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ノースロンドンダービーに見たフットボールの新たな価値観

2019.08.30

プレミアリーグ第4節では“ノースロンドンダービー”アーセナル対トッテナムが開催される。DAZNで独占配信されるこの一戦は過去に数多くの因縁を残しており、激しい展開になることは必至。そんな試合の見どころをロンドン在住の狂信的グーナー(アーセナルサポーター)である、さる@göönerさんが経験もふまえて紹介する。

ノーロンダービーの洗礼

「フットボールとはサポーターの代理戦争である」

 それをいつも実感させてくれる試合、それがノースロンドンダービーだ。ダービーが戦争? 出たよー……それってあれでしょ? 海外厨のマウント的なやつでしょ?? 確かに 空から爆弾が降り注ぐわけでもないし、そう思われても仕方はない。何より実際の戦争とは比べてはいけないとは思う。だがお互いの憎しみ度合いに関しては戦争までいかなくとも、ちょっとした紛争レベルを体感することはできる。それがノースロンドンダービーなのだ(トッテナムの旧本拠“ホワイトハートレーンでの”という注釈つきではあるが)。

 かく言う私もこのノーロンダービーのアウェイ、つまりホワイトハートレーンで殺されかけたことがある。それは今から9年前、ノーロン童貞だった自分が初めて経験したダービーマッチ、 カーリングカップ(現カラバオカップ)3回戦での出来事だ。試合前、グーナーの大先輩からは「“赤いもの”だけは絶対に身につけるなよ!」そう何度も釘を刺されていたのだが、最寄駅を出た瞬間すぐにその意味を理解した。目の前にはパトカー十数台が列をなし、上空からはヘリが徹底監視という、キックオフ2時間前だというのに実に物々しい雰囲気。ちなみにスタジアムの最寄駅は「Seven Sisters」 (7人の姉妹) という非常にメルヘンチックな駅名ではあるのだが、実はこの周辺は2011年に発生したロンドン暴動の震源地であり、夜な夜な犯罪が勃発することで知られた物騒なエリアである。

 多少の予備知識から何が起きても驚かない自信はあったのだが、この厳重警戒っぷりには「ノーロン最高! ひゃっほー!」などという薄っぺらい観光気分はあっという間に吹き飛び、崖下に隠れるランボー(シルヴェスター・スタローンの方)よろしく、心の赤いハチマキを締め直したのはいうまでもない。そして、その覚悟は決して間違いではなかったことをすぐに思い知らされる。

 スタジアムまでの道すがら、白シャツの男達に無条件で2本指(中指と同義語)を立てられる赤いマフラー青年。指を立てられるのはまだいいほうで、追いかけ回された挙句、電柱に串刺し顔面ウォッシュを喰らう者、また路上に倒れたところを、天龍ばりのサッカーボールキックを頭部に喰らい動けなくなる者など、格闘技を見慣れている自分でさえ衝撃を隠せない、なかなかなショッキング映像のオンパレード。絶対ガラケー必要だよこれ!ってやつ。さらに、馬乗りの殴り合いを馬に乗った警察が止めに入るという、なんともシニカルでピースフルな一連のくだりは、イングランド新喜劇による体を張った何らかのメッセージなのでは!?イングランド人最高!!と謎の感動さえも覚えてしまうほど。それでもまだ若干他人事ということもあり色眼鏡で見ている部分があったのだが、その後自らもノーロンの洗礼を受けることになるとは……。

ホワイトハートレーン周辺を警備する警官

 幾多の困難をくぐり抜けなんとかスタジアムにたどり着き、スパーズサポの奇異の目線と罵詈雑言のシャワーを一身に浴びながらボディチェックを受けようとしていた矢先の出来事だった。突然自分の足下で、何かが水しぶきのようなものを上げながら勢い良く弾け飛んだ。「な、何事!?」と思いながら、日も落ち薄暗くなった地面に目を凝らすと、それはしっかりと中身が入った缶ビールのロング缶だった。しかし、銘柄が、カーリングじゃない……カーリングカップなのに……。おい、そーいうとこやぞ!! とっさにそんなことが頭を駆けめぐると、警備のおじさんがボディチェックも早々に切り上げ「もういい!早く中入れ!早く!」と、機転を利かせ中へ避難させてくれた。よくよく考えたら、中身入りの缶ビールなど見事テンプルに命中すればおそらく病院直行、下手したら死線を彷徨う的なやつ……この時、一人戦場に降り立ったランボーの気持ちを圧倒的に理解。ただしランボーと一だけつ違うこと、それは、自分には仲間がいるということ。グーナーという世界一心強い同士が。

 ここまでお膳立てをされたら、もはや健全なフットボールとは呼ぶことは不可能。これは「試合」という名を借りた命を懸けた「死合」だ。そして冒頭に述べた「フットボールとはサポーターの代理戦争である」を心の底から実感した次第なのである。そんな極限状態の中、命からがらスタジアムにたどり着いたサポーターは、爆弾の代わりにコインが降り注ぐアウェイスタンドで喉が潰れるほど全力で叫び、 歌い、俺たちの代表を鼓舞する。時には相手サポの地鳴りのような地団駄と罵声に絶望しながら、ピッチ上のプレーヤーの一挙手一投足に固唾を呑む。ダービーの歴史を紐解けば、様々な遺恨やこれまでの経緯はわかる。しかし、昔の出来事をうっすらとしか知らない、自分のようなニワカさえ巻き込んでしまう闘争、それが、勝てば天国負ければ地獄、ヒリヒリした魂の削りあい、ノース・ロンドン・ダービーなのだ。

絶対的自信の理由

 そんなダービーが、9月1日アーセナルのホーム、エミレーツ・スタジアムで開催される。

 今夏の移籍市場では、100億の男ぺぺを複数年分割というウルトラCで獲得し、中盤には入団わずか2戦目にしてMoMを獲得したエロい人セバージョス、そしてDFには暴走王ダビド・ルイスをライバル・チェルシーから格安で引っこ抜き、セルティックの若武者キーラン・ティアニーをスコットランド最高額で迎え入れるなど、絶対君主クロエンケ体制の下、ロマン派からの脱却ともとれる立ち回りで歴史的大補強を決行したアーセナル。第3節リバプールに負けはしたものの、まぁ、あそこはただの優勝候補だし、すでに出来上がってるチームと比べるのはナンセンスなのは絶対的真理。それはさておき、補強組とケガからの復帰組が完全にフィットしさえすれば、実は何も恐れるものはないほど、我われには強力なスカッドがあるのだ。

今シーズンアーセナルに新加入したニコラ・ペペ

 しかしその一方で、常にチームを鼓舞し続けてきたキャプテン、コシエルニーの退団や、生え抜きイウォビの移籍、そしてナチョ(モンレアル)にもスペイン帰還の噂が持ち上がるなど、ノーロンを知る“魂”を持った選手が減りつつあるのも事実。小手先だけでは通用しない、それがノーロンダービーだけにその辺に一抹の不安が残るところだが……。

 とはいえ、個人的にはまったく心配はしていない。私はこの3カ月間「さるザップ」と称した地獄のダイエットを行い、9.1kgの減量に成功した。そしてその間、この日のためにあるものを大量に摂取し続けてきたのだ。そのあるものとは、勘のいい方ならすでにお気づきだとは思うが、そう“鶏肉”である。

  ちなみに「なぜ鶏肉?」という方のために一応お伝えしておこう。グーナーという人種(日本限定の可能性あり)は、スパーズのアイコンの変な鶏に引っかけ、ノーロン前はゲン担ぎのため鶏を食べまくる習性がある。そんな感じで、3カ月毎日朝昼晩と、痛風の恐怖と戦いながら、文字通り命がけで“鶏”ばかりを喰らってきた。なんなら世界中のどのグーナーよりも摂取してきた自負がある。そんな自分が応援するクラブが、負けるわけがないではないか!(キッパリ)

 「リバウンド王に俺はなる!」という確固たるポリシーの下、一時帰国中10日で8kgのリバウンドに成功した勢いで、全力でノーロンに臨むつもりなのである。

 え、観どころ? 最初から最後まで全部!!

 P.S.身の危険を感じる路上の大乱闘はノーロンアウェイ、ホワイトハートレーン限定。エミレーツで行われるノーロンダービーは世界一安全なので、参戦される方は是非真っ赤なシャツを身につけ、胸張って、堂々と観戦していただきたい!

プレミアリーグ第4節 アーセナル vs トッテナム LIVE ON DAZN

2019年9月1日(日)24:10~(KO:24:30)DAZN独占ライブ中継&見逃し配信
アーセナル vs トッテナム


Photos: Getty Images

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アーセナルトッテナム文化

Profile

さる@gööner

ノースロンドン在住、アーセナルのせいで帰国できなくなった非国民。アーセナル出家信者。ダイエットにも役立つかもしれない8割妄想2割ガセのエアブログほぼ毎日更新中『Arsenal 猿のプレミアライフ』♪底辺ユーチューバーもやってるよ!『Arsenalさるチャンネル』。