“3度目の手術は受け入れられない。その時は新たな人生を始めるよ”
Kingsley Coman
キングスレイ・コマン
FW29|バイエルン
1996.6.13(22歳) FRANCE
文 遠藤孝輔
バイエルン加入4年目のコマンがいまだ「リベリとロッベンの後継者」と言われ続けているのは、ひとえに伸び悩んでいるからだ。全盛期ほどは輝けていない“ロベリー”あるいはニャブリの牙城を崩せず、真の主軸になり得ていない。個人成績を見ても、1年目だった2015-16シーズンの記録(4ゴール6アシスト)が自己ベストのまま。その原因を挙げれば、真っ先にケガという単語が出てくる。
最初に重傷を負ったのは2016年11月。左足首の関節包損傷と膝を痛め、約2カ月の離脱を強いられた。その前シーズンに同じウインガーのドウグラス・コスタ(現ユベントス)とともにリーグを席捲し、さらなる飛躍が期待されたタイミングでのアクシデントで、戦列に戻った後はリベリとロッベンのバックアッパーに甘んじることになった。
その時以上に深刻なケガを負ったのは、ロベリー越えに挑んだ勝負の3年目。18年2月、左足の靭帯結合部を損傷し、シーズン中の復帰が絶望となる手術を余儀なくされたのだ。ただ、これで終わりではない。厳しいリハビリを乗り越え、ピッチに戻ってきた今シーズンの開幕戦で同箇所を負傷。わずか半年ほどで2度も左足首にメスを入れる運びとなった。

その辛い期間を乗り越える上で拠りどころになったのは日々、自分をアップデートできるという考え方だ。以前、コマンは『テレコム』のインタビューで新年の抱負を問われ、「ない」と即答。なぜなら「いつだって何かを変えることはできるから」だという。
とはいえ、2度目の手術後はさすがに気が滅入ったようだ。その心境を母国の『テレフット』で明かしたのは昨年末のこと。
「ケガをした時は、僕にとってこの世の終わりだった。また(リハビリの)経験を生かすことがないことを願うばかりさ。もうたくさんだよ。3度目の手術は受け入れられない。それは、たぶん僕の足がこのレベルに向いていないってことだから。その時は新たな人生を始めるよ」
そう引退を示唆したのだ。カール・ハインツ・ルンメニゲCEO、ニコ・コバチ監督、サリハミジッチSDらバイエルン幹部はすかさずメンタル面のサポートを口にし、若くしてキャリアを閉じることがないようにアドバイスしているという。その首脳陣をヒヤリとさせたのは、ブンデスリーガ第22節のアウグスブルク戦だった。アディショナルタイムに相手DFと接触したコマンが、左足首を抱えながらピッチに倒れたのだ。
幸い、靭帯に損傷は見られなかったものの、左足首に“爆弾”を抱えているのはもはや疑いようがない。果たして、もう一度重傷を負った時に立ち上がれるのか。コマンに必要なのは、たび重なる大ケガを乗り越え、何度も不死鳥のごとく蘇ったロベリー並みの精神力かもしれない。

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