リーガでは2012年4月以降、32試合ぶりに起きたカンプノウの陥落。それをここ2、3日でバネガ、カナーレス、ポスティガ、パボン、グアルダードらを一挙放出し、エドゥアルド・バルガス以外の新戦力はまだ合流していない状況下のバレンシアが成し遂げたことだけでも驚きである。しかし、ピッチ上で見た光景はそれ以上に意外な展開の連続だった。
ピッツィ監督も認めた通り、前半のバレンシアはパコ・アルカセル1人を前線に残して9人が守備ブロックを固めたが、球際でのフィジカルコンタクトが皆無でバルセロナに圧倒的なポゼッションを許してしまう。しかも開始7分にはアレクシス・サンチェスの蹴りぞこないが先制点に。早くもただ引いているだけではいけなくなったバレンシアの選手たちはしかし、時間が経過するにつれ、バルサのパスワークを傍観する観客と化していく。
ところがバルサは一方的に押し込んでいたこの30分間に追加点を奪えず、その後は相手のスローテンポにつられたか、はたまた慣れないシエスタ時間開催(16時キックオフ)のため体が睡眠を求めたのか、同じく選手の足が止まっていく。そして44分、ジョルディ・アルバ、ブスケッツが立て続けに不用意に飛び込んだところをかわされてパレホにペナルティエリア内までフリーでドリブルを許すと、同点ゴールを奪われてしまった。
互いに締まりのない内容だっただけに、ハーフタイムのロッカールームでは両監督が雷を落としたに違いない。だが落雷で目を覚ましたバレンシアの選手たちとは裏腹に、バルサの選手たちは覚醒し切らない状態でピッチに戻ってきてしまう。
ホームチームは48分、自陣からの丁寧なビルドアップを見送り続けた末にJ.アルバがバラガンに裏を取られ、最後はダニエウ・アウベスが身長163㎝のピアッティにヘディングを許して1-2。リカルド・コスタの肩でなく腕にボールが当たったと見間違えた主審にPKをプレゼントされて一度は同点に追いついたが、その5分後にはエリア内にいるフェグリを数人で囲んでいたはずが、フリーでスローインを受けさせた上、あっさり縦へ突破されて2-3。カンプノウでここまで気の抜けた失点を繰り返すバルサを見たのは本当に久しぶりのことだ。
その後マルティーノはシャビ、セスクを下げイニエスタとテージョを投入したが、オーガナイザーが去りドリブラーだらけとなった攻撃は手詰まりとなるばかり。さらに78分にはJ.アルバがイエロー2枚目で退場、頼みのメッシも判断が悪く簡単にボールを取られてばかりと、ゴールが遠かった。
この敗戦により、バルサは昨季の開幕戦から保っていた首位の座を60試合ぶりに喪失。翌日ソシエダを破り95-96シーズンの最終節以来となる単独首位に立ったアトレティコ・マドリーを、レアル・マドリーとともに追う立場となった。
(文/工藤 拓)
<監督コメント>
ヘラルド・マルティーノ(バルセロナ)
「試合が急転した理由については良い説明が見つからない。ハーフタイム前の失点が迷いをもたらし、後半は焦りに支配された。勝負は試合が終わるまでわからないものだが、今日は30分の時点ですべてが決まったかのような印象を与えてしまった。(前日会見で)ここからはミスの代償が高くつくと言ったばかりだというのにね」
ファン・アントニオ・ピッツィ(バレンシア)
「ポゼッションをベースにゲームを支配する相手に対し、前半はイーブンボールを争う際のアグレッシブさに欠けた。その点が改善された後半は守備が安定し、カウンターを仕掛けるたびにチャンスを作り出せた。クラブにふさわしくない順位にいる我われはとにかく勝ち点が必要だった。この勝利は選手を勇気づける強力なカンフル剤となる」