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製造業に通じる課題がサッカーにある。熟練工と名選手の思考をAI化するLIGHTzの挑戦

2020.10.27

サガン鳥栖が描く「AI×育成」の未来像#4】

近年様々なシステムやサービスとして社会に普及しつつあるAI(人工知能)は、将棋やチェスでも活用が進んでおり、その波はスポーツの世界にも押し寄せている。サッカー界でもマンチェスター・シティを筆頭に世界中のクラブがこぞって導入を試みているが、いち早く育成現場での運用を発表したのは日本のサガン鳥栖だった。

すでにユース年代で好成績を収めており、トップチームにも松岡大起らアカデミー出身者を多数輩出している鳥栖は、「育成型クラブ」への転換期にある。その歩みを加速させるべく、2018年1月から提携しているアヤックスに続き、今年5月にAI企業のLIGHTzとパートナー契約を締結した。名門のノウハウと最先端のテクノロジーの融合は、どのような化学反応を起こすのか。新プロジェクトを主導する3人へのインタビューを通じて、鳥栖が描く「AI×育成」の未来像に迫っていく。

最終回では、LIGHTzでサッカー事業を担当する関祐樹プロジェクトマネージャに、鳥栖と開発している 「サッカー×AI分析プラットフォーム」を紹介してもらった。

製造業からサッカー界へと進出した理由

――まずは、読者に向けて御社をご紹介いただいてもよろしいでしょうか?

 「私たちLIGHTzは2016年10月に立ち上げられたベンチャー企業で、元はO2という製造業向けのコンサルティング会社です。O2が製造業向けの技術コンサルティングを行う中で、現場から『熟達者の技術を次世代に継承したい』という声が数多くあり、彼らの知見――知見とは、“手順”ではなく、頭の中に蓄え込まれた“カン”や“コツ”などの暗黙知のこと――を会社のマニュアルや社内ルールに落とし込むコンサルティングを行っていました。このテーマについては、多くの企業が同じ悩みを抱える中で、熟達者一人ひとりにヒアリングをしていては、コンサルタントの人手も時間も足りなくなってしまい広く貢献できません。それを解決するためにAIを使った技能継承サービスを始めようと、LIGHTzが立ち上げられました」

――製造業からサッカーというまったく異なる分野に進出されたのは、なぜでしょう?

 「私たちは製造業における『熟練工』のような存在を、スポーツ界においては『レジェンド』と呼んでいます。彼らのような熟達者本人にとっては豊富な経験や知見をベースに、美しい伝統工芸品を制作できたり、絶妙なスルーパスを出せることは当たり前で、それを初心者や後継者に教えようとしても、どこから話を始めたらいいのか、どのように伝えればいいのかわからない。他の人には意外なことでも自分には当然なことだから、と話す必要がないように思ってしまう。こうした悩みを抱えているという点で共通項があると、私たちは考えていました。課題が類似しているため、AIシステムへの落とし込みについても共通項が多いというのが理由になりますね」

――そこからなぜ、サガン鳥栖と協業することになったのでしょうか?

 「そもそも弊社が佐賀へ進出した理由ですが、展示会をしていた時に、佐賀県で地域創生を担当している方が弊社のブースに来てくださいました。そこで熟達者の知見を誰でも学べるよう後世に残る形で構造化・可視化するAIサービスに興味を持っていただき、お声がけいただいたんです。それが一つのきっかけとなりました。

 佐賀という地域は有田焼などの伝統工芸品だけでなく、サガン鳥栖などのスポーツにも地域を活性化させる産業として力を注いでいらして、その施策の一つとして佐賀県自身も『SAGAスポーツピラミッド構想』を掲げています。地元からトップアスリートを輩出して、子供に夢を与え、競技人口を増やし、それが競争力を生み、さらに次世代のトップアスリート育成を加速させるという構想です。これと同様にサガン鳥栖も育成クラブとして、アカデミーからトッププレーヤーを生み出して、サガン鳥栖に憧れてプレーする子供たちを増やそうとしています。この好循環の促進は私たちの事業理念とも親和性が高く、三者の思惑が一致し昨年10月から協業を始めました」

J1第8節のFC東京戦ではサガン鳥栖アカデミーU-18に所属する佐賀県出身の中野伸哉が、クラブ史上最年少となる16歳11カ月でトップチームデビューを飾っている

選手の思考を再現するAI「ORGENIUS®」

――その三者で開発されている「サッカー×AI分析プラットフォーム」についても教えていただけますか?

 「私たちは『ORGENIUS ATHLETE』というAI分析プラットフォームを開発しています。弊社がもともと製造業向けに販売している独自のAI『ORGENIUS®』がベースとなっています。みなさんがイメージされるAIは何か情報を入れると、その答えや数値・確率などの結果を出してくれますよね。例えば、動物の写真からそれが犬なのか猫なのかを判別してくれるAIもあります。でもそこには、その結果を導き出した根拠や思考プロセスを確認する手段がないんです」

――形から判断したのか、色から判断したのか、模様から判断したのかわからないと。

 「おっしゃる通りです。AIはビッグデータ解析が多く、何千もの変数を設定・生成し、計算することで相関関係を見つけ出し、その特徴を分析していきます。例えば工場において機械にIoTセンサーを付ける際には、何千個ものセンサーを付けて不良品ができてしまう原因となる変数等々を導き出しているんです」

――ただ、そうするとデータと結果の因果関係が複雑になってしまうので、説明できなくなりますね。

 「その通りです。ただ、『ORGENIUS®』はビッグデータ型ではなく、『BrainModel®』(ブレインモデル)を作成して構築する教師データ型のAIです。例えば製造工程において不良品が出た場合、熟練工でないとなかなか解決できないのであれば、その方にヒアリングして思考を言語化した上で、思考のネットワークを作ります。次に、その思考のきっかけとして着目される『違い』を調べていく。彼らがどんな変数に着目しているかということですね。『温度の違い』『振動の違い』『音の違い』で予見できるなら、そうした変数を『温度センサー』『振動センサー』『音波センサー』としてデジタルデータで取得し、品質が良い時の平均データの波形と悪い時の平均データの波形を比較する。そうすると『ピーク高さのズレ』『面積のズレ』『ピーク位置のズレ』が可視化・数値化できますよね。このデータの特徴と熟練工のブレインモデルを繋ぎ、データから熟練工の思考を類推して品質を安定させる解決策・ヒントを現場に提示するんです」

――お話を聞いていて思い出したのが、クリスティアーノ・ロナウドのドリブルを分析した心理学の研究です。彼の目線をトラッキングしてみると、対峙しているDFの体やその背後のスペースを他の選手よりも見ていたんですね。それらの変化をグラフで表して、ドリブルで突破する時のポイントを形や数として捉えることで、ロナウドの感覚をAIが理解していくということでしょうか?……

サガン鳥栖が描く「AI×育成」の未来像

Profile

足立 真俊

1996年生まれ。ウィスコンシン州立大学でコミュニケーション学を専攻。卒業後は外資系OTAで働く傍ら、フットボリスタを中心としたメディアで執筆・編集経験を積む。2019年5月より、footballista編集部の一員に。プロフィール写真は本人。Twitter:@fantaglandista