グループFの大一番、アーセナル対ドルトムントは“パスワーク対カウンター”という対照的なスタイルの勝負となる。
トップ下にドイツ代表のエジルを加えたアーセナルは、パス&ムーブを駆使した崩しを武器にプレミアリーグで首位を快走。CLでも“死の組”と言われたグループで2連勝を飾っている。彼らのスタッツで注目したいのが、ペナルティエリア内から放ったシュートの割合を示す「エリア内シュート率」だ。アーセナルはこの数値で32チーム中トップの78%を記録している。加えて「枠内シュート率」もトップの83%となっており、相手の守備を崩し精度の高い攻撃ができていることをデータが示している。
「エリア内シュート率」を高めている存在がトップ下のエジルだ。この司令塔が高い位置でボールを受け、絶妙のスルーパスやピンポイントのショートパスを出すことで、左右のウイングが斜めに飛び出す、あるいはボランチのラムジーが後方から追い越すシチュエーションを生み出している。
ドルトムントとしては、ハードプレスによりアーセナル攻撃陣のペナルティエリア内への侵入を防ぎ「エリア内シュート率」を下げられるかどうかが勝負の明暗を分ける。ボランチのアルテタやラムジーのところに厳しくプレッシャーをかけ、アーセナルの攻めのリズムを崩していきたい。狭いスペースに受け手が動いて、そこでシンプルなパスを素早く繋ぐのがアーセナルのスタイルだが、前線からのプレスを特徴とするドルトムントの守備が機能すれば、中盤に生じているスペースを有効活用されることはない。
シュベン・ベンダーとシャヒンのボランチコンビにトップ下のムヒタリャンを加えた中盤の三角形が連動してアーセナルの中盤の三角形を抑えることで、自由なタイミングでエジルに縦パスが入らなくなる。後ろからスムーズに縦パスが出てこないと、エジルは中盤のやや深いところまで引いてボールを受けようとするが、そこでさらに彼へのパスコースを限定できれば、エジルがボールを持つ前に攻撃の流れを断ち切れる。
必ずしもボールを奪い切る必要はなく、プレッシャーをかけてリズムを崩せばアーセナルはバイタルエリアで短いパスを繋げなくなる。そうすれば、ミスパスやセカンドボールをドルトムントが拾い攻撃に転じる回数も増えるはずだ。
攻撃に関しては、得意の速攻をベースに中途半端な位置でボールを失うことなくシュートで終わる回数を増やせば、アーセナルのディフェンスラインを一度下げることができるため、結果的に相手の「エリア内シュート」を減らす助けになる。
ここまで好調のアーセナルも、ドルトムントほどのプレッシングを誇る相手との対戦は今季未体験であり、一つの試金石になりそうだ。
(文/河治良幸)
<監督コメント>
アルセーヌ・ベンゲル(アーセナル)
「(GSで敗退した)一昨季のドルトムントには経験が足りていなかった。しかし、昨季決勝まで進んだことで自信を得ているね。我われの若い選手たちは経験し成熟した。5月以降一貫して結果を残し続けていることが我われの質を示している。エキサイティングなゲームになるはずだよ」
ユルゲン・クロップ(ドルトムント)
「アーセナルは批判を受けても、モダンで素晴らしいスタイルを常に維持してきた。彼らの進歩には感心しているよ。エジル獲得はいいアイディアだった。1年前、彼らがカソルラ抜きでプレーすることは考えられなかったからね。競った試合になる彼らとの2連戦は、ささいなことが勝敗を分けるだろう」
※ベンチ入り禁止処分中のため、試合ではアシスタントのゼリコ・ブバチが指揮を執る。