SPECIAL

スピリット・オブ・シャンクリー リバプールを“守る”サポーター組合

2019.11.22

Interview with
STEPHEN MONAGHAN
スティーブン・モナハン
KIETH CULVIN
キース・カルビン
KAREN GILL
カレン・ギル

 クラブや大会主催者の運営上の問題で、フットボールファンはトラブルに巻き込まれたり、不利益を被ったりすることがある。リバプールには、そんな時クラブや大会主催者に抗議し、問題の改善を求めていく活動をしているサポーターの組合組織がある。「シャンクリーの精神」という名を持つリバプールのサポーターズ・ユニオン、スピリット・オブ・シャンクリー(Spirit of Shankly)だ。

 「ユニオン」という言葉が示す通り、彼らはまるで労働組合のように、ファンが直面する様々な問題をめぐってクラブと交渉を行っているほか、困っているファンや地域住民を助けるためのチャリティ活動に力を入れている。一例を挙げると、ローマサポーターに襲われて重体となったショーン・コックスさんの治療費を集めるため、試合前に募金箱代わりのバケツを手にファンに募金を呼びかけたのはスピリット・オブ・シャンクリーのメンバーだった。

 また、ファンズ・サポーティング・フードバンクス(Fans Supporting Foodbanks)を立ち上げたメンバーの一人であるイアン・バーンも、スピリット・オブ・シャンクリーの幹部スタッフだ。

 リバプールにサポーターの組合が存在する理由とその活動の詳細を明らかにするため、2019年3月31日、トッテナム戦を前にアンフィールド近くのB&Bのラウンジで、スピリット・オブ・シャンクリーの幹部スタッフであるスティーブン・モナハン(写真左)とキース・カルビン(同右)に話を聞いた。スティーブンはリバプールの9回のヨーロピアンカップ決勝をすべて現地観戦していて、これまでリバプール公式サイトLFCTVに何度も登場している地元では有名なサポーターだ。また今回は幸運にも、スピリット・オブ・シャンクリーの支援者であり、あのビル・シャンクリーの孫娘であるカレン・ギルにも同席してもらうことができた。

#WalkOutOn77

私たちがあのような行動を取らなかったら、
イングランドのフットボールはゲームオーバーになっていた

——まずは、スピリット・オブ・シャンクリーを結成した経緯を教えてください。サポーターズ・ユニオンというのは、サポーターズ・クラブとは違うのですよね?

スティーブン「サポーターズ・ユニオンは、サポーターズ・クラブとは成り立ちも目的もまったく違います。私たちがスピリット・オブ・シャンクリーを結成したのは2008年の1月でした。愛するクラブを経営難の危機に陥れた以前のオーナー、トム・ヒックスとジョージ・ジレットに抗議し、彼らを追放するために結成したのです。私たちはイングランドで初めての“サポーターズ・ユニオン”です。年間10ポンド(約1400円)の会費を納めている会員約3000人と、他にSNSなどで繋がっているメンバーが3万人ほどいます」


——当初の目的であるオーナーの追放は比較的早い段階(2010年)で達成されたわけですが、その後はどのような活動をされているのですか?

キース「私たちはファンの声を代弁する組織として、ファンに起きる様々な問題をクラブや大会主催者に伝え、改善を求めています。例えば、アウェイの試合を観に行くと、ファンは様々なトラブルに巻き込まれます。特に欧州カップ戦での遠征の場合、移動の足やホテルを確保できなかったり、現地の警察やスタジアムの係員に暴力を振るわれたり、チケットをだまし取られたりすることもあります。そういったことが起きた時、当事者が自らクラブや主催者や警察に抗議するのは難しいものです。ですから、まずは私たちに報告してもらい、私たちからクラブや大会主催者や警察当局に抗議しているのです」


——みなさんがこれまでに行ってきた活動の中で、最も大きな成果を挙げたのはどういったものでしょうか?

キース「3年前に、クラブにチケット代の値上げ案を撤回させたことですね。私はファンの代表として、9カ月間クラブ側の代表と何度も話し合いの場を持ち、チケット代を値上げしないように求め続けました。にもかかわらず、クラブは私たちの願いを聞き入れず、チケット代を値上げすることを発表したのです。クラブに抗議するため、2016年2月のサンダーランド戦の時、77分にスタジアムを後にすることを「#WalkOutOn77」というハッシュタグとともにファンに呼びかけました。クラブの値上げ案では、一番高いチケットの値段が77ポンド(当時のレートで約1万3100円)になるとされていたからです」

77分にスタジアムを後にすることをファンに求めるスピリット・オブ・シャンクリーのツイート


キース「私たちの呼びかけに賛同してくれたファン1万人以上が77分に席を立ち、スタジアムを後にしました。クラブは大きなショックを受け、私たち地元のファンにとってチケット代の値上げがどれほど深刻な問題であるかを、ようやく理解しました。そしてすぐに謝罪声明を出し、チケット代の値上げ案を撤回したのです。それ以来今日まで、チケット価格は据え置きとなっています」

「#WalkOutOn77」に賛同し続々と席を立つファン。試合終了を待たずスタンドに空席が目立つ状態となった(Photos: Getty Images)

スティーブン「もしあの時、私たちがあのような行動を取らなかったら、イングランドのフットボールはゲームオーバーになっていたでしょう。あの時リバプールがチケット代の値上げを強行していたら、他のクラブもそれに続いて値上げに踏み切ったでしょうからね。そうなれば、イングランド中のスタジアムで空席が目立つ事態となっていたことでしょう。試合の途中でスタジアムを後にするなどという大胆な行動を組織できるのは、私たちリバプールファンだけです。私たちがやらなかったら、イングランドのフットボールは終わっていたと思っています」

キース「私たちが断腸の思いで取った行動だったことを、クラブも理解してくれました。そしてあの一件以来、クラブは私たちの声に耳を傾けてくれるようなり、私たちファンとクラブの関係はずっと良くなったのです」

クラブの垣根を超えた共闘

ライバルチームのファンであっても、試合を離れれば友人です


——プレミアリーグがアウェイゲームのチケット代の上限を30ポンド(約4200円)に決めたことも、スピリット・オブ・シャンクリーのみなさんによる大きな功績ですよね。

スティーブン「そうですね。以前はアーセナルがアウェイファンに販売したチケットは65ポンド(約9100円)もしました。それに対して、ストークがアウェイファンに販売したチケットは25ポンド(約3500円)でした。ロンドンに住むアーセナルファンの平均収入はストークファンのそれよりずっと多いのに、アウェイのストーク戦を25ポンドで観戦できたのです。それに対して、アーセナルファンより平均収入が少ないストークファンは、アウェイのアーセナル戦を観戦するのに65ポンドも払わなければなりませんでした。こうした不公平をなくすため、アウェイのチケット代に上限を設けるべきだというキャンペーンを始めたのが、私たちスピリット・オブ・シャンクリーです。私たちの活動に他のクラブのファンも賛同してくれて大きなキャンペーンになり、プレミアリーグにアウェイの試合のチケット代の上限を30ポンドにする決定をさせることになりました。このようにここ数年、フットボールファンは共通の利益のためにライバル関係を超えて協力し合っています」

アウェイの試合のチケット代の上限を20ポンドにするようプレミアリーグと交渉する直前のスピリット・オブ・シャンクリーのツイート


——他のクラブのファンもサポーターズ・ユニオンを組織しているのでしょうか?

キース「他のクラブのファンはサポーターズ・ユニオンではなくサポーターズ・トラストと呼んでいますが、多くのクラブのファンが似たような組合を組織しています。スピリット・オブ・シャンクリーより歴史の古いトラストもありますよ。トッテナムのファンも、マンチェスター・ユナイテッドのファンも、アーセナルのファンもみなサポーターズ・トラストを組織していて、私たちは他のクラブのファンのサポーターズ・トラストのメンバーともよく会って意見交換をしています」

スティーブン「今日はトッテナムのファンがリバプールに来ていますから、サポーターズ・トラストのメンバーとも会いますよ。どこのクラブのファンもみな同じような問題を抱えていますから、情報交換や意見交換ができるのは有意義なことですし、共通の目的のために他のクラブのファンと協力することもありますから、普段から親交を温めるようにしています(実際にこの取材後、スピリット・オブ・シャンクリーとスパーズのサポーターズ・トラストはCL決勝のチケットの両クラブへの割り当てがあまりに少なかったことをUEFAに抗議する声明を共同で発表した)。

 他のクラブのファンと協力し合うようになったのはここ10年ぐらいのことです。それ以前には、他クラブのファンと協力して行動するようなことはありませんでした。ですが、今ではフットボールファンはみな友情で結ばれています。ライバルチームのファンであっても、試合を離れれば友人ですよ」

キース「Twitterのようなソーシャルメディアの影響が大きいですね。ソーシャルメディアが登場したのは10年ぐらい前だったと思いますが、ソーシャルメディアのおかげで、他のクラブのファンも私たちと同じような問題を抱えていることを知るようになったのです。それで互いに連絡を取り合い、協力するようになりました。ソーシャルメディアは、ファンカルチャーを完全に変えました」

「人生そのもの」を守るために

地元のファンがスタジアムに行けなくなってしまった
クラブに、魂が残るでしょうか?


——みなさんの努力のおかげでホームのチケット代は3年間据え置かれ、アウェイのチケット代は上限が30ポンドになりましたが、チケット関連の問題は他にもありますか?

キース「あります。クラブは最近、転売屋の取り締まりを強化するため、回転ゲート前でIDチェックを始めました。私たちのようなシーズンチケットホルダーは、時に息子や姪っ子にカード(スタジアムの入場に必要なシーズンチケットホルダーの会員カード)を貸すことがあります。私たちだってスタジアムに行けなくなることもありますし、カードを貸してでもあげないと、息子や若い世代はいつまで経ってもアンフィールドで観戦することができませんからね。

 ところが、IDチェックを始めたクラブは、父親のカードで入場しようとした息子の入場を許可せずカードを取りあげたばかりか、カードを貸した父親からシーズンチケットホルダーの資格を剥奪したのです。家族間の貸し借りもダメだと。ですが、私たちは転売屋ではありません。何十年もクラブをサポートしている地元のファンです。ですから、事前に登録されている家族や友人にだけはカードを貸すことができるようなシステムを作るなどの改善をクラブに求めています

スティーブン「チケット代についても、据え置きになっているとはいえ、満足しているわけではありません。もうすでに高くなり過ぎていますから、値下げしてほしいのです。それが無理でも、せめて地元の子供たちが買える安いチケットをもっと増やすように求めています。未来のクラブをサポートしていくのは今の子供たちであり、若者たちなのですからね。今若い世代のファンがスタジアムに足を運ばなかったら、数十年後のアンフィールドがどうなってしまうか想像してみてください」

キース「クラブがチケット収入をもっと増やしたいと考えている事実は変わりません。リバプールやマンチェスター・ユナイテッドやロンドンのクラブは世界中にファンがいます。クラブは海外のファンならチケットを80ポンド(約1万1200円)や90ポンド(約1万2600円)で買ってくれることを知っています。ですから、本当はそれぐらいの値段で売りたいのです。ですが、チケット代がそんな高くなってしまったら、クラブを40年も50年もサポートしてきた私たち地元のファンはチケットを買えなくなってしまいます。40年とか50年というのは、私たちにとって全人生です。私たちにとって、クラブは人生そのものなのです。チケットを80ポンドや90ポンドで買ってくれるファンが出現したからといって、私たちから人生そのものを奪うなどということが許されていいはずありません。

 ですが、フットボールクラブのオーナーというのは、そういうことをしかねない人たちです。彼らにとってはビジネスなのですからね。ですが、そんなことになったらクラブの魂は失われてしまいます。リバプールFCはここリバプールの街で生まれ、私たちが暮らすこのコミュニティに根付いているクラブです。地元のファンがスタジアムに行けなくなってしまったクラブに、魂が残るでしょうか? 今はまだ魂は失われていません。ですが、クラブが間違ったことをしないように私たちが目を光らせていないと、間違いが起きるかもしれません。ですから私たちのような組織が必要なのです。私たちの人生そのものであるこのクラブを私たちから奪うなどということは、スピリット・オブ・シャンクリーが絶対にさせませんよ」


——最後にカレンさんにうかがいたいのですが、「シャンクリーの精神」という名のこのサポーターズ・ユニオンには、お爺様の精神が受け継がれていると思われますか?

カレン「祖父がリバプールで築こうとしたのは、クラブとファンが互いを思いやり、利益と幸福を分かち合うことができるような世界です。スピリット・オブ・シャンクリーのみなさんの努力のおかげで、ファンはクラブと定期的に話し合いの場を持つことができるようになり、クラブはファンの利益と幸福を第一に考えてくれるようになりました。ですから、スピリット・オブ・シャンクリーには、祖父が描いた理想やビジョンが受け継がれていると思います。ビル・シャンクリーの家族として、そのことをとてもうれしく思っています」

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リバプール文化

Profile

田丸 由美子

ライター、フォトグラファー、大学講師、リバプール・サポーターズクラブ日本支部代表。年に2、3回のペースでヨーロッパを訪れ、リバプールの試合を中心に観戦するかたわら現地のファンを取材。イングランドのファンカルチャーやファンアクティビストたちの活動を紹介する記事を執筆中。ライフワークとして、ヨーロッパのフットボールスタジアムの写真を撮り続けている。スタジアムでウェディングフォトの撮影をしたことも。