最後まで勝ち抜けの行方が読めない展開を生んだ最大の要因が、第1レグで敵地から2つのアウェイゴールを持ち帰っていたレアル・マドリーの“気まぐれさ”にあったのは間違いない。
直近のリーグ戦2試合で勝てず高まる批判もどこ吹く風と言わんばかりに、良く言えば余裕をもって、悪く言えば弛んだ状態で試合に入ったマドリーに対し、少なくとも2ゴールが必要なシャルケは積極的な立ち上がりを見せる。最初の5分間で2度、右サイドからのクロスを相手ゴール前へと送ると、その後はカウンターから好機を作っていく。その中心にいたのは、前回対戦では先発から外れていたMFマイヤーだった。
10分にチュポ・モティングのチーム初シュートをお膳立てした19歳のドイツ代表MFは、18分にはセンタサークル付近から自ら持ち込んでシュートを放つ。
そして20分、敵陣やや左寄りからドリブルを開始したマイヤーはピッチを横切りながらクロースのチェックをかわすと、CBペペと左SBコエントランが食いついてきたところで右ウイングバックのバルネッタへと展開。ボールを受けたバルネッタがクロスを上げた時点でペナルティエリア内では3対2の状況になっており、最後はフリーで待ち構えていたフクスの強烈な一撃が、GKカシージャスの手を弾いてネットを揺らした。
試合の均衡を破るゴールはシャルケにとって可能性を広げるものだったが、しかし同時に、半ば眠っていたマドリーを目覚めさせる合図ともなった。象徴的だったのが、試合再開後のファーストプレーでロナウドが見せた、相手CBナスタシッチに対し猛然とプレスに走る姿。スイッチの入ったマドリーは失点からわずか5分後、試合を振り出しに戻す。左CKに頭で合わせたのは、ロナウドだった。
そこからしばらくは、マドリーが攻め立てる時間帯に。ここでテンションを維持して追加点を奪っていれば、その時点で勝負が決していてもおかしくなかった。ところが、再び余裕を手にしたマドリーの選手たちの集中は長くは続かず、35分を過ぎたあたりから徐々にペースダウン。39分にCBバランの軽率なパスミスからピンチを招き、バーを直撃したフンテラールのミドルに肝を冷やした直後、マイヤーのミドルのこぼれ球に反応したフンテラールに押し込まれ、2戦合計で1点差に詰め寄られた。
しかし、これで一度は切れたマドリーのスイッチが再点灯。ロスタイム突入直前、左サイドを駆け上がったコエントランのクロスをロナウドがまたしても頭で捉えると、ハーフタイムを挟み53分にはベンゼマが決めて2戦合計5-2。ピッチ上を、今度こそ勝負ありという雰囲気が覆った。両チームの指揮官すらそう感じていたことは、60分を待たずして同時に切られたカードに込められたメッセージ――モドリッチは長期離脱明け初戦、20歳のゴレツカも同2戦目だった――にも表れていた。
■勝負の灯を絶やさなかった、想定外の1点
そんな両者の“合意”を、選手交代の直前に生まれたサネのゴールが狂わせた。残り30分強で勝ち上がりまで2点。ギリギリのところで息を吹き返したシャルケが攻め手を緩めず、一方で2点のリードがあるマドリーも守りに入らなかったことで試合はオープンな展開に。
互いに得点の匂いを感じさせる中で迎えた84分、次の1点を挙げたのはシャルケだった。速攻から、フンテラールが豪快なミドルを叩き込む。これで勢いを得たシャルケはさらに2度、カシージャスにセーブを強いたものの大逆転劇には一歩届かず。
何とか逃げ切り準々決勝進出を決めたマドリーだが、試合後のサンティアゴ・ベルナベウを包んだのは労いではなく、耳をつんざくようなブーイングだった。
(文/『footballista』編集部 久保佑一郎)
<監督コメント>
カルロ・アンチェロッティ(レアル・マドリー)
「ご覧の通り、酷い試合をしてしまった。心から申し訳なく思う。こんなゲームを好む者はいない。(ハーフタイムに)守備の修正を試みた。組織立っていなかったからね。様々な面で敬意を欠いてしまった。(ファンからの)ブーイングはもっともだ。我われをやる気にさせてくれるよ」
ロベルト・ディ・マッテオ(シャルケ)
「我われは偉大な試合をして、勝ち抜けを夢見たよ。レアル・マドリー相手に4ゴールを奪いながら、次のラウンドに進めない。うれしくもあり、悲しくもある。第1レグでも第2レグでもシュートがバーに嫌われた。少しばかり運がなかったね」