動。「ポゼッションの質を上げる」ことを新たなテーマに掲げ、特に[4-3-3(4-1-4-1)]で臨んだ6月のエルサルバドル(〇6-0)、ペルー(〇4-1)との2連戦では新しいチャレンジへの可能性を感じることができた。9月のドイツ、トルコとの2連戦は、第二次森保体制の最初の分岐点になるだろう。約4カ月後のアジアカップ、そしてその先のW杯予選に向けて、様々な角度から欧州遠征を分析してみたい。

大きな注目を浴びる中で迎えたドイツとの一戦。カタールW杯では圧倒的にボールを保持されながらも逆転で下した強豪相手に敵地で日本は、見事1-4で勝利を収めた。ドイツの本気ぶりが見えた日本対策と、それを攻略してみせた日本の機能性を中心に、『森保JAPAN戦術レポート 大国撃破へのシナリオとベスト8の壁に挑んだ記録』の著者らいかーると氏が詳しく掘り下げる。

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 3月シリーズでSBの可変式を披露し、6月シリーズでは[4-3-3]の復活と立ち位置の調整、ボール保持にこだわらずショートカウンター中心のペルー代表戦と様々な表情を見せてきた日本代表。9月シリーズの舞台は欧州。欧州組が中心の日本にとって、移動距離問題とコンディション調整が一気に解決できる欧州での開催は願ったり叶ったりではないでしょうか。

 相手はドイツ代表です。カタールW杯を思い返すと、日本に負けてしまったことですべての歯車が狂った感のあるドイツにとって、日本戦をやり直すことがカタールW杯を払拭する本当の意味での最初の一歩になるのかもしれません。

 カタールW杯後、もう少しボールを保持しようと日本の多くの選手が宣言している中で、ドイツとの再戦はあの試合のアナザーストーリーがどうなったかを確認することができます。最大限のリスペクトを相手だけでなく自分たちにも向けた時に、どうなるのかを確認できる機会は貴重です。現実的な話をすると、日本にとって大事なデータはボール保持率よりパス成功率となります。ボール保持率が低くてもパス成功率が高いチームは、ボールを持つこともできるけれど必要ないならボール保持をやりません!ということができる可能性があるからです。

ドイツの“3段構え”のビルドアップ

 キックオフと同時に、ドイツはボールを保持する意思を見せました。対する日本はハイプレッシングを行います。特筆すべきは、三笘薫がCBニクラス・ジューレまでプレッシングをかけたこと。本来はこの試合ヨシュア・キミッヒが務めた右SBを守備の基準点とする三笘ですが、ボールを奪えそうなチャンスがあれば相手のCBまで奪いにいく果敢な姿勢は、チーム全体で共有されているようでした。

 三笘がプレッシングを仕掛けた際、DFラインがハーフラインの高さを維持しようとしていたのが印象的でした。板倉滉と冨安健洋のCBコンビにより、高いDFラインが可能になったのはカタールW杯からの大きな変化でしょう。ハイライン&ハイプレッシングでドイツに挑むことで、あの試合のアナザーストーリーを目指す日本の姿勢が開始早々から垣間見える展開となります。

 日本のハイプレッシングの弱点は、相手のビルドアップの配置が変幻自在な時、特に3バックを基本としている時にプレッシングがはまらないこと。カタールW杯では5バックへの変化によって、守備の基準点をわかりやすくする形でこの問題と向き合うことに成功しています。

 この日本の弱点に対して、ドイツはビルドアップを3段構えで行ってきました。日本の弱点を突くために、ドイツが真剣に向き合ってきたと表現してもいいでしょう。

 初手は、GKマルク・アンドレ・テア・シュテーゲンを中央に置く“3バック化”。そこにキミッヒの立ち位置が変数として足されていたのが次の手です。右SBで起用されたキミッヒは、セントラルハーフの位置に移動することを許されていました。彼が中央にいる時はレロイ・サネとフロリアン・ビルツがビルドアップの出口としてサイドに登場し、サイドにいる時はビルツがセントラルハーフとして振る舞ってもいいという約束事になっており、キミッヒの動きに一貫性がなかったとしても、チームのバランスが壊れないようになっているのです。

 最後の手は、ニコ・シュロッターベックが左SBとして振る舞ったこと。カタールW杯では、ジューレが3バックの右CBと右SBを両立するようなプレーで日本を苦しめていました。今回、シュロッターベックはジューレの役割というより、左SBとして振る舞い続けています。ドイツの配置を見ると、左SBは常駐している一方で、右SBはいたりいなかったりする形になっていました。

 このようにドイツの配置は左右非対称であり、可変式で配置が変更されつつも、最低限のバランスは維持されるように設計されていました。日本のハイプレッシングは、このような配置のチームを苦手にしてきた過去があります。そんなドイツに対して、日本が4バックのまま挑むのは、まさに親善試合の醍醐味と言えるのではないでしょうか。

ボール保持へのこだわりと、プレッシングの配置をめぐる攻防

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日本代表欧州遠征2023徹底分析

Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。