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シェフィールド・ユナイテッド。斬新な戦術に、熱いサポーター

2019.08.18

秘技“オーバーラッピング・センターバック”

 アイルランドのパブに入ると1曲歌わされることがあるそうだ。だから“持ち歌”がない者は入店しない方がマシだという……。今年4月にシェフィールド・ユナイテッドのクラブ年間最優秀選手に選ばれたアイルランド代表DFジョン・イーガン(26歳)は、そんな冗談を交えた前置きをしてから歌い出した。

「俺たちはシェフィールド・ユナイテッドだ
巷じゃザ・ブレーズって呼ばれているんだ
俺たちにはビリー・シャープがいる
ザ・レーンの英雄だ
バシャムとオコネルがオーバラップする
ダフィー、フレック、そしてノーウッドもいる
ピンポイントパスが炸裂だ
アレ、アレ、アレー」

 これ以上ないほどシェフィールド・ユナイテッドの特長を簡潔に説明したチャントである。2016年に地元出身のクリス・ワイルダー監督が就任すると、1年で3部リーグを制して、昨季は2部リーグで2位に入ってプレミア昇格を勝ち取った。下部リーグでは、同指揮官の戦術はすこぶる好評だった。[3-5-2]を基本形に、昨季は2部リーグで最少失点の堅守を誇った。

 そして堅守以上に注目を浴びたのが、冒頭のチャントの「5行目」に記された“オーバーラッピング・センターバック”だった。3バックの左右のCBがウィングバックの大外を回ってオーバーラップするのである。その結果、昨季2部リーグでは両サイドのセンターバック(バシャム、オコネル)が2人合わせて7ゴール6アシストを記録したのだ。

今後に期待を抱かせたプレミア開幕戦

 そんな下部リーグでの評判を耳にしていた人は、彼らのプレミアリーグ開幕戦を楽しみにしていたはずだ。結果から言うと、残念ながら革新的な戦術は見てとれなかった。だが、面白そうな試みは垣間見えた。1-1で引き分けたボーンマスとの開幕戦は、ミラーゲームとなった影響もあり、CBが攻撃参加する機会が少なく、大外からウィングバックを追い越すシーンは見られなかった(数回あったかな、程度)。それでも冒頭のチャントの「6行目」は印象に残った。中盤の3枚(この試合はランドストラム、フレック、ノーウッド)の幅広いカバーリングとテクニックは、プレミアでも通用しそうだ。

 他にも興味深いシーンがあった。まずはウィングバックではなくセンターバックがスローインを投げるところだ。おかげで数的優位を作りやすい。さらに後半の立ち上がりという危険な時間帯に備えて、ハーフタイムの終わりに激しいウォームアップを行っていた。それもあってか、後半開始直後にチャンスを作っていた。どちらも彼らだけの専売特許ではないが、彼らの場合はそこに明確な意図を感じた。そして1点ビハインドで試合終盤には、4バックに移行して同点ゴールをもぎ取った。

 試合前にも工夫があったという。ワイルダー監督は、試合の4時間ほど前に選手たちをボーンマスの町中へと散歩に連れ出した。大半がプレミア初挑戦という選手たちの緊張をほぐしたかったのだろう。すると、まだキックオフまで時間があるというのに、シェフィールドから300kmも離れたイングランド南岸まで応援に駆けつけていたサポーターに囲まれたという。中にはチケットを持たずにやってきた者もおり、選手にねだっていたという。いずれにせよ、サポーターたちは歌い出したのだ。

「アレ、アレ、アレー!」

もしかすると、シェフィールド・ユナイテッドの最大の武器は、斬新な戦術ではなく熱いサポーターたちなのかもしれない!


Photo : Getty Images

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シェフィールド・ユナイテッド戦術文化

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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