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白井裕之が体験したオランダ監督ライセンスの構造と、名監督が生まれる必然

2024.06.06

【特集】「欧州」と「日本」は何が違う?知られざる監督ライセンスの背景 #8

日本の制度では20代でトップリーグの指揮を執ったナーゲルスマンのような監督は生まれない?――たびたび議論に上がる監督ライセンスについて、欧州と日本の仕組みの違いやそれぞれのカリキュラムの背後にある理念を紹介。トップレベルの指導者養成で大切なものを一緒に考えてみたい。

第8回は、アヤックスアカデミーの分析アナリストなどオランダで10年以上の指導者キャリアを積み、現地でUEFA Bライセンスを取得した白井裕之氏(現FC琉球トップチームコーチ/日本でS級ライセンスも取得)に、オランダの監督ライセンスの構造や理念、アルネ・スロットやテン・ハフに代表される新世代監督の強みについて教えてもらった。

答えは現場にある。Bライセンスから1シーズン研修帯同

――白井さん、お久しぶりです。テン・ハフスロットなど最近注目の監督も出てきていることもあり、あらためてオランダのライセンス事情について聞かせてください。白井さんはオランダでUEFA Bまで取られたんですよね?

 「はい。UEFA Bまで取っていますが、その先は難しいということでした。UEFA Bを取った次の年にUEFA Aにインターンみたいな形で1年受けさせてもらったので、Aの内容も知ってはいます」

――どういう流れでUEFA Bライセンスを受講したんですか?

 「CIOSというオランダの職業訓練校に位置するスポーツ専門学校があり、そこで取りました。ファン・ハールなど昔の有名な監督は大体CIOSでライセンスを取っています。僕もそこでBライセンスまで取りましたが、 Aライセンスより上はポイント制になっていて、選手時代の実績も評価されます。元代表選手であれば難なくボーダーラインを越えられるんですけど、私のようにプロ選手経験がないとそこで切られてしまいます」

――指導者としてのポイントももちろんあるんですよね?

 「もちろんです。1年監督すると1ポイント、優勝すると2~3ポイントをもらえます。プロ選手の実績がない人は、そうやってコツコツ貯めていくしかないですね」

――CIOSはオランダサッカー協会の監督ライセンスとはまた別にあるということですか?

 「そこが結構複雑なところで、監督ライセンスはオランダサッカー協会管轄の全国各州の場所で取れるんですけど、その他にも先ほどのCIOSやALO(アムステルダムスポーツ大学)などの職業訓練校や大学でもライセンスを取れます。特にBライセンスまでなら様々な方法で取得可能です。オランダで面白いと思ったのが、どこの学校でも教える内容はほぼ一緒なんですけど、それを誰が教えるかがすごく重要視されていること。講師としての経験だけじゃなくて、普通に国際レベルの監督経験がある人が教えてくれて、やはりそういった教わりたい講師がいる場所に人が集まります。受講者が講師を選べる形ですね。講師で選ぶのか、場所で選ぶのかという選択になりますね」

――講師によって講義の内容も変わってくるのでしょうか?

 「基本的に7、8割は教えることが決まっているんですけど、講師の考えでこれが必要だと思ったらそこを多めにできるなどの柔軟性もあります。講師によって戦術、チームマネジメント、コンディショニングなどどれを厚めに教えるかは変わってくるようです」

――オランダ国内で取得できる監督ライセンスは、すべてイコールUEFAライセンスという理解で問題ないでしょうか?

 「その通りです。各ライセンスのテーマも明確で、 Bライセンスの目的としては自分のチームをどうやったら作れるか。なので、コンディショニング、戦術、チームマネジメントを教わります。例えば、コンディショニングに関してはレイモンド・フェルハイエンのサッカーのピリオダイゼーションをベースにして、1年間どうピリオダイゼーションをしていったらケガ人がなく右肩上がりにコンディショニングが良くなっていくかなど、明確なメソッドを教えるのが1つの特徴だと思います。

 あと僕がオランダのライセンス講習で最も感銘を受けたのは研修制度ですね。オランダ語でスタージュというんですけど、1年間アシスタントコーチとしてある一定基準のレベルのクラブへ行って、その監督の下で1年間アシスタントコーチとして学びながら実践しています。ヨーロッパ的にいう徒弟制度。親方から学ぶようなイメージですね」

Photo: FC Ryukyu OKINAWA

―― Bライセンスから1年間の実地研修があるんですか?

 「Bライセンスでもあります。1週間に2回の練習に出て、試合には必ず出席。なので自分のチームを持っていたら結構大変です。そのチームのトレーニングに参加して、試合もちゃんとベンチに座って、そこでの問題を抽出して分析して、指導実践で実行する。シーズン最初は自分の研修先の分析、どんな選手がいて、どのレベルのチームで、例えばアヤックスのU-15でやるとなったら、そこの選手のプレゼンがあって、どういうような試合で、監督にはどういうフィロソフィがあって、攻撃・守備・攻守の切り替えの4局面についてどういうゲームモデルがあって、監督としてはどんなタイプの人で、マネージメントをどうしていて、コンディショニングはどんなモデルで回しているのか。その上で、カリキュラムの中で今のチームにある実際の問題を課題として抽出して、じゃあトレーニングでその改善を実践してくださいということをやります」

―― Bライセンスからめちゃめちゃ実践的ですね!

 「例えばアヤックスのU-15だったら、対戦相手がユトレヒトのU-15でこういうサッカーをしてくるチームに対してビルドアップがうまくいかなかった、などの具体的なシチュエーションを作り出せます。もう1つメリットがあって、アヤックスのU-15に1年間コーチとして帯同するわけじゃないですか。アヤックスとしては、そこでもう採用活動をしているのと一緒なんですよね。『この人いいな』と思ったら、そこで採用します。ゼロから人を集めるよりは人格も見られるし、仕事ぶりもわかるので効率的だと思います」

――実質的なインターン制度みたいなものですよね。あえてデメリットを挙げるとすれば、自分のチームがある場合はきつそうですね。

 「そこは受講するための1つのハードルになるのはありますね。研修先への参加については最低頻度などが決まっている中、より学びの機会と質を求めて自分で研修先のクラブを選択します。プロチームだとトレーニングの時間帯は日中が多く、自分の仕事や学校の時間割の都合でプロクラブに行きたいけど行けないから夜にトレーニングがあるアマチュアのチームでという判断もできます。そこは自分の仕事に合わせてスケジュールを組んでいく形になりますね」

クラブとの交渉も参加者がやる!?ピッチ外も実践あるのみ

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Profile

浅野 賀一

1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。