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サガン鳥栖フィジカルコーチが掘り下げる、加速の前提になる「止まる」動作とは?

2024.02.15

サガン鳥栖フィジカルコーチが教えるGPSデータ活用ガイド 第5回

トッププロから育成年代まで多くの現場でGPSの導入が進んでいるが、その活用法には試行錯誤しているのが現状だ。そこで2022シーズンJリーグ首位の平均スプリント回数を記録したサガン鳥栖の野田直司フィジカルコーチが「GPSデータの活用法」をガイドする。

第5回のテーマは、野田コーチが重視している「止まる」動作を掘り下げる。同連載ではGPSの加減速の値に注目してきたが、その前提となる概念について考えてみよう。

「止まる」のポイントは3歩前

——連載も第5回を迎えました。今回はGPSから少し離れて、野田コーチがこだわりをもっている「止まる」動作について掘り下げてみたいと思います。

 「サッカーでは、スペースに向かって走っていきながら、シュートを打つにしてもクロスにしても、どこかのタイミングで必ず『止まる』動作が存在します。守備の時のアプローチや戻る作業もそうですが、『どの速度で止まれるのか』という能力があり、それによってはじめて目標地点に向かうスピードが決まってきます。その地点まで10の力で行ったとして、止まる能力が8しかなければマイナス2のぶんの力が流れてしまい、相手に入れ替わられたりということが起こります。なので、8の力でしか止まれないのであれば、8の力でしか行けません。いくら加速のトレーニングをしても、止まれる能力に応じた加速しかできないのです。『止まる』ができて初めて加速の能力が出せるようになるので、トレーニングではまず『止まる』にフォーカスさせてもらっています」

——「止まる」能力はどういったこところからわかるのでしょう?

 「例えば、ボールを刈れる系の選手、相手の懐に入ってボールを突っつける選手は、たくさんステップを踏んで止まっていません。最後に左足で踏み込むとすれば、その2歩前で急ブレーキをかけて減速しながら、次の足で向きを調整して、最後の一歩でピタッと止まる。最後まで全力で行って上体が前につっかかってしまうと、重心が前に行ってしまい、次の動作、アクションをする時の1歩が前方向に流れてしまいます。次の動作にスムーズに移行するには、上体が完全に前に流れずにその場で止まらないといけません。

 『どっちも行けるよ』という止まり方ができれば、相手が(向かって)右に行く時は右足を出せるし、逆側に行ったら左足を出せる。相手が後ろに下がったら、さらに右足で前に出ていくこともできます。基本的に動作のパターンは決まっていて、左足で止まった場合、右に行く時は右足を前に出して右足を外旋させる。向かって左に行った場合は、右足を内旋させて、後ろに行く時は右足を180度外旋させて、といった動作になります。

 ちゃんと止まれていないと、逆を取られた時に足がクロスになってとっさに手が出てしまい、相手を引っ張ってファウルで倒すことになります。逆に言うと、手が先に出ちゃうと足が後ろに残ってしまうのでワンテンポ遅れてしまいます。これは人体の構造上そうなっているので仕方がないです。ただ、逆を取られた時にどうしても反射的に手が出てしまうことがあるので、反応が遅れた時でも骨盤を上げて相手のコースにちょっとでも影響を与えられるように体を寄せるか、それが無理だったら体を畳んで次の1歩に生かしていく。こうした余計な方向に力を流さない、止まるためのテクニックを前提として持っていてもらいたいと思っています」

——極端な例かもしれませんが、崖に向かっていく車のチキンレースに似た印象もあります。度胸も必要だけど、ギリギリで止まるための操作やブレーキをわかってないといけない。そうした体の使い方までトレーニングしていくんですね。

 「人間の動作は決まっているので、一つひとつの動作を教えて苦手なものを消していくボトムアップから行くのか、原則や全体観だけ伝えるトップダウンから行くのかという考えはありますけど、チーム全体でやる時はできるだけトップダウンでやっています。止まり方を分解して伝えるよりも、エコロジカル・アプローチというか、自然にその動作が出るような仕組みのトレーニングを組んでいきます。

 もちろん個別にも、特定のステップをうまく踏めない選手がいれば、今の話を出して1個ずつ『こっちだったらここを内旋させて開く』『外旋させて、足を出すんじゃなくて、骨盤から挙上させてついていく』などというところをボトムアップ方式で伝えていきます。両方の方向からアプローチして、少しでもパフォーマンスを向上させようとしています」

——ボールを刈れる選手は、そういうことが自然とできているのでしょうか?

 「はい、教えられる前にやれちゃっていますよね。コーディネーション能力や筋力、間合いに対する恐怖心がないとか、いろんな理由があると思うんですけれども、相手の間合いに行ける選手は初めから行けますね。フットボリスタさんも関わっていたJリーグのテクニカルリポートに『バイエルンと川崎Fのボールに寄せる間合いの違い』というデータがありましたよね。そこで出てきた1mの違いも、多分フィジカルに原因があると思います。

 基本的には、体幹(腹圧)がしっかり入っていて腿前と裏に同時にスイッチが入ることが大事ですが、ブレーキには腿前のエキセントリックな力がある程度必要です。そこが強い選手はきちっと止まれます。骨盤や背筋だけでなく、上体が倒れるのをしっかり我慢して、起こすことができる力も必要になります」

Photo: Getty Images

——自然とそういう動作を出すために、どのような練習をしているのでしょう?

 「考え方は、フラン・ボッシュのコンテクスチュアルトレーニングに近い感じです。例えば、5㎏ぐらいのメディシンボールをある地点に置いておいて、そこに向かってスプリントをしてボールにタッチします。タッチにいく際に、『タン・タン・タッチ』と声をかけるのですが、3歩前でブレーキをかけて、次にメインのブレーキ、最後は調整、そして体を落とすという。こういうのをキャンプの最初はやったりします。

 そこから派生させていって、次はボールを持ち上げて走り抜けるようにします。走りながらではメディシンボールを上に持ったまま維持できないので、上体をしっかり起こしながら重心を落とすようにしないといけない。そうすると、上体が倒れるのを起こす力が鍛えられます。ボールを持って後ろに戻るパターンは、左斜め後ろに戻るように指示すると、左へのターンの動作が出てきます。重いボールを持っているので、自分の重心の中に体重をのっけないと足を踏めないので、自然とそういう動作が出るようになります」

——「止まる」の動作、筋力、動き方を自然と鍛えていくことで、手を伸ばして相手を止める態勢にならないように習慣づけているんですね。

 「大阪体育大学の下河内洋平先生という、ストップ動作を研究されている方に話をうかがった時に、『厳密に言うと、ボールを拾うのはちょっと低すぎるけど、意識づけや動作の導入としてはいいんじゃないか』ということになりました。先生も『ストップ動作は3歩前から』と考えられていました。

 筑波大学の谷川聡先生は『同じ考え方で、棒高跳びの選手たちが7歩前でそれをしている』とおっしゃっていました、最速に入った後、7歩前で減速して、そのあと調整のステップを踏んで飛びに行くロジックと一緒だろうと」

——谷川先生自身がハードルの選手でしたし、何歩前で減速というのは陸上競技のロジックとしても理にかなっているんですね。

 「棒高跳びの指導で『もっとギリギリまで行け』みたいな曖昧なことは言わないと思います。『7歩前で最大速度から減速をして、ステップを踏んで飛びに行く』のが効率的とわかっているので、明確な指示が可能です。同じようにサッカーでアプローチに行く時も『間合いが遠い、もっと寄せろ、戦え』という言葉だけではいけないと思います」

Photo: SAGAN DREAMS CO.,LTD.

……

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Profile

ジェイ

1980年生まれ、山口県出身。2019年10月よりアイキャンフライしてフリーランスという名の無職となるが、気が付けばサッカー新聞『エル・ゴラッソ』浦和担当に。footballistaには2018年6月より不定期寄稿。心のクラブはレノファ山口、リーズ・ユナイテッド、アイルランド代表。

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