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パウロ・ディバラ。ロナウドとの共存がもたらす進化の予感

2018.11.11


 クリスティアーノ・ロナウドとディバラは共存できるのか――。

 CR7のユベントス移籍が現実のものとなった時、ユベンティーノやイタリアのサッカーファンの関心事はそれだった。パウロ・ブルーノ・エセキエル・ディバラ。アレッサンドロ・デル・ピエーロがつけていた10番を背負い、チームの新しい象徴となっていた若者である。

 攻守にシステマチックなユーベのサッカーにあって、個人技で彩りをつけられる数少ない選手。前線から一列下がったエリアを主戦場とし、繊細なボールコントロールを利したチャンスメイクを持ち味とする。1度のターンでマークを置き去りにして数的優位の局面を作り、正確なラストパスを出す。そして自身も優れたシュートセンスを発揮して、エリア外からでもやすやすとゴールを陥れる。2016-17シーズンのCL準々決勝バルセロナ戦では、同郷の先輩リオネル・メッシを前に華麗なプレーを披露して勝利に貢献した。母国でつけられた「ラ・ホージャ(宝石)」という呼称そのままに、セリエAの至宝としてファンにいとおしまれている存在である。

 もっともロナウドとは、すぐにスターの華麗な共演という形にならなかった。開幕のキエーボ戦で前線でコンビを組んだものの、その後はマリオ・マンジュキッチにFWのポジションを譲ってしまう。またチャンスメイカーとしてはフェデリコ・ベルナルデスキも、ロナウドと良い連係を披露。地元紙はディバラだけが取り残されているような雰囲気を煽り、「悲しい顔をしたホージャ、彼がCR7の最初の犠牲者か?」「1月には移籍も」などと書き立てていた。

 「名選手は共存できるものだ」とよく言われるが、少なくとも一方に戦術眼がなければペアリングがうまくいくとは限らない。ロナウドがレアル・マドリーで点を取りまくっていた頃、その隣にはカリム・ベンゼマという優秀なパートナーがいた。マークを引きつけてポストプレーを請け負ってくれることで、両者は強力なユニットとしてチームの中で機能できていたのだ。ベンゼマとはまったくタイプの異なるディバラを同列に比較するのはナンセンスだが、連係を構築して無敵のコンビとなることは可能なのだろうか?


ロナウド到来前からあった課題

 抜群のテクニックを誇るディバラだが、起用にあたっては戦術上のバランスが取りづらい面があった。攻撃時のプレーエリアが中央寄りに制限され、守備でもサイドのカバーリングを可能にするような対応力まではないからだ。昨季は開幕から[4-2-3-1]のトップ下としてプレーしていたが、シーズン中盤にかけて守備が不安定になるとスタメンから外された。マッシミリアーノ・アレグリ監督は、トップ下を廃しMFを一枚増やした[4-3-3]に修正。そうなるとディバラの置き場所がなくなり、割りを食って定位置を追われた。シーズン序盤にゴールラッシュを続けていたにもかかわらずだ。後半戦からは再び出番も増えるが、監督は守備のバランスをどう取るかに毎試合腐心していた。

 今シーズンになって開幕からしばらく定位置を奪取できなかったのも、これと似たような文脈だった。当初はCFとして期待されていたロナウドが、左ウイングとして使われるようになる。そうなると、エリア内で体が張れる上に空中戦にも強いマリオ・マンジュキッチの方が適任になる。昨季と同様に、右ウイングとしてであればベルナルデスキやファン・クアドラードといった選手たちの方が攻守両面で機能する。ロシアW杯後で十分な調整ができていなかったこともあり、弾かれるのは結局ディバラになったということだ。

 そもそもロナウドは、ストライカーとして迎え入れられたはず。その彼にチャンスメイクをさせれば、しわ寄せを受けるのは当然ディバラ――そんな理解も可能ではあるだろう。ただ、本当にそうなのだろうか。アレグリ監督はディバラも活かす方向を考えているのではないか。目指しているのは点取り屋かアシスト役かなどといった役割の線引きではなく、流動的な補完。最近の戦術と試合でのパフォーマンスからは、むしろそんな印象を受けるのだ。

 トップをスタートポジションとするロナウドがサイドに流れれば、当然中央が開く。このエリアにポジションを入れ替えて中に入ったウイングか、2列目からMFを飛び込ませて点をうかがうというのが、最近定着している戦術のスキーム。これは当然、少し下がった位置からエリア内に侵入するディバラにとっても良いことである。いやむしろ、ロナウドにサイドでチャンスメイクをさせることは、ディバラの個人技を活かせるシチュエーションを戦術的に作り出す行為でもあるのだ。

 典型的だったのはCL第3節、マンチェスターU戦でのゴールシーン。ロナウドはクアドラードとポジションを入れ変えて右サイドへと流れ、これを見てレジスタのミラレム・ピャニッチは大外へ展開。いったんアウトサイドで大きく幅を取った後、ロナウドはその内側(要するにハーフスペース)を突いて縦へと走り、ボールをゴール前に深く引き出した。相手DFラインは視野を揺さぶられた挙句、ラインを下げざるを得なくなる。するとルーズになったDFラインの前には、ディバラが使える美味しいスペースが広がっている。ロナウドのクロスにクアドラードが潰れ、10番はそのボールに喰らいついてシュートをねじ込んだ。

FKをどちらが蹴るか、クリスティアーノ・ロナウドと話すディバラ


「9.5番」の系譜を継ぐ男へ

 一方ロナウドがサイドに流れても、ディバラのプレーゾーンは潰さない。むしろより自然な形で、チャンスメイクに関わることができる。第11節のカリアリ戦の試合終了間際、CKの守備から一気に最前線へ駆け上がったロナウドに正確なスルーパスを出したのは、中央高めの位置でボールを繋いだディバラだった。ボールを受けたロナウドは、じっくり相手を引きつけたのちに、フリーのクアドラードへパスを選択。フィニッシュこそ別の選手だったが、ディバラとロナウドの連係の深化が生み出したゴールであったことは明白だった。

 かつてのミシエル・プラティニロベルト・バッジョ、そしてデル・ピエーロはストライカーとチャンスメイカーの中間として「9.5番」などと形容されたが、ディバラも実はそのような選手だ。トップ下からのチャンスメイクは上手いが、真価を発揮するのはゴールに近い位置でスペースを与えられた時。アルゼンチンからイタリアに渡ってきたパレルモ時代、最初は本来のプレースタイル通りトップ下でプレー。しかし覚醒を見たのは、むしろ前線に上げられ、動きの自由を保障されてからだった。

 ゴンサロ・イグアインと縦のコンビを組んでいた昨季は、パートナーが中央でガチガチに囲まれるとディバラもいっぺんに消えていた。ロナウドを利用して前線のスペースを作り出せば、そんな密集からは解放される。押し下げられたDFラインのギャップに侵入したり、あるいはミドルを放ったりと、シュートに行くための選択肢が増えるのだ。

 ロナウドはサイドに流れようがシュートをたくさん放つのだし、ディバラも得点源となればなお強力になることは間違いない。調子も上向き、ユーベではファン投票で10月の最優秀選手に選ばれた。深まるCR7との連動性は、どんな成長をディバラにもたらすのだろうか。

今や代名詞となったゴールセレブレーションの“マスクポーズ”


Photos: Getty Images

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Profile

神尾 光臣

1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。

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