ブラジル・ワールドカップはこれまで大きな事故も事件もなく順調に進んでいる。
僕は18試合を観戦するスケジュールを立てていたが、なにしろ広大なブラジルでは移動はほとんどが飛行機になる。飛行機はちゃんと飛ぶのだろうかと疑問だった。18試合のうち、2、3試合は観戦できなくなってしまうのではないか……。そんな覚悟もしていた。
しかし、移動は順調だった。
何カ月も前にしていたのに急に予約が変更されたことはあったが、飛行機自体はほぼスケジュール通りに飛んでいるし、メディア向けのシャトルバスも時間通りに運行されており、まったくストレスを感じないで済んでいる。
はっきり言って、「ブラジル人もビックリ」らしい。
日本人が抱いているブラジルのイメージといえば、フッチボウかサンバか、あるいはコパカバーナのビーチか、そんなものだろう。ワールドカップを前にして、スタジアムや空港の建設が遅れているというニュースが流れ、大会が始まってからは窃盗被害が報じられて、日本人のブラジルに対するイメージは悪くなってしまったかもしれない。
だが、現実にブラジルに来てみると何か違うのである。特にブラジルらしい楽しいことだらけでもないし、危険なことがたくさんあるわけでもない。この国に来て3週間、僕はきわめて普通に暮らしている。
それはそうだ。例えば、有名なカーニバル。あれは年にたった数日のお祭りである。そもそもカーニバルというお祭りは、日常の生活を律していた身分制度を取り払ってハメを外して楽しむお祭りだ。厳しい日常生活があるからこそ成立する祭りなのだ。
「治安が悪い」というのも、もちろん統計的な事実だが、とくに危険な地域に入り込まない限り、そう滅多に凶悪事件に巻き込まれることはない。レシフェのメトロに乗った時、かなり車内が混雑していたので思わずスリを警戒した。だが、車内で前に座っていた人たちは、僕が持っている荷物を自分の膝の上に置いて持ってくれた。そんな親切な人が大多数なのだ(子供連れが乗ってくれば、見知らぬオバサンが子供を抱っこしてくれる)。
大会前はワールドカップ反対運動やストで揺れていたブラジルだが、大会が始まってからは「大会を何とか成功させなければ」という意識に変わったようだ。お祭り騒ぎというより、「本当にうまく行くのだろうか?」と固唾を呑んでいる。そんな雰囲気なのだ。
そして、ブラジル人はワールドカップという大会をなんとか無事に成功させつつある。「俺たちだった、やればできる」。ブラジル人はそんな自信を持てるのではないだろうか。そして、その自信はこの国の将来にとって大きな財産になるのかもしれない……。
(文/後藤健生)