「ダメだ、明日は出られないよ」。ミラネッロに集う地元記者たちの前に姿を見せたカカーは、大げさに左足を引きずって歩いた。もっともその瞬間、彼はイタズラっぽく笑みを浮かべ、記者たちも笑う。14日のボローニャ戦で負傷したのは右足首なので、この仕草が道化なのは明白だったが、とはいえ完全に回復しているわけではない。招集メンバーには入ったが、「ギリギリまで様子を見て決める」とセードルフ監督は語っている。
すでにロビーニョが故障中で、1月に加入した本田も規定によりCLの出場は不可能。これでもしカカーまで出られないとなれば、セードルフが1月から作り上げてきた[4-2-3-1]が成立しなくなる。「2トップといわず、4、5人の選手を攻撃に割くことが私の哲学だ」と語る同監督にとっては、頭の痛い問題となるだろう。
もっとも手駒がそろったところで、コンセプト通りの“攻撃サッカー”がアトレティコ・マドリーに通用するかは疑わしい。なにせ前線4人の連係が築かれていないのだ。それぞれが足下にボールを欲しがり、スペースを消す守備的な相手の前ではパスも回せずスローダウン。そんな彼らにとってAマドリーは相性としては最悪である。強固なブロックでバイタルエリアをがっちりと固められ、攻めあぐねたところをコケとジエゴ・コスタのホットラインで破られる――。正攻法で行ったところで待っているのはそんな負けパターンかもしれない。
ミランにとってはいっそのこと、トップ下の不調を逆手に取るのも手ではないか。例えば、ボローニャ戦の後半で見せた[4-2-2-2]的な布陣。バロテッリとパッツィーニの2トップでかく乱してスペースを生み出し、ターラブの突破力とポーリのダイナミズムで敵陣深くに攻め入る。うまく行けば中央の密集地帯を避け、サイドから攻略の糸口を見つけることもできるだろう。連係が備わっていない以上、選手の特性を生かして攻撃しようと思えば、自ずとできることは限られてくるはずだ。
だがベルルスコーニ・オーナーから攻撃サッカーを期待され、自らもそれに強いこだわりを持つセードルフが、理想を捨てて現実的なアプローチを取るかは不透明だ。シメオネに率いられたAマドリーは、指揮官の闘志が細部まで行き渡ったプラグマティズム(実用主義)の権化。生半可な決意では徹底的に現実の厳しさを教えられることになるだろう。思案の末にミランがどういう布陣をぶつけてくるのか、まずはそこに注目である。
(文/神尾光臣)
<監督コメント>
クラレンス・セードルフ(ミラン)
「非常に調子のいいチームを迎えることになるが、我われも準備はできている。今まで積み重ねてきた努力の成果を刈り取る試合になるよう期待している。Aマドリーは組織的で非常に強いが、彼らにも弱点があり、そこを突く用意はある。良い結果を出すため、チーム一丸となって全力を尽くす」
ディエゴ・シメオネ(アトレティコ・マドリー)
「こういう試合で物を言うのは歴史だ。伝統や戦力で非常に強い相手と対戦することになる。ただし、歴史を綴るのはあくまで選手だ。我われが有利だとは思っていない。集中し、インテンシティを高めてぶつかることが必要になる。試合は攻撃的な内容になると思う。つまり守備においては、どんなに小さなスペースも残してはいけない。ミランはそういうところを必ず突いてくる」