「レシピが必要なのは料理人だけだ」
前日会見で打倒メキシコの「レシピ」の存在を口にしたクロアチアのニコ・コバチ監督の発言を、メキシコのミゲル・エレーラ監督は不敵に笑った。2位の座を懸けての直接対決。ブラジル戦そのままのスタメンを送り出したメキシコに対し、クロアチアは[4-1-4-1]の新システムを採用。左MFのオリッチの守備負担を減らすべく、彼の隣にはプラニッチ、背後にはSBブルサリコが構える。ポゼッションを高めながら敵の守備ブロックを揺さぶり、前線で張るマンジュキッチにクロスボールを合わせていった。
しかし、CBマルケスを中心としたメキシコ守備陣の集中力は切れない。コバチ監督の読みが外れたのは、メキシコの中盤が積極的なプレッシングをかけてこなかったことだ。むしろ彼らはパスコースを限定させることで、クロアチアの攻撃を封じ、じりじり焦らせていく。コバチ監督が「裏をかかれた」と反省したように、疲れさせられたのはメキシコではなくクロアチアの中盤だった。16分、メキシコが小気味良くパスを繋ぐと、MFエクトル・エレーラのミドルシュートがクロスバーを叩く。19分にもDFの裏を取ったFWペラルタがシュート。メキシコの攻撃スイッチが入るたびにクロアチアはジャブを浴びていた。
グループステージ突破には勝利しかないクロアチア。58分にコバチッチをトップ下に投入することで、いつもの[4-2-3-1]に戻したが、この交代策が裏目に出た。モドリッチとラキティッチの2人では中央の守備を支え切れず、チーム全体が綻び始める。グロッキーになったクロアチアを仕留めたのは、老練な名手だった。72分、左CKからマルケスがヘディングシュートを叩き込んでメキシコが先制。その3分後には、エリア内のコンビネーションからグアルダードが2点目。とどめは82分、途中交代のエルナンデスが右CKからヘディングでゴールに押し込んだ。セットプレーからの得点を狙っていたクロアチアにとって、完全にお株を奪われた格好である。87分にペリシッチが大会2得点目を決めるも焼け石に水。試合巧者メキシコが、6大会連続でグループステージ突破を決めた。
「人生はこれからも続く。頭を上げなければならない」
試合直後のクロアチア国営テレビのインタビューで、敗軍の将は完敗を認め、気丈に振る舞った。日韓W杯やドイツW杯でもグループステージ突破の懸かった3戦目に失速。当時の監督たちの消極的采配に対して、やるせなさを感じていたのが現役時代のコバチだった。その教訓を得た彼が理詰めで臨んだ3戦目だったにもかかわらず、またして勝負弱さを露呈した。積年の課題を克服する「レシピ」をコバチ監督は発見できるだろうか。
(文/長束恭行)
<監督コメント>
ニコ・コバチ(クロアチア)
「クロアチアにとってはW杯出場だけでも大成功だ。最後まで突破の可能性はあったが、このグループは難関だった。チームに足りなかったことを分析し、修正していくつもりだ。この半年間でチームは発展・進歩を遂げたと思っている。このプロセスを止める理由など見当たらない」
ミゲル・エレーラ(メキシコ)
「この勝利をメキシコ国民に捧げる。クロアチアは好チームだったし、難しい相手だった。だが、我われが重圧に潰されることはなかった。最も重要な場所であるピッチ上で我われは雄弁な回答を示した。選手たちは私が要求した通りの仕事を成し遂げてくれた」