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ネイマールの演技は悪くない! もっと酷い“最悪ダイバー”10選

2018.07.15


文 ジェイ
協力 フットボリスタ・ラボ


 サッカーをこよなく愛するみなさん、こんばんは。ジェイ(@RMJ_muga)と申します。

 2018 FIFAワールドカップ ロシア大会も残りあとわずかとなりましたが、いかがお過ごしでしょうか。

 前回は「twitterの戦術家たちがメキシコを丸裸に。ドイツ対メキシコ リアルタイム分析レポ」という、難解な戦術用語が飛び交うまとめ記事を書かせていただきましたが、好評をいただきつつも「面白いが内容は半分も理解できなかった」「難しい」というご意見も見受けられました。やはり戦術に関する内容はまだまだハードルが高いと感じる方々も多いようです。

 かく言う私も、まとめ記事を書かせてはいただいたものの、全部理解できているのかというと非常に怪しいところがあります。フットボリスタを読みながら一緒に勉強していきましょう。(宣伝です)

 それはさておき、今回は戦術とは対極?にある箸休め的な内容ですので、肩の力を抜いて読んでいただければ幸いです。

 今回のワールドカップが盛り上がるさなか、サッカーという競技そのものとは別のところでひとつの流行語が生まれました。

 それが「#NeymarChallenge(ネイマールチャレンジ)」です。

 今大会からVAR(ビデオアシスタントレフェリー)制度が導入されたこともあり、ファウルシーンのリアクション、シミュレーション(審判を欺く行為)への注目度も格段に高まり、これまで以上に執拗にリプレイ映像が流されるようになりました。

 その流れから、もともと大げさなリアクションに定評のあったネイマールについて特に注目が集まり、どこからともなく前述の「ネイマールチャレンジ」という流行が発生しました。

 「ネイマールは大会中、合計14分間転がっていた」などと、統計まで取られる始末。

The Neymar Challenge! pic.twitter.com/TWP8i5ALyZ

— Football Fights (@footbalIfights) 2018年7月9日

 新たなスポーツ?まで産み出してしまいました…。それにしてもこの司会者、ノリノリである。

 事例を紹介するとキリがありませんので、各人で「#NeymarChallenge」のハッシュタグをを検索していただければと思うのですが、ここまで来るとさすがに可哀想というもの。

 もちろん、あまりにオーバーリアクションだったり、シミュレーションまがいのプレイをしてしまうこともあるネイマール自身の責任もあるかとは思いますが、なぜネイマールがそこまで転がっているのかというと、やはりそれは、彼が世界屈指のクラッキ(名手)だからです。

 彼のドリブル突破を恐れればこそ、相手チームは決死の覚悟で彼を止めにかかり、ファウルまがい、ファウル覚悟で削りに来ます。結果として、好むと好まざるとにかかわらずネイマールは転がってしまうのです。ピッチ上でネイマールにチャレンジしてくる相手がいる限り、ネイマールチャレンジは生まれ続けるのです。(もちろんコスタリカ戦のアレみたいのは駄目ですが……)

 彼の不運は、彼自身が世界のトップスターであり名選手であることに加えて、ワールドカップ初のVAR導入というタイミングが重なったことにあります。

 このままネイマールばかりが責められる、ネタにされ続けるのもいかがなものかと思いますので、ここで一つ、ネイマールへの行き過ぎた批判が少しでも収まればとの願いを込めて、過去の選りすぐりな悪質ダイブをご紹介したいと思います。

 これからご紹介するあまりに酷いダイブ集を見ていただき、「ネイマールも(それほど)悪気があったわけじゃないしな……」とみなさんの溜飲が下がり、ネイマールをそっとしておいてあげられる心の余裕が生まれてくださいますれば、これにすぐる喜びはございません。

 それでは、どぞ!

【①エル・ニーニョ】

 トップバッターは先日、J1サガン鳥栖入りが発表されたばかりの超大物です。

 2010年ワールドカップ南アフリカ大会グループH、負ければスペインのグループステージ敗退が濃厚な第3節。動画はスペインが2点目を決めた37分の場面です。

 ただでさえイニエスタに追加点を奪われたシーンだというのに、この判定でチリ13番マルコ・エストラダには2枚目のイエローカードが提示され退場に。この後、スペインは勝利したものの10人のチリに1点差まで迫られていますので、この判定が勝敗を分けたと言うこともできそうです。

 ただ、エストラダもそれまでに退場になってもおかしくないラフプレーを連発していたということで、スペイン寄りの視点からすると「わずかに接触があったので、そこまでのプレーも鑑みてスリーストライクアウト」的判断が適用されたのだ、という擁護意見もあったようです。

【②エア張り手】

 続いては舞台を大きく変えて中国超級リーグ、上海申花対杭州緑城の一コマ。

 カオ・ユンディン(曹贇定)の激しいマークを受けた杭州緑城の9番アンセウモ・ハモンが振り払うような動作を見せますが、これがまったく当たっていないながらカオが大げさに倒れ込み、乱闘に発展しかけました。これはダイブとは違うのでは?という気もしますが、まあ勝手に吹っ飛んでいますので。

 試合中には誰しも「あわよくば相手にカードを、退場を」という思考が頭をよぎるものですが、ドリブルなどでファウルを誘発するならまだしも、こういった形で誘うのは大変見苦しいのでやめていただきたいですよね。

 ちなみにアンセウモ・ハモンは2009年シーズンに柏レイソルに在籍しており、元浦和レッズのマシュー・スピラノビッチも映っているなど、地味に味わい深い動画となっています。


【③To add insult to injury.】

 続いてもJリーグ関連というか、柏レイソルと徳島ヴォルティスに在籍したドゥンビア・セイドゥ。

 2017年9月27日に行われたUEFAチャンピオンズリーグ、スポルティング・リスボン対バルセロナの一戦。ドゥンビアはこのシーンでシミュレーションを取られてイエローカードを頂戴したばかりか、なんと負傷までしてそのまま交代。仮に倒れずに踏ん張っていればケガもせずに、ひょっとするとチャンスになっていたかもしれません。まさに「To add insult to injury(踏んだり蹴ったり)」なシーンです。


【④フライングジャーマン】

 少し時を遡って、20世紀。

 1990年ワールドカップイタリア大会、決勝のアルゼンチン戦で大空を舞ったユルゲン・クリンスマンは以降「ダイバー」と批判されることに。相手DFも危険な足裏タックルを放っているため、カードは妥当なのではという気もしますが、着地後さらに跳ね上がるなど、派手に飛びすぎました。

 ちなみに、クリンスマンはいわゆる「ダイビング・セレブレーション」の開祖と言われていますが、ダイバー呼ばわりされたことへの皮肉だったのかどうかについては諸説あります。


【⑤Real sportsmanship】

 さすがにダイブばかりだと食傷気味になってきますので、このあたりで一服の清涼剤を。

 2013-2014シーズンのブンデスリーガ第24節、ニュルンベルク対ブレーメンにおいて、素晴らしいフェアプレーが披露されました。

 動画のシーンでは、ブレーメンのMFアーロン・ハントが倒されたとして一度はPKの判定が下ります。しかしハントはすぐに、足はかかっていなかったと主審へ自己申告。これが認められ、なんとPKは取り消しとなります。ブレーメンが2点リードしていた状況とはいえ、なかなかできることではありません。

 この動画には試合序盤に起こったもう一つの出来事(自軍CKの判定に対して相手チームの選手が抗議し、清武はそれに同意してゴールキックに変更となった)も紹介されており、この2つのフェアプレーには「真のスポーツマンシップだ」と大きな賛辞が送られました。

【⑥瞳に映るもの】

 ごめんなさい、こういう時なんてコメントしていいかわからないの……。

 振り返ったその視線、彼の見つめる先にあったものは一体何だったのか。


【⑦一人時間差】

 続いて登場するのは懐かしの元イタリア代表ストライカー、アルベルト・ジラルディーノ。

 ディフェンスのタックルをかわしたかに見えたのですが、何かを思い出したかのように、ひと呼吸置いて崩れ落ちています。

【⑧顔はやめときな】

 なぜ人は、顔にダメージを受けたわけではないのに顔を押さえて倒れ込んでしまうのか。

 その答えを知るのは、人類にはまだ早過ぎるのかもしれません。


【⑨指先ひとつで】

 ちょっとぶつかっただけで派手に倒れる、小突いただけでまるでタックルを受けたかのようにもんどり打つ、というのは悪質ダイブ業界では日常茶飯事ですが、こちらの動画はその上を行っています。

 首筋に触れられただけで、途轍もないダメージを受けたかのように倒れこむ異常事態。

 あまりにも酷いオーバーアクションですが、相手選手が一子相伝の拳法の使い手で特殊なツボを突かれた、という可能性も捨て切れませんので、詳しい検証が待たれます。


【⑩合気とは敵を破る術ではなく、世界と和合する道である】

 トリを飾るのはこちら、U-20南米選手権で起こった衝撃的なダイブ?です。

 ここまで紹介してきた事例は基本的に、自作自演でした。そもそもダイブとはそういうものです。

 しかしながら、こちらのシーンでチリU-20代表DFブライアン・カラスコが取った策は、相手の力を利用するというもの。合気です。

 背後から密着マークしたカラスコは、おもむろに相手の腕を取り、自分に振り上げてあたかも殴られたようなシーンを作り出しました。これによりファウルを獲得することには成功しましたが、どうもカードは出なかったようで、リードされた場面での一世一代の演技としては割に合わなかったのではないでしょうか。

 ただこの動画の一番の見どころは実況席の爆笑具合だと思いますので、ぜひ音量を上げてご視聴ください。


◯ ◯ ◯


 いかがでしたでしょうか。

 ここで紹介した事例に比べれば、ネイマールが14分間転がっていた、などというのは些末な事象に見えてきませんか?

 どだい、スピードに乗った状態で足を引っかけられれば、人体は否応なしに転がるのです。私も先日フットサルをしていて、相手の裏に抜け出そうとしたところを後ろから思い切り蹴られたのですが、それはもう自分でもびっくりするくらいに転がりました。

 「サッカー選手はいちいち痛がり過ぎだ」「本当に痛い時は動けないはず」という意見もありますが、外野からどう言われようと痛い時は痛いのです。

 サッカー選手が派手に倒れた際、私たちはついつい「またダイブしてる」「大げさに痛がっちゃって」と思いがちです。

 その時にはほんの一瞬でもいいので「でもやっぱり痛いよな」「削られても何度でも立ち上がるのが男の子だよな」と、選手を労わってあげてください。

 もちろん、それがあからさまなシミュレーション行為だった場合はしっかりと批判しましょう。

 ただでさえ選手は『自分は審判から目をつけられている』と被害妄想に陥りがちです。

 「ネイマールのことだからダイブに違いない、わざと痛がっているに違いない」「ニヘル・デ・ヨンクのことだからわざと踏んで蹴ったに違いない」と色眼鏡で見るのではなく、プレーごとにフラットな視線で批評していきたいものです。

 最後に余談ですが、フットボリスタが追求するテーマの一つである『日本サッカーの日本語化』の例として「日本にはマリーシアの意味が間違って伝わってしまった」というものがあります。

 マリーシアを「ずる賢さ」と訳してしまったばかりに、ここに挙げた動画のようなズルくてマイナスなイメージばかりが定着してしましました。

 本来のマリーシアとはズルさではなくて、馬鹿正直に戦うのではなく、試合の流れを読み、自分たちのサッカーだけでなくあらゆる戦術、手段を行使して狡猾に戦う、そういった意味だとも言われています。

 本当の意味でのマリーシアを探すべく、私はサッカー大国イタリアのある練習場を訪れました。

 どうやら場所を間違えたようです。この話はまたの機会にしましょう……。

 以上、余談でした。

 長々と書き綴ってしまいましたが、この記事で訴えたかったことは

 「ネイマールなんて可愛いものじゃないか。(我われは普段、世界の片隅、アジアの地でもっとバタバタと倒れる連中に遭遇している)ネイマールばかりを責めるのはやめよう」

 という、ただそれだけです。

 本稿を、不幸にも世界中からおもちゃにされてしまった偉大なフットボーラー、ネイマール・ダ・シウバ・サントス・ジュニオールに捧げます。

 (※最後の動画は英国『ガーディアン』紙のジョークCMですので、誤解のなきようお願いします。サッカー選手はダイブの練習なんてしません。たぶん)


Photos: Getty Images

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FIFAワールドカップネイマール

Profile

ジェイ

1980年生まれ、山口県出身。2019年10月よりアイキャンフライしてフリーランスという名の無職となるが、気が付けばサッカー新聞『エル・ゴラッソ』浦和担当に。footballistaには2018年6月より不定期寄稿。心のクラブはレノファ山口、リーズ・ユナイテッド、アイルランド代表。