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Photo: Getty Images

2017.04.14 21:00

SPECIAL

カンテは破壊者である

Kanté è una palla demolitrice

ミヒャエル・バラックが、英BTスポーツのTV中継でエンゴロ・カンテのパフォーマンスを語るために使った「うるさい蝿」という表現は、それなりに言い当ててはいるものの、比喩的な説明としてはまったく十分なものではない。もっと詳細な説明が必要だ。例えば「犯してもいない罪についての自白を強要するために閉じこめられた窓が一つもなくやけに暖房がきいた部屋の中を我が物顔で飛び回るとてつもなく大きくてうるさい蝿」とか。あるいは、彼の破壊力をより強調できる別の何かにたとえるという手もある。例えばクレーンに吊るされた鉄球とか。


現実を超えたスタッツ
Statistiche surreali


 アンフィールドで1–1に終わったこの試合、リバプールには、コンテの下でほぼ完全無欠の機械と化したチェルシーにも、何らかの形で分解する可能性がまだ残されていると示すことが期待されていた。クロップのチームが結果的にそれを成し遂げられなかったとすれば、それは何よりもチェルシーの中盤、とりわけカンテが文字通り化け物のようなパフォーマンスを見せたためだ。カンテの日頃のスタンダードと比較しても、この日のプレーは傑出したものだった。

 実際カンテは、タックルに関するあらゆるデータを破壊した。彼はもともとこの項目に関してプレミアリーグでトップを争う存在だが、それでもこの日のパフォーマンスはそう簡単に繰り返せるものではない。

 まず、カンテは今シーズンのプレミアリーグで初めて、1試合に2ケタのタックルを行った選手になった(そしてシーズン累積では軽く50を突破)。この試合でのタックル数は16、そのうち14回成功している。それがどれだけの数字かを知るためには、リバプール全選手の総タックル数が16だったと言えば十分だろう。

 ボールタッチ数は70、その分布はピッチ上のあらゆるゾーンに及んでいる。彼のパフォーマンスがどれほど衝撃的で現実を超えているかを示そうとするならば、本格的にその破壊力を発揮し始めたのが、試合開始後60分が過ぎてから、つまりワイナルドゥムの同点ゴールが決まってから間もなくだったという点にフォーカスする必要がある。

 もちろんカンテは前半を通じて相手を追い回し、最終ラインの前でフィルターをかけ、あらゆる場所に顔を出して相手の攻撃を跳ね返しているように見えた。しかし後半に入るとそのインテンシティは3倍に跳ね上がった。前半のタックルが4回(うち成功は2回)だったのに対し、後半は12回。60分時点での成功率は7分の5だったが、最後の30分では8回すべてを成功させたのだ。

 チェルシーにとってシーズンの大きな転換点となったのは、[3-4-3]への移行だった。コンテがこのシステムを導入してからの15試合でチェルシーは14勝1敗、35得点を叩き出す一方で失点はわずか6。このシステム変更の目的が、カンテをより気分良くプレーさせることにあったと言うわけにはいかない。しかし、最終ラインの前を1人でプロテクトする[4-1-4-1]のアンカーから、[3-4-3]で中盤センターを固めるペアの一角に彼を移した結果、得られた最も大きな効果の一つはまさにカンテの自由だった。

 この選択の正しさは、カンテが内在的に持っているプレースタイルとかなりの部分結び付いている。それはとりわけ、ネマニャ・マティッチとペアを組んだ時に引き立てられる。2セントラルMFのシステムそのものではなく、マティッチとカンテというペアであることが重要なのだ。2人分の運動量であらゆるところに顔を出すカンテの存在によって、この中盤は2セントラルMFではなく3セントラルMFなのではないかという印象すら与える。


破壊は創造と直結する
Distruzione diventa creazione


 あえて矮小化した言い方をするならば、カンテは本質的に相手の攻撃の破壊者である。しかし、ピッチ上のあらゆる場所で、そして相手のトランジション(攻守の切り替え)のあらゆるレベルにおいて破壊工作を続けることを通じて、潜在的な攻撃の創造者ともなっている。プレーのレベルがここまで高まるに至って、破壊は創造と直結するのだ。

 プレミアリーグ過去3シーズンの通算記録において、カンテは総タックル数でトップに立っている。253回は2位のマティッチよりもわずか1回多いだけだが、プレーした試合数はマティッチよりも40%も少ない(91試合に対して59試合)。

 昨シーズンのレスター、今シーズンのチェルシーにおいて、カンテの破壊工作がチームの攻撃にどれだけ大きな貢献を果たしてきたかを、さらに明確に示すためには、カンテが不在だった試合のデータを持ち出す必要がある。この2チームは、カンテがプレーした計59試合で133の勝ち点を挙げているが、カンテがいない63試合の勝ち点は72に留まっている。プレミアリーグにおける2年足らずのキャリアにおいて、カンテが敗者としてピッチを去ったのは、リバプールとアーセナル、そしてトッテナムに対してだけだ。もし次の土曜日に行われるアーセナルとのロンドンダービーにおいて、カンテが昨夜と同じようなパフォーマンスを見せれば、相手の攻撃だけでなくスタッツのデータもまた破壊することになるだろう。(編注:2月4日のアーセナル戦もカンテは先発フル出場。3-1 の勝利に大きく貢献した)

(文/ファブリツィオ・ガブリエッリ 翻訳/片野道郎)



名スカウトのスティーブ・ウォルシュがタックル回数のデータを見てフランス2部カーンから引き抜き、レスター奇跡のプレミア制覇の立役者となったエンゴロ・カンテ。
チェルシーに活躍の場を移した後も常識の破壊者であり続け、
13日に発表されたイングランドサッカー選手協会(PFA)のプレミアリーグ年間最優秀選手候補6人の一人にノミネートされた小柄なフランス人MFのパフォーマンスを分析したイタリアのWEBマガジン『ウルティモ・ウオモ』のレポート(2月1日公開)を特別掲載。



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L’Ultimo Uomo
ダニエーレ・マヌシアとティモシー・スモールの2人が共同で創設したイタリア発のまったく新しいWEBマガジン。長文の分析・考察が中心で、テクニカルで専門的な世界と文学的にスポーツを語る世界を一つに統合することを目指す。従来のジャーナリズムにはなかった専門性の高い記事で新たなファン層を開拓し、イタリア国内で高い評価を得ている。媒体名のウルティモ・ウオモは「最後の1人=オフサイドラインの基準となるDF」を意味する。



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