紆余曲折の先にある成長と五輪。川崎Fの新DFリーダー候補、高井幸大に訪れた試練
フロンターレ最前線#4
「どんな形でもタイトルを獲ることで、その時の空気感を選手に味わってほしい。次の世代にも伝えていってほしいと思っています」――過渡期を迎えながらも鬼木達監督の下で粘り強く戦い、再び優勝争いの常連を目指す川崎フロンターレ。その“最前線”に立つ青と黒の戦士たちの物語を、2009年から取材する番記者のいしかわごう氏が紡いでいく。
第4回では、日本のU23アジアカップ制覇=パリ五輪最終予選突破を後方から支えた高井幸大について。一転して試練を迎えている19歳のDFに、鬼木監督が見出す成長と課題とは?
若者の成長には、いつだって紆余曲折がある。
そんなことを考えさせられる5月だった。
川崎フロンターレの高井幸大のことである。
5月3日に日本の優勝で幕を閉じたAFC U23アジアカップ2024では、大会を通じてレギュラーとして最終ラインに君臨。192cm・90kgの恵まれた体躯を生かした守備だけではなく、攻撃に変化をつけるビルドアップもこなす現代型CBとして申し分ないパフォーマンスで、パリ五輪出場切符の獲得に貢献した。チーム最年少の19歳ながらピッチ上での存在感も際立っており、今大会で評価を高めた選手の1人だと言えるだろう。
印象的だったのは、ピッチでの冷静な振る舞いだ。
敵味方ともに退場者の出たゲームが目立ったが、そうした展開にもまるで動じない。数的不利でも数的有利でも、日本のDFラインには常に落ち着いている高井の姿があった。
去年のある時期、試合中に感情をあまり出さないことには自分なりの流儀があると、こう明かしてくれたことがある。
「感情を出し過ぎるとよくないので。感情でサッカーをやるのが一番よくないと思っているんです。例えば試合中に相手の選手にイライラするのはよくないですよね。逆に自分がそれをさせることで、相手をイライラさせるテクニックもある。もちろん、怒ることはありますよ。味方のボールの失い方が悪いとか、中盤が守備で戻ってこないとか。そこはチームとして大切なので言いますけどね」
優勝や出場切符のかかったビッグゲームでも、普段通りのパフォーマンスを発揮していたように見えたのも、そうした心がけの賜物でもあったのだろう。
確かな自信をつけているのは、間違いなかった。
帰国後、麻生グラウンドでの囲み取材でも、その表情から充実ぶりがうかがえた。言葉が少ないのは相変わらずだったが、「出場権を取るのが最低目標だったので、優勝もできたし良かったかなと。いろんな人とコミュニケーションが取れましたし、成長できたんじゃないかなと思います」と、手応えを口にしている。
帰国後初スタメンの鳥栖戦はJ初ゴールも苦い記憶に
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Profile
いしかわごう
北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。Twitterアカウント:@ishikawago