W杯組の調整不足、新加入選手の適応などの問題で出足は多少もたつくかもしれないが、やはり優勝を争うのはアトレティコ・マドリー、バルセロナ、レアル・マドリーということになるだろう。選手層と戦術の浸透度から考えて飛び抜けた存在だからだが、それぞれに課題もある。それが克服できないと4位以下にまで転落するほどではないが、優勝争いから脱落する怖れはある。もっとも、3チームとも課題を解決できないままシーズンが進み、優勝ラインが下がってリーガが面白くなる可能性もあるのだが。
ジエゴ・コスタ、クルトワ、フィリペ・ルイスが抜けたアトレティコは思ったよりも戦力が落ちていない。やはりこのチームはタレントではなく、戦術的な規律や運動量を原動力としているのだろう。スペインスーパーカップ第1レグでは、昨季よりも戦力を充実させたレアル・マドリーとまったく互角に戦った。この試合ではマンジュキッチがD.コスタの役割を、シケイラがF.ルイスの役割を完璧にこなした。そもそもGKモジャはリーガの経験が長く適応の問題がないから、昨季の主力の穴を埋める3人の新戦力の適応が順調だと仮定すると、グリーズマンの加入はその分上乗せになる。こうなればシメオネがもくろむ、彼をトップ下に据えた[4-2-3-1]で相手の目先を変えることができるだろう。
しかし、そこまでうまく行ったとしても、今季のアトレティコには不安がある。それが規律と運動量を支えているメンタリティの問題だ。シメオネ自身が振り返っているが、長期戦であるリーグ優勝は短期決戦のチャンピオンズリーグ(CL)優勝よりも難易度は高い、とチームは捉えていた。その最高難易度の目標を達成した彼らの目に連覇がどれほど魅力的に映るものなのだろうか。シメオネのチームに限って気の緩みはない。が、心の疲れはある。それが出るのは下位チームとの対戦時だろう。引いて守ってカウンターに出るのを得意とするアトレティコはもともと同タイプのチーム、つまりリーガの順位表の10位から下のチームを戦術的に苦手にしている。そこに昨季並みの欲が持てず、別のコンペティション(CL)により魅力的な目標があるとすれば……。相手の諦めを誘えば勝負事は勝てると信じるシメオネが率いるアトレティコは、決してスタートダッシュにはしくじらないはずだ。彼らにメンタリティの危機が訪れるのは、CLのグループステージが終わりコパ・デルレイというCLよりもさらに手軽なコンペティションが始まる12月から1月にかけて。ここでリーグ戦への集中力が切れるということは十分にある。どれかのコンペティションを切り捨てなければならなくなった時、シメオネの答えははっきりしているし、実のところそれは彼にとって想定内の事態だと思う。
■バルセロナの、上積み以上の課題
バルセロナの最初の課題はスアレスの出場停止期間中のチームのパフォーマンスだったが、これは解決済みと言っていいのではないか。ゴール量産中のエル・ハダディらBチームからの昇格組が予想以上にいいことと、ラフィーニャとラキティッチが完璧にフィットしていること、それにマテューがCBで合格点以上のプレーをしているからだ。バルセロナのカンテラ出身のラフィーニャの適応の早さには驚かないが、ラキティッチのそれには目を見張った。縦への意識を強めざるを得なかったセビージャ時代とは異なり、キープのためのパス交換も楽しそうにこなした上で、武器である大きなサイドチェンジやロングシュートで相手ゴールを脅かす、という幅の広がったラキティッチの姿を見ると、ルイス・エンリケもシャビをベンチに座らせざるを得ないだろう。マテューについては獲得時にバルセロナファンから疑問の声が上がったが、いつか彼らは考えを改めるだろうと思っている。上背がなくスピードのないバルセロナのCB陣に、その両方を兼ね備えているマテューはうってつけの選手である。しかも、彼がいれば守備固めの時にはSBに起用するというオプションまで使えるのだ。加えて、ネイマールとメッシも2季目となってコンビネーションが向上しているように見える。
ここまでのプラスにスアレスがトラブルなくチームに溶け込むとすれば、さらに大きなプラスアルファが生まれるのは間違いない。が、ここ数年のバルセロナの最大の課題は、選手の顔ぶれとは関係のないところで生まれ、未解決のままで今日に至っていることを忘れてはいけない。今季は違う、と言われて順調にスタートしながらも必ず失速している、「前からのプレス」という課題だ。今はうまく行っている、前半戦もうまく行くだろう。だが、3月にはどうなっているか? スアレス、ネイマール、メッシが並びそうな恐るべきバルセロナの攻撃力は、プレスによってボールを回復しなければ何の役にも立たない。セビージャで90分間、シーズンを通して走り続けたラキティッチは良い見本となるだろう。が、もちろんそれだけでは不十分で、ルイス・エンリケがいかに選手たちを刺激し続けられるかが鍵になる。デウロフェウを守備ができないとして切った(セビージャへレンタル移籍)彼が、同じことを主力に対しても貫けるだろうか。
■魔法には限度、それでも主役
レアル・マドリーは誰もが指摘している通り、アンチェロッティが上手にスターたちを配置できるかに浮沈が懸かっている。アトレティコとのスペインスーパーカップ第1レグでハメスは、Rマドリーでの公式戦初ゴールを決めた。ロナウドの左足太腿の筋肉疲労による途中交代でめぐって来たチャンスを生かしたのだった。今回はケガではないが、4月からW杯を挟みもう4カ月も絶好調のロナウドを見ていないとさすがに不安になる。このロナウドの体調が大きな課題になる可能性を残しながら、現時点でのRマドリーの最大の課題は、控え組に文句を言わせないことに尽きるのではないか。
スター選手全員が機能するシステムを魔法のように編み出してしまうアンチェロッティだが、今回ばかりは無理なような気がする。どう配置しても、ロナウド、ベンゼマ、ベイル、ディ・マリア、ハメス、クロース、モドリッチ、シャビ・アロンソのうち2人はベンチ送りである。これでもすでにイスコとケディラをベンチ要員と断定しての話である。
ならば単純に[4-3-3]のままで、FWにはロナウド、ベンゼマ、ベイル、ハメス、ディ・マリアから調子の良い3人を選び、MFをディ・マリア(MFもできるからFWと兼用)、X.アロンソ、クロース、モドリッチから選ぶというやり方が手っ取り早く、しかも最強チームへの近道なのだ。スターの持ち味がバリエーションとなるRマドリーに戦術的なバリエーションはいらない。システムは1つでも顔ぶれと組み合わせが違えば、攻撃のパターンは自然と異なる。
スペインスーパーカップ第1レグでシメオネが「Rマドリー最高の選手」と称賛したディ・マリアは出場機会を求めて出て行く寸前だ。もし、アンチェロッティが15分間のプレーでもスターに文句を言わせない魔法のようなマネージメント法を編み出したら、ディ・マリアだって残留するだろう。彼抜きのチームとそうでないチーム、どっちが強いかは明らかだ。まだ若いハメスはベンチ生活でも我慢できるだろう。ベイルは? ケディラは? ベンゼマは? イスコは? 不満さえ出なければ、いや少しくらいなら出てもRマドリーがリーガ優勝争いの主役だろう。
(文/木村浩嗣)