アップセットは起こった。ナポリはドルトムントを、真っ向勝負の攻撃サッカーで破った。「『我われは強い』と世界に宣言する」とベニテスが試合前日に語った目標は、センセーショナルな形で達成された。
ドルトムントの持ち味はハイプレスからの速攻である。これに対し「1人をハーフウェイラインの手前に下げることはしない」と語っていたベニテス監督だが、守備面ではばっちりと対策を練ってきた。プレスラインを10mほど後方に下げ、3枚の攻撃的MFも参加させたコンパクトな守備組織を用意。ドルトムントがゲーゲンプレッシングと呼ばれる、ロストボール奪取のために高い位置から攻守の切り替えを行った際は、最終ラインがブレイクして相手FWの仕掛けをブロック。ペナルティエリアの手前でショートカウンターを潰した。
そしてボールを奪った後は縦方向にショートパスを交換し、サイドを中心に相手DFライン裏のスペースを攻略した。右ではカジェホンとマッジョが連動。そして左では、技術の高さを買われて起用されたイタリア代表の新鋭インシーニェがチャンスを作り、さらにスニガが盛んに攻め上がってリズムを作る。
そこに絶妙なアクセントを加えたのが1トップのイグアインだ。臨機応変に中盤に下がってパスの繋ぎを助けたかと思えば、鋭いダッシュで相手CBの背後を狙う。チームメイトがサイド攻撃でDFラインを横に拡げると、アルゼンチン代表FWは面白いようにそのギャップを突き、ナポリはカウンターから何度も危険な形を作った。
26分に速攻からレバンドフスキにゴールを脅かされたが、その3分後に先制。左サイドを崩した後にCKを得ると、ショートコーナーからインシーニェと組み立てを図ったスニガが右足でクロス。その先には俊敏な動きでマークを外したイグアインがいた。正確なヘッダーで合わせたボールはゴール左隅へ。攻撃の流れを作っていた3者が絡んだ、理想的な先制点だった。
■“マラドーナ2世”が追加点
リードされたドルトムントはその後、審判に抗議したクロップ監督の退席にフンメルスの負傷退場、さらにエリア外で手を使ったGKバイデンフェラーの一発レッドと、前半のうちにアクシデントが連発。思わぬ形で数的優位まで得たナポリだが、ここからペースを緩めずに攻め切ったのは見事だった。サイドMFを高い位置に張らせると、ピッチを広く使ったポゼッションで相手からボールを取り上げ、次々とゴールチャンスを演出。ゴール前では精度を欠いたが、追加点の欲しい時間帯で地元生え抜きのファンタジスタが美技を披露する。67分、利き足こそ違うものの芸術的なキックでナポリの英雄マラドーナに例えられる身長163cmのインシーニェが、直接FKで追加点。右寄り、30m弱の距離にもかかわらず、右足で放ったシュートは弧を描いてバーを叩くとゴールラインを割り、2-0とする。
途中までほぼ完璧だったナポリの試合運びだが、最後のまとめに失敗したのは反省点か。2点差をつけた後からパスやトラップでのミスが増えてドルトムントにカウンターの隙を与えると、終了間際にオウンゴールから点差を縮めてしまう。後半45分間が数的有利だったこともあって4-0、5-0で試合を終わらせることも可能だっただけに、インテンシティを持続できなかったのは今後の課題か。しかし、自分たちの力でCLファイナリストから勝利を奪ったことは紛れもない事実。この白星を機に、若手中心で構成されたチームが自信を深めて勢いに乗れば、昨季のドルトムント同様の旋風を起こすことも不可能ではない。
敗れたドルトムントは様々な不可抗力に左右された面はあるが、ハイプレスがかわされるとあまりに脆い後方の守備は明確な敗因だった。次節、ホームでのマルセイユ戦には守護神バイデンフェラーとクロップ監督を欠くことになるが、スピードでナポリを脅かしたオーバメヤンをはじめ攻撃陣にはタレントがそろっているので、連敗は避けられるのでないか。一方、白星発進のナポリは次節、同じく勝利スタートを飾ったアーセナルの本拠地に乗り込む。“死の組”グループFは、最終節まで死闘が展開されそうだ。
(文/神尾光臣)
<監督・選手コメント>
ラファエル・ベニテス(ナポリ監督)
「素直に満足だ。準備したことはすべてできた。カウンターも危険だったし、守備でもインテンシティを保ってやり切り、チームとして実に良い闘いができた。改善すべき点はもちろんあったし成長が必要だが、今日はこの勝利を喜びたい。あと2カ月も経てば連係も成熟し、我われはもっといいサッカーができる」
ロレンツォ・インシーニェ(ナポリ)
「ゴールはもちろんうれしいし、重要なものだった。(イグアインの)先取点と同様にね。CLの初ゴールが地元ナポリで、しかもドルトムントのような強敵相手の決勝点となってうれしい。中盤では守備にも貢献するよう監督からは指示されたけど、走り切ることができた。コンディションが良い証拠だよ」
ユルゲン・クロップ(ドルトムント監督)
「バイデンフェラーの退場、マッツ(フンメルス)の負傷、そして私の退席がなければ、いい結果を得ていたかもしれない。だが今日は多くのことがうまくいかなかった。退席になった私の行為は愚かだった。ベストなプレーができなかったが、最少失点差での敗北であり、我われがうまくプレーできれば次はナポリに勝てるはずだ。10人になった後半はゴールを目指し、ボールがバーを叩く場面もあった。勝ち点1を持ち帰れていれば良かったんだけどね」