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メキシコで進むデータ革命。その背後にある“次世代デバイス”

2019.09.02

メキシコのネカクサでプレーするロドリゴ・コントレーラス。胸部に装着するビブスには最新デバイス「WIMU」が付属している

 ロシアW杯では、イルビング・ロサーノが王者ドイツを沈める一撃を決めた瞬間に“人為的な地震”が観測されるほどの熱狂に包まれたメキシコ。そんなサッカー狂たちの情熱は、現在データに注がれている。W杯後、メキシコ1部・2部リーグと女子リーグに最新ツールの導入が決定し、それらすべてのカテゴリーで様々な情報にアクセスすることができるようになったのだ。

スタジアムと練習場に設置したカメラで撮影されたエリアごとの部分映像/俯瞰映像

リアルタイムで提供される各選手のトラッキングデータ/ポゼッションのスタッツ/ヒートマップ/フィジカルパフォーマンスデータ

大会/選手の状況調査を可能とするハイテクノロジービブスによる各選手のGPSトラッキング

モニタリング/パフォーマンス観測/スタッツ評価/フィジカルパフォーマンス分析による全カテゴリーの選手スカウティング

 インターネット環境下であれば、これらの情報に各クラブのテクニカルスタッフが「いつでも」「どこでも」「どのデバイスでも」アクセスすることができる。もちろん試合中でもベンチからでもアクセスできるため、リアルタイム分析にも活用可能だ。

 ラテンアメリカでのデータ革命を支えているのは、スペインのスタートアップ企業『リアルトラック・システム』が開発した『WIMU』だ。この次世代デバイスは、GPSを含む測位衛星システムと超広帯域無線による“誤差10cm以内のトラッキング精度”を誇り、屋内外問わず従来のGPSデバイスより正確に位置情報を検出可能。選手のポジションを正確に把握することで可能となる戦術分析に加え、3つの高性能センサーで加速・減速/方向転換/衝撃/ジャンプ力/キック力を測定して選手個々のパフォーマンス分析も行える。これらのデータは練習・試合映像にシンクロさせることも可能だ。心拍数など4つの生体情報のモニタリングにも対応している最新デバイスは、今やメキシコサッカー全体で下部組織を含む63クラブの1375選手に使用されており、6月にメキシコサッカー連盟がリアルトラック・システムとのパートナー契約更新を決めた事実がその有用性を物語っている。

 同社のマーケティング担当者であるカルロス・オルテガは「トップチーム・代表チーム入りを果たすまでの過程で、すべての選手の動きをトラッキングできる」と豪語。もちろんメキシコ代表チームにもWIMUは導入されており、オルテガは有効活用すれば7大会連続でぶつかっているW杯ベスト8の壁を破ることができると信じている。

 「メキシコ人選手のプロフィールを明確化する方法が求められていますので、それを1つの目標として私たちはメキシコ人選手の特徴を解明しようと考えています。将来的には、このシステムを使いながら結果を出してW杯を制覇してほしいですね」

バルサの研究開発部門BIHubが開発協力

 次世代デバイス誕生の裏には、およそ10年前からGPSを活用しているバルセロナの研究開発部門、バルサ・イノベーション・ハブ(BIHub)の存在がある。外部の企業や学術機関と協力しながら“オープンソース化”に注力するこのプラットフォームはWIMUの開発にも深く携わっており、バルサで働くフィジカルトレーナーたちのフィードバックを2年間にわたって提供。プロダクトデザインの向上・アウトプット機能の強化に大きく貢献した。最初にバルサのバスケットボールチームで試験導入された最新デバイスは瞬く間に他のスポーツ部門へ浸透し、2017年からフットボールチームにも採用されている。

 現在WIMUは先ほど紹介したメキシコリーグに加えてリーガでも導入されている他、すでに多くのサッカーチームに普及しており、スペイン代表、さらにはバルサの宿敵レアル・マドリーまでもが活用している。

 バルサが開発したデバイスをマドリーが重宝しているというのはなかなか奇妙な話に聞こえるかもしれないが、BIHubの最高知識責任者アルベルト・ムンデが「レアル・マドリーもぜひ協力してほしい。レアル・マドリーが協力してくれるなら彼らのアスリートの鍛え方を学んで共有したい」と語っていたように、相手が永遠のライバルであろうと“オープンソース化”という基本理念は揺るがない。BIHubは“知見を提供しつつ外部からアイディアを得て共有すること”でスポーツ業界や他の業界を大きく成長させられると強く信じているのだ。バルサの知見が詰まったWIMUは、今後も国やクラブ、さらにはフットボールという枠組みを越えてスポーツにおけるデータ分析を活性化させていくだろう。

激しいライバル関係にあるバルサとマドリーだが、BIHubの取り組みにより近い将来ピッチ外で協力する姿が見られるかもしれない

Photos: Getty Images

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バルセロナ

Profile

足立 真俊

1996年、岐阜県出身。生まれもっての“人見知り”を克服するためにアメリカにあるウィスコンシン州立大学でコミュニケーション学を専攻。学業の傍らで趣味として始めた翻訳活動がきっかけとなり、サッカーに関する様々な情報発信を模索中。2019年5月、結局“人見知り”のままfootballista編集部の一員に。