試合が始まる前の勝ち点差は、実に31。結果だけを見ればその差を反映したものとなったが、ミランは今季最高とも言えるゲームを展開していた。前半はポゼッションのみならず、切り替えのスピードやシュート数も常にユベントスを上回る内容で、「僕らは凄く運があった」とGKブッフォンがため息をつくほど。だが終わってみれば、そんなミランを0ゴールに抑え、2点を奪って勝ったのはユーベ。ミランにとっては実に悩ましい試合となってしまった。
善戦のポイントは、攻撃サッカーを掲げるセードルフ監督が意を決して現実的な選択をしたことにある。テクニックはあっても、足下のパスを繋ぎ過ぎるきらいのあるトップ下を3人並べるよりも、プレスに走りスペースへ抜けられるインテンシティ(プレーの強度)を重視した選手起用へと方針を変更。ポーリのトップ下はそのためのものだ。彼は期待に応えてしっかりとピルロにプレスをかけ、ユーベの組み立ての要となるボランチ、あるいは最後列からのフィードを確実に切っていた。
ユーベを攻略する上での戦術的な対策も徹底していた。ポーリとともに、1トップのパッツィーニも猛烈なプレスをかけて、ボヌッチのビルドアップを阻害する。3バックを敷く相手に対し数的優位が保てるシステム上の利点を生かし、サイドを選手間の連動で攻め立てた。右ではターラブがドリブルで外から中へと切れ込み、空いたスペースをSBのアバーテがオーバーラップで使う。左ではカカーとエマヌエルソンが小気味良いパス交換で振り回す。ELの疲れも残るユーベをミランは圧倒的に攻め立て、枠内シュートは前半だけで実に7本。立て続けに放ったカカーのシュート2本(26分)、カカーのシュートをブッフォンがセーブしたこぼれ球に食らい付いたポーリのシュート(42分)など、これらの決定機を確実に決めていれば、試合はまったく別の展開になったはずだ。
しかし、そんな状況下でも集中力を失わず、相手の隙を突く狡猾さを有するのがユベントスというチームである。44分、彼らはたった一本の縦パスから劣勢を帳消しにした。後方からのフィードをラミがヘッドでクリアするが、これを前線に飛び出したマルキージオが拾う。彼はテベスにパスを渡し、テベスは走り込んで来たリヒトシュタイナーへダイレクトパス。エリア内を駆け抜けたスイス代表はファーサイドでフリーになっていたジョレンテに折り返し、インサイドで丁寧に合わせた長身FWのシュートはアッビアーティの背後を突いてゴールへと転がった。
圧倒的に攻めながら、先制点を奪われたミラン。51分にはポーリがボヌッチとの空中戦で頭を強打し、交代を余儀なくされるというアクシデントも発生する。もっとも、その交代で入ったサポナーラもしっかりポーリのタスクを受け継ぎ、猛烈な運動量で攻撃を活性化。流れは引き続きミランが手中にするのだが、いかんせんゴールだけが遠い。
そして64分、ユーベの2点目が生まれる。エリア手前、DFラインの前方にぽっかりと空いたゾーンの穴。試合開始から猛烈なインテンシティでスペースを埋めていたミランの選手たちが作ってしまった唯一の空白だった。テベスがこれを見逃さない。前線から引いてこのスペースにポジションを取りまんまとフリーでボールを受けると、振り向きざまに強烈なミドルシュートを放った。これが、綺麗にゴールの右上隅を捉える。何度も決定機を作りながら、決められなかったミランに対して、ワンチャンスを決め切った皮肉なまでの追加点だった。
その後、セードルフ監督は本田やロビーニョを矢継ぎ早に投入するが、試合のすう勢を変えるには至らずゲームセット。試合後、ガッリアーニ副会長は「我われはユーベと互角に戦えることを証明した」と息巻いたが、要所で必ず上を行かれるところにチーム状態の差が出ている。それでもあくまでミランはチームを作り直している最中であり、クラブ事情を考えるなら善戦であることに違いないのだが……。
(文/神尾光臣)
<監督コメント>
クラレンス・セードルフ(ミラン監督)
「試合のことは客観的に評価し、今後もミスを減らすべく練習を積んで行かなければならない。そうは言っても、今日展開したパフォーマンスは忘れるべきではない。選手たちの目には悔しさと怒りが残っていた。これがさらにチームを良くして行くことだろう。決定力? 一度にいろいろなことを変えることはできない。今日の時点ではインテンシティを見られたことが満足だ」
アントニオ・コンテ(ユベントス監督)
「シュートというものは運によって決まったり決まらなかったりするものだが、大事なのはシュートを放つことだ。ともかく、ナポリやローマがそろって引き分けに終わったこの日、非常に大変なサンシーロでよく勝てた。ミランとの間にある勝ち点差は、実際の戦力差を正当に反映していない。セードルフを褒めたい。そして、そんな彼らには偉大なユーベでなければ勝てなかった」