メジャーリーグサッカー(MLS)の今季平均観客動員は、1万8608人と好調だ。近年急進中のMLSだが、その収益源を支えているのは彼らのチケット収入である。欧州で見受けられるような大型放映権収入があるわけではない。このチケット収入増大のために、MLSはあるユニークな投資を行っている。それは「チケット販売専門家」の育成である。2009年にNBAからチケット販売のプロを招き、ミネソタ州ブレイン市にMLSナショナルセールスセンター(NSC)というチケット販売要員養成所をリーグが設立したのだ。
このコースは年間4コースに分けられ、コースごとに20名弱を募集。生徒たちは全米中から集まり、住み込みで朝から晩までチケットセールスの訓練を受ける。販売するのはMLSのチケットであり、生徒の身でありながらリアルな営業経験や、指導者たちを通じてチケットセールスの極意を習得していく。このセンターが設立されてから卒業生は115名を超えるが、みなMLSのクラブに就職を果たし、他のチケットセールススタッフよりも70%も良い成績を残しているそうだ。
NSC自身もこの3年間で累計1億円以上ものMLSチケットを売りさばいている。だが、出資元のMLSはNSCからの見返りは見込んでいない。その代わりNSCが毎年優秀なチケット販売員を輩出し、卒業生が各クラブに就職していくことでリーグ全体のチケット収入が増加し、スタジアムがどんどん埋まれば、その先には大型テレビ放映権契約が待っている。そこで回収するという長期的な視点に立った人材、そして事業土台への投資と位置付けられているのだ。
実はチケットセールスの重要性はMLSに始まったことではなく、アメリカのプロスポーツにおいてはどの競技でも最優先事項となっている。4大メジャースポーツともなればチケット販売員だけで40~50名雇用しており、MLSも各クラブ平均15名はチケットセールスにのみ注力しているフルタイムスタッフを雇用している。しかし、このような職業訓練所を自前の投資で設立したのはMLSが初。今後のMLSの収益構造にますます注目していきたい。
(文/中村武彦)