これまで低調な試合内容が議論され続けてきたアルゼンチンだが、早々に先制点を得たこの日は逃げ切り&省エネモードで戦う意思をチーム全体ではっきり共有。うまく時間を使いながら試合のテンポを落とし、ベルギーに攻撃のリズムをつかませない熟練の試合運びをまっとうした。
一番の収穫は、これまで守備の脆さを懸念されてきたチームが1点を守り切る戦い方を貫くことができたことだ。特にこれまで出番がなかった控え組はそろって良い仕事をしていた。
初先発のCBデミチェリスは、相方のガライが1トップのオリジやルカクとのマッチアップに専念できるようサポート。マイボール時には丁寧なくさびのパスをイグアインに通し、マスチェラーノ任せだったビルドアップの質を向上させる効果ももたらした。
出場停止のロホに代わって左SBを務めたバサンタは守備のタスクを無難にこなしただけでなく、本職はCBながら攻撃時には惜しいクロスを送るシーンもあった。ボランチで初先発したビリアもマスチェラーノとともに最終ライン前のスペースをよくケアし、両サイドのラベッシと負傷したディ・マリアに代わりピッチに入ったエンソ・ペレスも守備のハードワークをまっとうした。
攻撃面ではメッシをはじめチーム全体が省エネプレーに走りがちな中、ようやく今大会初得点を決めたイグアインの動きの良さが際立った。幅広く動きながら質の高いポストプレーで攻撃の起点となる彼の存在は、ディ・マリアの離脱が確定した準決勝ではさらに重要になるはずだ。
一方のベルギーは連戦の疲労からか、リードされた後も前からプレスをかけに行かない消極的な姿勢が目についた。ようやくエンジンがかかり始めたのはルカクとメルテンスを投入した60分以降のこと。トップ下のデ・ブルイネを右に移し、2列目から前線に上がるフェライーニにクロスを入れていく攻撃で単発的にアルゼンチンの守備陣を脅かすシーンを作り出したが、結局最後まで相手を押し込んで波状攻撃を仕掛けるような展開には持ち込めなかった。
連戦の疲労に酷暑が加わる厳しい条件の下では、先制した側が圧倒的に有利になる。その利点を最大限に生かす試合巧者ぶりが光ったアルゼンチンに対し、ベルギーは若いタレントたちが最後までチームとして噛み合うことがなかった。試合後のウィルモッツの敵軍批判もまた、監督としての経験不足を露呈するだけだったように思える。
(文/工藤 拓)
<監督コメント>
アレハンドロ・サベーラ(アルゼンチン)
「選手たちにとってもアルゼンチン国民にとっても、24年ぶりに世界の4強入りを果たせたことは大きな喜びだ。計り知れないほどの、しかし控えめな喜びを感じている。今はエネルギーを温存しなければならないからね。選手たちは戦術的、戦略的にエクセレントな試合をした。準決勝という最低限の目標を達成できたが、我われはもっと先まで行くことを望んでいる」
マルク・ウィルモッツ(ベルギー)
「アルゼンチンがいくつチャンスを作った? もし私があのようなプレーをさせたら、ベルギーのメディアにこれでもかというくらい叩かれることだろう。感銘を受けることなどなかった。(アルゼンチンは)並のチームだよ。我われは一つのチームとして戦っているが、アルゼンチンは単独で試合を決められる4、5人のアタッカーに頼っているだけ。攻撃と守備が2つのラインに分かれたチームだ。彼らの経験を見せつけられたね。1回のスローインに30秒もかける彼らに対し、レフェリーは何もしなかった。彼らはそうやって試合のリズムを乱し、プレーのスピードを落とし続けた」