スペイン、EURO決勝進出の必然。プランBなし、勝手にプレスでカオス…ドイツと大違いだったフランス
サッカーを笑え #20
それぞれ4日前にドイツを120分間、ポルトガルをPK戦の末に下したスペイン、フランスによるEURO2024準決勝は、開始9分に先制されるも、21分にラミン・ヤマルがEURO最年少ゴール(16歳362日)、25分にダニ・オルモが3戦連続ゴールを決めたスペインが逆転勝利。史上初の同一大会6連勝(13得点3失点)で2012年以来の欧州王座へ、決勝は7月14日、ベルリンのオリンピアシュタディオンでイングランドと対戦する。
なぜジルーはフュルクルクになれなかったのか?
フランスはドイツに比べると、はるかに楽な相手だった。プランBがなかったからだ。ドイツはリードされるとラインを上げ、ボール出しにプレスをかけ、ロングボールを長身CFに当ててくるプランBがあった。対してフランスはボールを出させ、自陣に引いて相手のロストをカウンターに繫げるプランAしかなかった。
このフランスのプランAが最も脅威だったのは、彼らが先制した9分からスペインが追いついた21分まで。前がかりの相手の裏にムバッペ、コロ・ムアニ、デンベレを走らせることができた時間帯だ。25分にスペインが逆転すると試合終了まで、フランスには点を取りにいくプランがなかった。ドイツのように、いつプレスを強めてマークの組み合わせを変え、敵陣でボールロストを誘ってスペインをゴール前に釘付けにする手に出てくるのか、と思っていたが、そんなことは起こらなかった。
反対に、デシャン監督が選手交代を行うたびにチームはどんどん悪くなり、スペインのボール回しはどんどん快適になっていった。
79分、ドイツのフュルクルクに相当するジルーがCFに入ったが、シュートを撃つどころかほぼボールに触らないまま、相手ボールを追いかけ続けて試合を終えた。フュルクルクに散々やられたスペインが、ジルーを安全にコントロールした。なぜか? 単純な話、フランスはボールを持てなかったから。
フランスには受動的に自陣でボールロストを「待つ」プランAはあったが、能動的に敵陣でボールロストを「誘う」プランBがなかった。「待つ」のはリードしている状況では特に有効で、引き分けでも悪くないのだが、リードされていては無意味。当たり前だけど。
ドイツとフランスの最大の違いは、スペインのニコ・ウィリアムスとモラタとヤマルを1対1で守るリスクを冒す覚悟があったかどうか。
ドイツはあった。3トップに3バックで対応しフィールドプレーヤー10人を10人でマークして、スペインGKウナイ・シモンにもプレスをした。パスコースをなくして相手のパス回しを停滞させ、イーブンボールをフィジカルの差で自分たちのものとして、敵陣で波状攻撃を仕掛けた(このあたり詳しくはスペイン対ドイツのレビューを参照)。
フランスはなかった。3トップに4バックで対応する形を最後まで崩さず、そうするとCB2人にCFが1人で対応することになり、スペインは快適にボールを出し敵陣で回して、苦しくなるとバックパスをして時間を使った。ボール的な支配と陣地的な支配を最後まで失わなかった。
守り方は同じ、メカニズムは大違い
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。