FEATURE

誤解だらけの“風間サッカー”。じつはビビリ? 気弱? あがり症?

2018.11.16

【Jクラブ特集第2弾】集客したければ魅了せよ――偶然には頼らない名古屋グランパス Episode 8


風間監督インタビュー後編のテーマは「風間サッカーの誤解を解く!」
練習は“止める蹴る”しかやらない? テクニックのある選手が好き? じつはメンタルが弱い?
怒られるのを覚悟で北健一郎が風間監督に体当たりします!


前編はこちら

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── もう一つ、今回のインタビューでお聞きしたいテーマがありまして……。

 「面白い質問を楽しみにしてるよ」


── ハードルを上げないでください(笑)。

たじろぐ北健一郎


── グランパスのサポーターだけじゃなくて、サッカーファンのSNSを見ていると「風間サッカー」というワードがよく出てくるんですね。

 「うん。確かに、風間サッカーっていうのはよく聞かれるね」


── ただ、世の中の人が考えている「風間サッカー」というのが実は誤解されているんじゃないかと思うんです。「“止める蹴る”しかやらない」とか「守備の練習はしない」とか。

 「基本的に誤解を解く気はない。なぜかといえば、俺自身も、俺のサッカーが何かというのをわかっていない……と言ったら語弊はあるけど、常に変わっていくものだから。だから、『風間サッカー』というものなんてないんだよ」


── え、「風間サッカー」はないんですか? 風間監督といえば、誰よりも技術にこだわってサッカーをすると、多くの人が思っていますよ。

 「みんな、そう言うんだよ。『風間さんのサッカーはポゼッションですよね』とか『うまい選手が好きなんですよね』とか。でも、自分からポゼッションなんて言葉を使ったことは1回もないからね。あくまでも、俺は選手ありきでサッカーをやってるから。選手のキャラクターによって変えるし、一つのスタイルに固執しているわけでもない」

“ポゼッションサッカー”という言葉は使っていない


── 世間の人たちのイメージは「風間さんはこういう選手が好きだからこうだよね」みたいなのは言いがちですけど、風間監督はその選手に合ったところのものを引き出したいというのが強いのでしょうか。

 「今のチームでいえば、ジョーは素晴らしい選手になっている。でも、日本に来た時からそうだったかといえば、違うわけで。選手がどんどんうまくなって、同じ目線でつながっていく。そういうのを見たいし、作っていくのが自分の仕事だと思っている。逆に言うと、1+1=2です、2×2=4ですみたいな、正解を探すようなのは、俺は苦手だから」


── 選手同士の化学反応を起こしていきたい、と。

 「そうだね。あえて言えば、“形がないのが形”というのが俺たちのサッカーなのかもしれない。だから見ている人からすれば『わかりづらい』となるのかもしれないけど、それでいいと思っている。だって、俺自身もわからないんだから(笑)」


── 今シーズンは開幕から8連敗も経験して最下位にいる時期もありました。そこから7連勝もして上がってきています。ただ、W杯の中断期間で前田直輝選手、金井貢史選手、エドゥアルド・ネット選手、丸山祐市選手、中谷進之介選手など大型補強を行ったからだろうという声もあります。これについては、どう思っていますか。

 「その通りだと思いますよ」


── え……そこは否定するところじゃないんですか?

 「序盤戦を戦ってみて、不足しているポジションがあったから、そこをクラブが頑張って補強してくれた。それは事実だから。ただ、チームとしてやることを変えたつもりはないし、前半戦でのベースがあったから、すぐにフィットしてくれたというのもある」


── 誰を取りたいとか、こういう選手が欲しいというのは密にコミュニケーションを取っていると思うんですけど、その補強に関してもうまくベクトルをとれているんでしょうか。

 「補強ってお金を出せば来ると勘違いしている人も多いと思うけど、タイミングもあるし、契約期間もあるし、そんなに簡単なものじゃない。自分がここだったら輝けるんじゃないか、うまくなれるんじゃないかと思ってくれたから、シーズン途中という難しい時期にもかかわらず、うちを選んでくれたのは本当に感謝しています」


── 風間監督と一緒にやりたいという選手も多かったんじゃないですか。

 「それは聞いてみないとわからないけど(笑)。でも、そうだとしたら素直にうれしい。もう一つ、クラブ全体としてのビジョンに共感してくれたというのもあるんじゃないかな。『ここでやりたい』と思って、強い覚悟で来てくれた選手たちだから、これだけのプレーを見せてくれる。俺が一番大事にしているのも、そこだから」

「名古屋でプレーしたい」という強い覚悟が最も重要


── 風間さんの指導というかチーム作りというのは、選手に対して常に“半歩上のハードル”みたいなのを気づかせて、そこに導いていくというイメージがあります。

 「こうなったら、ここに動いて、こうやってパスを出して……ときっちりパターンを作ってやったとしても、最終的には選手の判断だから。そこはごまかしようがない。だから、選手たちがどれだけ同じ目を持てるか。出すべき時にパスを出せるか。どれだけ強いボールを止められるか。そういうのは選手同士の相乗効果で上がっていくものだから。そこへのアプローチはずっとしていきますよ。『風間は“止める蹴る”ばっかりやってる』と言われたとしてもね(笑)」


── それが積み重なって強い、面白いチームになっていくと。

 「正確性というのは、速さだから。正確性はどういうことかというのをちゃんと伝える。ちゃんとトレーニングする。その積み重ねが、驚きになっていく。100持っている選手を80でやらせても面白くはない。100を持っている選手には120を要求すればいいし120のことをできるようにすればいいし、80の人も100にしたい」


── 38歳の玉田圭司選手が2度目のブレイクとも言えるようなプレーを見せています。

 「タマは自分の過去にとらわれていないよね。一個前に行こうとしているし、自分に期待しながらやっている。そういう気持ちがあれば年齢なんて関係なくて、誰だってうまくなれる。18歳だろうと、38歳だろうと」


── 風間監督の本を読んでいてDREAMS COME TRUEの歌で「1万回ダメでも1万1回目は何か変わるかもしれない」(何度でも)というフレーズで気づかされたという話がありました。うまくならない選手がいたとしても、諦めずにアプローチし続ければ、1万1回目は気づいてくれるかもしれないと……。

 「どうやって伝えればいいか、どこまで伝えればいいか、そこはもうずっと考え続けている。俺たちが関わるのは“人”だから。一人ひとり、考え方も違えば、成長スピードも違う。でも、全ての選手に共通しているのは、自分で考えられる選手にしてあげたいということ」


── 我慢強さが求められますね。

 「指導者が一番やっちゃいけないのは、諦めること。1回言っただけで伝わる選手もいれば、1万回言っても伝わらない選手もいる。だから伝わるまで、1万回でも、2万回でも言う。うちのコーチたちも、誰かが『伝わらないんじゃないか』と弱音を吐いたら、『まだ2000回ぐらいしか言ってないんだから頑張ろう』と言い合ってる(笑)」


── 歌つながりですけど、風間さんは斉藤和義さんの「攻めていこーぜ!」という歌が好きだとお聞きしました。斉藤和義さんが風間さんのために書いたんじゃないかぐらいの歌詞の内容になっていて。2015年ぐらいの歌ですけど、どこで出会ったんですか。

 「出てすぐじゃないかな。斉藤和義さんの歌はちょこちょこ聞いていて」


──「攻めていこーぜ! 守りはゴメンだ。叱られるなんてほんの一瞬のことだよ。」とか、風間監督の哲学そのものなんじゃないかと。

 「みんな勘違いしてるんだけど、俺は弱気でビビりだから攻めるんだって」


── 風間監督がビビりっていうのは全く正反対のイメージだと思いますよ。

 「小さいころから怖いものしかないし、今だって本当は一言一言が怖いんだから。自分が選手たちに言っていることが、もしかしたら逆かもしれないよね。自分は弱いと思っているし、自分はそんなに自信家でもないし、小さいころからずっと劣等感の中で生きてきた人間だから。それがだんだん厚い皮になってきたような気がする」


── そうだったんですか……。「敵を味方につけちゃうくらいのイキオイで」というフレーズがあって、これはまさに観客を含めて魅了してしまう、風間監督のサッカーのようだなと。

 「攻撃的なサッカーをしたいと思ってるというよりは、それがサッカーだと思ってるから。みんな、ボールを操って、点を取るのが楽しいからサッカー選手になったと思う。だけど、だんだんとそれを忘れていってしまう。せっかく来てくれるお客さんには、選手が楽しんでいる姿を見てほしい」


──「攻めていこーぜ!」の中に「好きなことだから緊張する」というフレーズもあるんですが、風間監督は緊張することはありますか。

 「小さいころは試合前に吐きそうにったこともいっぱいあったよ。小学校の時だって1人で勝たせないといけないと思っていたから、ずっと吐き気がしていた。18歳で日本代表に選ばれた時もそう。なぜか、周りからは『風間は緊張しない』と思われてたんだけど(笑)。でも、緊張するのは決して悪いことじゃないし、良いプレーをするには必要だと思っている。現役時代は『自分は2人いる』と思っていた」


── 自分は2人いる、というのは?

 「すごく弱い自分と、すごく強い自分。2人の風間八宏がいて、グラウンドの中では『すごく強い自分』でいようとする」


── ある種のマインドコントロールをしていたと。

 「小学生の時、強い相手と決勝でやることになった時、前の日にグラウンドに行っていた。何をするかといえば、グラウンドを見るだけ。そうすると、ちょっと気持ちが楽になるんだ。『普通のグラウンドじゃん。ボールだって変わらないじゃん』と。健気な話でしょ。みんなに勘違いされているけど、俺は弱いんだって。弱いんだから、あんまりみんな俺を責めるなって。これはちゃんと書いておいて(笑)」

最後は「あんまり責めないで」と笑って釘を刺す


~風間監督のインタビューを終えて~

 川崎フロンターレ時代から明らかに変わったなと感じるところがありました。名古屋グランパスにおける風間監督は一人の監督という枠を超えて、経営者の目線でチームを見ている。

 J2に降格した昨シーズンに就任した風間監督が目標に掲げたのが「豊田スタジアムを満員にしたい」でした。1シーズンでのJ1復帰でも、面白いサッカーをしたいでもなく。

 豊田スタジアムの収容人数は4万5000人。そこを満員にするのはかなりハードルの高い目標です。チームが強くなるだけではとても達成できない。

 そのために、現場の人間も、フロントの人間も、そして地域の人間も、グランパスに関わる全ての人が一つになる必要がある。

 「豊田スタジアムを満員にしたい」には、風間監督のそんなメッセージが詰まっていたんだと思います。

 8月11日の鹿島アントラーズ戦で4万3579人という最多入場者数記録を打ち立てたその時、チームは最下位。

 「最下位のチームに4万人が入るなんて世界的に見てもあんまりないよな」と風間監督は笑っていましたが、8連敗してもブレなかった風間監督と選手、信じて支えたフロント、応援し続けたサポーター、すべての力が合わさったからこその「豊スタ満員」だったんだと思います。

最後まで気さくな風間監督でした

Edition: MC Tatsu
Photos: Mai Kurokawa

Profile

MCタツ

1980年、ニューヨーク生まれ。株式会社スクワッド、株式会社フロムワンを経て2016年に独立する。スポーツの文字コンテンツの編集、ライティング、生放送番組のプロデュース、制作、司会もする。湘南ベルマーレの水谷尚人社長との共著に『たのしめてるか。2016フロントの戦い』がある。