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何度でもアップダウンし続ける左サイドバック。三浦颯太が見据えるのは川崎での躍動とその先の景色

2024.02.23

[特集]個人昇格選手の可能性
#7 三浦颯太(ヴァンフォーレ甲府→川崎フロンターレ)

近年だとFC岐阜からヴィッセル神戸にステップアップした古橋亨梧、松本山雅や水戸ホーリーホックで「J2最速」と言われた前田大然など、J2からの個人昇格でJ1、海外移籍、そして日本代表にまで登り詰めた例が増えてきている。ポテンシャルのあるサッカー選手は出場機会を得れば「化ける」。2024シーズンに臨む個人昇格組の可能性を古巣の番記者に解説してもらおう。

第7回は、ヴァンフォーレ甲府でルーキーイヤーから頭角を現し、年末には日本代表にも選出。プロ2年目となる今季は川崎フロンターレへと完全移籍を果たした三浦颯太だ。

「どこまで成長するか、恐ろしい」(森淳・ヴァンフォーレ甲府スカウト担当)

 三浦颯太はルーキーイヤーをヴァンフォーレ甲府で過ごし、川崎フロンターレへの移籍を勝ち取った。大卒1年目の2023年シーズンはけがや脳震盪もあってリーグ戦でフル稼働できたわけではないが、後半戦は安定したプレーでチームを牽引。出場した試合では左サイドで高パフォーマンスを続け、川崎以外にも複数のJ1クラブが獲得に動いていたという事実が評価の高さをうかがわせる。元日に日本代表デビューも果たした左サイドバックの成長物語はJ1で第2章に突入する。

 「どこまで成長するか、恐ろしい」。J1に個人昇格した三浦を語る上で、甲府スカウト担当の森淳氏の言葉が1番しっくりとくる。シーズンが始まる前のチームがキャンプをしていた宮崎市内で一緒に食事をしていた時、森スカウトの言葉に込められた熱は今も鮮明に思い出せる。

 森スカウトは選手の「成長」を見る人だ。1年前、1カ月前、1週間前、前の試合……。選手の変化から成長を感じ取り、未来の成長幅を描いてどんな選手になっていくかと思索にふける。だから、大卒や高卒の選手を獲得する時に「どんな選手ですか?」と質問した時はプレーの特長や良さを語りながら、足りない部分、課題も挙げてくれる。

 それは選手の伸びしろでもあり、甲府で経験を積んでプロとして戦える選手になっていくための道筋となる。2、3年先を見ながら、今在籍している選手の年齢層も踏まえ、獲得した選手が成長した時に戦力になっているという「循環」は森スカウトの目が生んでいると言える。

大学3年での入団内定。そしてJリーグの舞台で経験を積む

 甲府という規模の小さなクラブは環境や待遇でほかのクラブにかなわない。多くのクラブが関心を示す「完成した選手」の獲得を望んでも、思い通りにチームへ迎えることはできない。必然的に競争相手が少ない未完成の、伸びしろの大きい選手を掘り起こして、チームに加えていく必要がある。伊東純也や稲垣祥、佐々木翔ら甲府でプロキャリアをスタートして羽ばたいていった多くの選手が、この循環の中で成長してステップアップしていった。三浦もその文脈に沿った選手なのは間違いない。……

Profile

雨宮丈貴(山梨日日新聞社)

1988年、山梨生まれ。大学の4年間以外は山梨で生活。大学卒業後の2011年に山梨日日新聞社へ入社。経済、地域担当を経て2015年からスポーツ担当。2018年からVF甲府担当を務め、クラブ史上初の主要タイトル獲得となった2022年の天皇杯優勝も取材。人生最初のサッカー観戦は旧国立で行われたJリーグ開幕戦の川崎―横浜(記憶はほぼなし)。