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サンフレッチェ広島の新スタジアム「エディオンピースウイング広島」の価値(後編)。最新型スタジアムに求められる機能とは?

2024.02.06

なぜ、新プロジェクトが続々発表?サッカースタジアムの未来#2

Jリーグ30周年の次のフェーズとして、「スタジアム」は最重要課題の1つ。進捗中の国内の個別プロジェクトを掘り下げると同時に海外事例も紹介し、建設の背景から活用法まで幅広く考察する。

第2回は、「エディオンピースウイング広島」の施設面にフォーカス。最新型スタジアムに求められる機能について思いを巡らせてみたい。

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「屋根」と「芝の養生」の両立は可能か?

 広島の新スタジアムは、なんと言っても外観が特長的だ。

 「ピースウイング」の名の通り、羽根のような白く大きな屋根がメインスタンドとバックスタンドを包むように覆っている。その「ウイング」を支えるように三角形の支柱が存在し、その支柱によって開けられたスペースから、陽光と風が入りこむことによって、芝の養生の助けとなる。

 大きな屋根がついているサッカースタジアムの場合、どうしても屋根の影がグラウンドを覆ってしまい、その部分に陽光が当たりづらくなってしまう。他のスタジアムでも、芝を張ってしばらくの間はピッチ状態は厳しくなりがちだ。

 エディオンピースウイング広島の場合、南側のサイドスタンド(ホームゴール裏)の屋根の前方は透明になっていて、そこで少しでも陽光を取り入れようと工夫している。また芝そのものについても長い年月をかけて研究を重ね、最適と判断された芝が採用されており、その芝を管理するために経験豊富な技能者を配置。万全を尽くしてはいるが、相手は生き物だ。やってみないとわからない。それが正直なところだろう。

 「全席屋根つきスタジアム」では、スタジアムと外界を遮断するように壁が全体を覆っていることが多かった。だが、エディオンピースウイング広島は違う。閉ざされたサッカーだけの空間ではなく、外側とつながっているシームレスな構造になっていて、開放感を与えているのが特徴だ。それは、このスタジアムが旧太田川と広島城を繋ぐ「架け橋」のような役割として、広島市民の生活空間になることを、1つの方向性としていることにも繋がっている。

 さらにいえば、この空間からスタジアムの賑わいをのぞき見することができる。それによって、街の人々がスタジアムとその周辺に興味を持つ仕組みにもなっているわけだ。

 この空間が醸し出す「抜け感」が、なんとも言えず気持ちいい。それは、同じ設計者の「作品」と言えるマツダスタジアムにも通じるものがある。そしてマツダスタジアムと同様に、エディオンピースウイング広島もペデストリアンデッキをゆっくりと上がってゲートに辿りつく。スタジアムに歩いていると、支柱がつくったスペースから見えるスタンドの光景が近づいてきて、「さあ、これからドラマが始まるんだ」というワクワク感を演出する。これも、マツダスタジアムで体験済みの方も多いだろう。

パークコンコースには日常で使えるレストラン、キッズルームも

 観客を出迎えてくれるパークコンコースは外側を巡り、旧太田川と芝生広場(現在整備中。8月開場予定)を繋げてくれる。幅は8〜10mと広く、試合開催時には入場のための待機スペースとなる。また、芝生広場側にはレストランなどの多機能施設が設置される予定(8月の芝生広場オープンに向けて具体化)で、ここは試合開催のない日でも稼働する。2階と3階の吹き抜けを使ったキッズルームも公園側に設置され、試合のない日でも利用できるのは嬉しい。

 さらに広島サッカーミュージアムやピースウイングオフィシャルストアも、このパークコンコースからアクセスできる。

 広島サッカーミュージアムは、広島サッカーの歴史を知って学べるだけでなく、身体を動かして楽しめる体験型コンテンツを楽しめる。ピースウイングオフィシャルは売り場面積約400㎡の広さを誇り、1Fにあるミュージアムとの連動を実現し、施設として一体化を果たした。

 推し選手のオリジナルグッズやキーホルダーをカスタムしたりできる他、広島を代表する名産品なども準備する予定だ。

トイレの空き状況はデジタルサイネージで確認可能

 スタジアムに入ると、幅10mのメインコンコースを利用して、1周することができる。たくさんの売店が並び、スタジアムグルメを楽しむことができるが、特徴的なのはデジタルサイネージの多さだ。

 サッカーの場合、ハーフタイムにトイレや売店が混み合うことが多く、時には後半キックオフに間に合わないこともある。メインコンコースであればデジタルビジョンに映し出される試合中継映像を見て、待機することができる。また、トイレの空き状況はデジタルサイネージを通じて確認できる仕様ということで、特に女性にとってはありがたい心配りだ。

ゴール裏のイメージは、ドルトムントの「黄色い壁」

 1人のサッカーファンとして注目したいのは、ゴール裏の設計である。メインとバックのスタンドが二層式になっているのに対し、ゴール裏は1スロープとなっているのだ。この形状になっているのは、日本の3万人規模のサッカースタジアムでは珍しい。埼玉スタジアム2002くらいだろうか。……

Profile

中野 和也

1962年生まれ。長崎県出身。広島大学経済学部卒業後、株式会社リクルート・株式会社中四国リクルート企画で各種情報誌の制作・編集に関わる。1994年よりフリー、1995年からサンフレッチェ広島の取材を開始。以降、各種媒体でサンフレッチェ広島に関するレポート・コラムなどを執筆した。2000年、サンフレッチェ広島オフィシャルマガジン『紫熊倶楽部』を創刊。以来10余年にわたって同誌の編集長を務め続けている。著書に『サンフレッチェ情熱史』、『戦う、勝つ、生きる』(小社刊)。