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試合解説も担当!戸田和幸が語るノースロンドンダービー展望

2019.08.31

戸田和幸さん

数あるダービーの中でもとりわけ強烈な対立関係にあり、両クラブが威信を懸けて激突する注目の一戦ノースロンドンダービー。今シーズンからプレミアリーグを独占配信するDAZNで試合解説を務める戸田和幸さんに、配信中のプレビュー番組収録後、試合の注目ポイントを中心に話を聞いた。

写真 鈴木奈保子

プレミアリーグの変化

――収録お疲れさまでした。はじめに、まだ3試合ではありますが今季ここまでのプレミアリーグをご覧になって戦術的な傾向に関して感じられていること、印象を聞かせてください。

 「全チームを追えているわけではありませんが、まだバーンリーみたいにフィジカルを前面に押し出したチームがいるというのはやっぱりイングランドだなと思いますね。ただ、それがダメというわけではありません。僕はむしろ好意的に見ています。みんながみんな同じことをする必要はありませんし、それにバーンリーも何の原則もなくただフィジカルだけでやっているわけではなくどこからボールを蹴り込むのか、CBが幅を取ったところから斜めのボールを入れていくといったある程度の原則はあります。

 やはりグアルディオラ監督の影響だと思いますが、意図したボール保持を目指すチームの方が増えてきている印象を持っています。クロップ監督も少しずつボール保持の部分をチームに持ち込むようになったと思います」


――確かに、主体とする戦術がプレスかボール保持かという違いはあれど、リバプールは繋ぎもできるしマンチェスター・シティはプレスの質も高い。両者が似通ってきているというのは見ていて感じます。そうした大きな戦術傾向という枠組みで見た時にアーセナルとトッテナム、それぞれのチームをどのように位置づけていますか?

 「アーセナルのエメリ監督は、ボール保持からのゲームモデルを持った方でもともとはリスクを冒し過ぎないバランス重視の監督だという認識でしたが、アーセナルで指揮を執るようになってからは時に非常に攻撃的なプレッシングも行うなど戦い方に幅が出てきているように感じます。

 基本はボール保持からの戦い方を執ることがベースとなりGKからの繋ぎにも積極的に取り組んできています。

 ピッチで起こっている現象を見る限りは、相手がどれだけプレッシャーをかけてきてもボールを保持して前進していくことを目指していますよね。それがうまくいかない場面というのは昨シーズンから多く見受けられますが、簡単に投げ出さない監督だという印象です」


――その「うまくいかない場面」に関して、プレビュー番組の中では映像を交えて分析されていましたが、昨シーズンからという部分では何が課題となっているのでしょうか?

 「非常に強い具体的なハイプレスを受けた時に危険な形でのロストをすることはまだあります。それからメスト・エジルをトップ下で起用するとなると、(彼の)感性を最大限活用した攻撃を構築する必要が出てきます。

 エジルは非常に優れた感性を持ち相手の守備組織のバランスを崩し突破口を見つけることができる稀有な能力を持ったパサーですが、例えば(マンチェスター・シティの)ダビド・シルバやデ・ブルイネとはベースの部分で渡されているタスクが違います。

 リバプールであればフィルミーノもまた彼にしか持ち得ない感性を生かしてプレーしますが、彼らの攻撃はフィルミーノがいるからこそ成立します。そしてそこにはいわゆる再現性というものはあるようでない」


――「再現性」というのは今、大きなテーマの一つになっています。

 「再現性ということは同じような現象が繰り返し行われるということですが、その一方でもし仮にそのものに対して対策を施された時にどうするのか。ピッチ上で再現性あるフットボールを構築すること自体まず難しいわけですが、分析ベースの準備と試合中のリアルタイム分析により非常に高いレベルでの攻防が行われてきているなと感じます。

 再現性という意味ではシティが最もその言葉に相応しいフットボールを見せていると思います。明確なビジョンが監督から選手に渡され、ベースとなるプレー原則を基に選手たちは毎試合、都度変わる相手に対して意図した戦術行動を取っているように見えます。リバプールもある程度はそうした部分を感じますが、後方から前進する時に中盤から下りて来る場所や人数は同じ試合の中でも都度変わり、その事が原因で物事がうまくいっていないなと感じる時もあります。シティの方がベースの配置・ボールの運び方の部分をきっちり決めている印象で、選手の判断でポジションを変えているというようには僕には見えません。

 逆に言えばそういうところが、ある意味シティにとっては難しい部分でもあるように感じます。


――その「難しい部分」というのは、選手にとってプレーするのが難しいということでしょうか?

 「対戦相手を分析し自分たちの振る舞い方をデザインするということはつまり、そのレベルの選手としてミスを犯さないことを想定してゲームプランを立てると思います。ボールを運ぶための全体の配置やフリーな選手の作り方、そこから先の部分についても非常に高い判断力と技術が求められる分、想定外のミスが出ると崩れやす傾向にあると思います。

 僕は昨シーズンのUCL準々決勝のシティ対スパーズを2試合ともに現地で観戦しました。第1レグを落とした後のホームでの第2レグ。

 あの時のスタジアムの雰囲気は、どれだけの言葉を駆使して伝えても決して伝えられない程のテンション、「絶対に勝つぞ」という見る側の異常なまでの昂りがスタジアムに充満してました。

 シティのフットボールに必要不可欠な要素として「冷静さ」を僕は挙げますが、それを正しく持ちながらプレーするにはあまりにも空気感がぶっ飛んでいて明らかに昂りを抑えられない選手が数人いました。

 一人はカイル・ウォーカー、もう一人はバンジャマン・メンディ、そしてアイメリク・ラポルトも普段であれば絶対にしないコントロールミスでカウンターの機会を与え失点しました。

 フットボールには常にミスが付き物だとはいえ戦術的にも技術的にも他チームとは一線を画し非常に高いレベルのものを要求されるシティに比べると、スパーズのポチェッティーノ監督は大枠の部分は設けてはいるものの、選手たちがナチュラルにプレーすることを奨励し心がけているように感じます。

 試合中の振る舞いを見ていても頻繁にテクニカルエリアに出ることはなく、選手たちに細かく指示を出すようなタイプではありませんでした。

 ポチェッティーノ監督は選手が主体的にプレーすることを求めプランや配置についても試合ごとに変えてはきますが、試合が始まったら選手に委ねているように感じます。

 UCLの準々決勝くらい極限の緊張感の中でプレーする時には、1つ間違えると崩れてしまうような繊細なフットボールより、スパーズのような選手がナチュラルにプレーできるマネージメントの方が、選手が自分の持っているものを信じ思い切ってプレーできるように僕は感じました。

 戦術的ではない、という意味ではなくびっちりとディテールを詰め込むことはせずに身体的なものも含めた選手の能力でその隙間を埋めていく感じでしょうか」

トッテナムの不安

――そのスパーズですが、開幕からパフォーマンスが上がっていません。原因として、よく言われる「監督サイクル」の問題、6シーズン目になるポチェッティーノ監督の求心力低下という要素は考えられませんか?

 「2017年の2月なのでもうだいぶ前の事にはなりますがスパーズの練習場に行った時にポチェッティーノ監督にお会いしたことがあるんですが、凄くこう、笑顔が素敵な温かい感じの人でした。

 その印象とは打って変わりトレーニングの時はグッと入り込み非常に強い、明確なメッセージを出していました。

 選手とのリレーションシップもとてもナチュラルでしたしオンとオフのメリハリがある方だと感じましたね。

 それこそ先生と生徒みたいな関係性ではなく、トレーニング中の緊張感はありましたがきつく縛る感じではありませんでした。

 ポチェッティーノ監督は選手に委ねるマネージメントだと感じますしアスリートとしての能力を備えた選手を好み、規律は存在しますがピッチに出たら選手たちに委ねのびのびプレーさせる方だと思います。

 ポチェッティーノ監督は前半うまく機能しなかったとしてもハーフタイムを挟んで修正するのがうまいですよね。逆に言えば前半はうまくいかないことが少なからずあるんですが、それは相手のあることですから時に想定外のことはフットボールには起こります。


――では、今シーズンのスパーズのパフォーマンスが上がらない理由は、あくまでもピッチ内にあるということですね。

 「最終ラインではダビンソン・サンチェスのところとカイル・ウォーカー・ピータースのパフォーマンスレベル、中盤ではエリクセンの起用法、そして前線ではソンが第1節と第2節はいませんでしたね」


――今挙げていただいた各セクションについてはプレビュー番組で具体的なシーンの映像を交えて分析されていましたが、その他で気になるセクションはありますか?

 「キャラクターで言うとウィンクスはリズムは作れるんですが、リズムを刻むのと相手守備を動かしチャンスメイクするのはまた別です。その視点で見るとエリクセンは絶対に欠くことのできない選手だと思います」

トッテナムのクリスティアン・エリクセン
今のスパーズにとって「絶対に欠くことのできない選手」と戸田さんが評するエリクセン(Photo: Getty Images)


――いわゆるキーパスを出す能力が、今のトッテナムには足りていない。

 「論理的にゲームをコントロールし攻撃をリードできる選手が欠けているように感じます。スパーズはカウンターもうまいですしUCL決勝を見てもわかる通り後方からボールを運ぶということにもきちんと取り組んではいますが、基本はプレッシングベースのショートカウンターを狙うスタイルです」


――守備面で左サイド、D.サンチェスとダニー・ローズのところについて指摘されていましたが、この部分はチームのオーガナイズ次第で改善できるものでしょうか?

 「D.サンチェスに関しては、まだポテンシャルに頼ってプレーしている感じが抜けないのが気になります。何も問題がないのであればフェルトンゲンの方が良いと僕は思います」


――フェルトンゲンを起用しての3バックはあり得ると予想されていましたが、4バックの左SBにフェルトンゲンという可能性はどうでしょうか?

 「それはないでしょう。それよりも(カイル・ウォーカー・ピータースの負傷により)右SBがいません。仮に前節のニューカッスル戦で入ったムサ・シソコがやるとして、4バックのSBというのは凄く難しいですからね。そこを突かれてしまった時にどうなるか、不透明な部分が大きいと思います。

 例えば時にスパーズが採用する[5-3-2]にして2トップをケインとソンにするというのもあるかもしれませんけど、そうすると今度は(M.シソコをコンバートした影響で)中盤が足りなくなります。3枚の中盤の右にルーカス・モウラは置けません。

 そうやっていろいろ考えるんですが、考えれば考えるほど『考えてもしょうがないな』となり、スタメン発表を待ってようとなるわけです。両チームのスタメンが発表されたら『あぁ、これか』とインスピレーションが湧いてくるんですけどね。どちらのチームとも幾通りかの戦い方を持つので考えようがないなと。もちろん両チームの今季の試合はすべて見ましたし昨季のノースロンドンダービーももう一度チェックしましたけど、見れば見るほどわからなくなる。基本的には状態のいい選手が優先されますが、外からではその状態がわかりません。なので今日(の収録で)は、意図的に1つのポジションに複数の選手を置いていろいろな可能性を提示しました。

 トッテナムはアウェイですから守備的に入るかもしれませんが、でもそうはならないのがノースロンドンダービーです。ホームもアウェイもなくどちらも前に出て行くような展開になるのではないでしょうか」

アーセナルの課題

――アーセナル視点で考えた時、プレビューでも指摘のあったトッテナムの左サイドの穴は突きたいポイントのように思えますが、今のお話でいくと無理矢理そこを狙うのではなく、まずは自分たちの強みを出すことを考えるべきでしょうか?

 「そうですね。ただ特にエジルはそういうことを感じてプレーすることができる選手ですから、出場するかどうかはさて置き状態が良いエジルであれば相手組織に穴を作る働きが期待できます。セバージョスに関してはボールプレーヤーなので、ゴール方向に向かって走る動きはそれほど期待できないかなと思います」


――ラムジーはボールを持って運べる、縦への推進力がある選手でした。その点が去年のチームとの違いの一つになります。

 「そうですね。中盤からフリーランでゴール方向に向かって走る、そういう選手がいなくなったかなというところはあります」


――逆に、前線にはそういう縦への推進力を持った選手がいます。

 「ただ、例えばオーバメヤンをサイドに置くのはもったいないですよね。加えてオーバメヤンとペペをサイドに置いて守備が機能するのかという懸念もあります。ラカゼットの場合はサイドに置けば守備に関しても意識してやってくれるでしょう。でもそれだと彼が持つ良さが出なくなってしまいます」


――ラカゼット、オーバメヤン、ペペという組み合わせでは、やはりバランスを取るのが難しい。

 「見てみたい気持ちはありますがエメリ監督の立場になって想像してみると使いづらいんじゃないでしょうか。さらにトップ下をエジルにしたら、(守備力の高くない選手が)4枚になりますから。例えば昨シーズンはオーバ・ラカゼット・エジルの3人に対しハイプレスというタスクを渡し『守備面ではこのタスクだけはこなしてくれ』という形のマネージメントしていたように僕には見えました。ですが先ほど述べたようにそれでもうまくいかない場面が少なからずあったわけですし、この前のリバプール戦でも後方からのカウンターはうまくいったものの、前線からの守備は中途半端で自陣で守る際のセバージョスの位置取りも曖昧でした。ペペがラカゼットに代われば前線からのプレスはうまくいくかもしれませんが、ロングカウンターの場面ではペペの方がいい。

 フットボールにおいては何をするにしても得られるものと失うものがあります。リバプール戦ではロングカウンターはうまくいっていたんですが、守備では散々SBからのクロスを許し失点にも直結してしまいました。

 後方からのビルドアップに関しても、右SBのメイトラン・ナイルズは前に出て行った時はいいんですが、自陣でのプレーにはプレス回避の部分に不安があります。

 ダービーでも強いプレスを受ける可能性は想定されるのでこの点については手直しが必要だと感じます」

アーセナルのメスト・エジル
体調面の問題もあり今季まだ出場のないエジル。今節での復帰の可能性が報じられているが起用はあるか、またその時にはどんなメンバーをエメリ監督は送り込むか、注目が集まる(Photo: Getty Images)


――なるほど。今回は試合の中継がキックオフ20分前の24時10分からで先発メンバーを踏まえたプレビューの時間がいつも以上にありますので、戸田さんの展望を楽しみにしています。最後にあらためて、このノースロンドンダービーはもちろん、今後も熱戦が期待されるプレミアリーグの魅力と、解説者として心がけたいと思っていることを聞かせてください。

 「プレミアリーグには豊富な資金力を背景に優秀な指導者や選手がどんどん入って来ています。ひと昔前までは戦術的に遅れていると言われていましたが、ポジショナルプレーのような理論を採り入れた若い指導者が下のリーグから上がってきてもいます。でもベースにはパッションがあり、縦の速さやパワフルなところもある。全体のレベルが上がってつまらない試合というのがなくなってきて、どこかに偏ることなくあらゆる面で魅力的な、煌びやかなリーグだと思います。

 特にトップクラブには優秀な監督がそろっていて戦術的に語りがいがありますし、ポジショナルプレーのような要素が当たり前に入って来るようになってきていると感じています。ただ、関心が高まってきてはいるのかもしれませんが全部は無理ですし、それだけだとつまらなくなってしまいます。ですから、そういう理論的な要素は少し伝えられたらなとは思っています」

プレミアリーグ第4節 アーセナル vs トッテナム LIVE ON DAZN

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2019年9月1日(日)24:10~(KO:24:30)DAZN独占ライブ中継&見逃し配信
アーセナル vs トッテナム


Photo: Nahoko Suzuki

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Profile

久保 佑一郎

1986年生まれ。愛媛県出身。友人の勧めで手に取った週刊footballistaに魅せられ、2010年南アフリカW杯後にアルバイトとして編集部の門を叩く。エディタースクールやライター歴はなく、footballistaで一から編集のイロハを学んだ。現在はweb副編集長を担当。