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本当に悪いことばかり?48カ国のW杯を擁護する

2017.12.01

ドイツサッカー誌的フィールド

皇帝ベッケンバウアーが躍動した70年代から今日に至るまで、長く欧州サッカー界の先頭集団に身を置き続けてきたドイツ。ここでは、ドイツ国内で注目されているトピックスを気鋭の現地ジャーナリストが新聞・雑誌などからピックアップし、独自に背景や争点を論説する。

今回は、ドイツでも反対多数だったW杯出場国拡大への反論。

 今年の1月上旬、W杯の公式ツイッターアカウントが「2026年大会から、本大会出場国を48に増加することを全会一致で決定した」と発表した時、ドイツサッカー界は総じて震駭した。「こんな改革はとんでもない」(ベルティ・フォクツ)、「出場枠を拡大して得るものは何もない」(ヨアヒム・レーブ)とコメントした新旧ドイツ代表監督をはじめ、ケルンのマネージャーであるヨルク・シュマトケは「愚かだ」と見下し、元ドイツ代表主将ミヒャエル・バラックに至っては「サッカーに対する攻撃だ」とまで言い切った。また、『ビルト』紙は「膨張W杯」という言葉を生み出し批判している。

 こうした否定的な声に対する、FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長の返答は実にそっけないものだった。

 「W杯を2チームだけで開催するとしても、ドイツは出場できるだろう」

 これはつまり「小国のことも考えてくれ」という意味である。しかしドイツの人々は、彼らのこよなく愛するW杯が何か別のものになってしまうこと――より具体的に言えば、大会が複雑になり内容が薄くなってしまうこと――を怖れているのだ。こうしたドイツの雰囲気を的確に描写してみせたのが『クルナー・シュタットアンツァイガー』紙だった。

 「これはもう、我われのW杯ではない」

肯定派が挙げるメリットの数々

とはいえ、FIFAの理事会では出席したすべてのメンバーが賛成票を投じたこの改革案を支持する意見がなかったのかと言えば、そんなことはない。

 例えば、『ターゲスツァイトゥンク』紙は「今までは南米と欧州のサッカー連盟だけが得をしてきた。比率的に考えて、両協会からの出場チームは多過ぎる。アフリカ、アジア、オセアニアが犠牲になっていた」と指摘。『ベルリナ新聞』も「最先端のサッカーはビッグクラブによって支配されている。W杯の出場枠拡大によってそこから除外されている小国に明るい展望が開けることは、彼らへのリスペクトだと見ることができる」と評価している。

 インファンティーノ会長も「夢の力」という言葉を用い同様の見解を示している。実際にW杯に出場することだけでなく、これまでは夢のまた夢だったW杯出場がまったくもって非現実的なものではなくなるだけでも、多くの国にとって大きな価値がある、と。

 また、大会の質が低下するという批判に対しては『ターゲスシュピーゲル』紙がこう反論している。

 「W杯は国際サッカーのレベルを決めるトレンドセッターではない。この役割はとっくにCLが果たしている。W杯は主に、“新たなファンと出会う”ためのものだ。それがよりカラフルになるとしたら、少々退屈な試合があったとして誰の邪魔になるだろうか」

 さらに、グループステージでつまらない試合の割合が増えるという意見についても、必ずしもそうなるとは断言できない。試合の娯楽性はレベルよりもその劇的さによって決まるものだ。その点、3チームずつ16グループで争い2位以上が突破となる新レギュレーションでは、最初に2試合を戦うチームが連敗した場合しか消化試合が発生しないのだから。

懸念は“談合”

 出場枠拡大による懸念は、もっと別のところにある。これまでの明快な対戦方式が変更されることで、望ましくない事態が発生し得ることだ。新たなグループステージでは、常に1チームは試合がない。もしグループ最終節の75分の時点で、そのままの結果なら対戦中の両チームにとって望ましい結果を得られる状況になった場合、彼らがどうするかは火を見るより明らかだ。この問題に対し、グループステージにPK戦を導入するという案がある。そうすれば確かに“談合”が起こる可能性は低くなるであろうが、それでも完全に失くすことはできない。

 加えて、なぜインファンティーノはこの改革をこれほど急いで推し進めるのか、その最も重要な動機――もちろん、カネである――と、それに対して至るところから噴出している「FIFAはカネのことだけしか考えていないのか」という批判が核心を突いてはいるのは間違いない。

 とはいえ、これまでに列挙してきたメリットを目にしてもまだ、カネの問題だけを理由に48カ国のW杯を完全なる悪者扱いすることができるだろうか。グループステージの問題さえ乗り越えることができたなら、今までこの大会とは無縁だった国々だけでなく、サッカーで満腹状態のファンにとっても決して悪くないように思えるのだが。

Translation: Takako Maruga
Photo: Getty Images

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Profile

ダニエル テーベライト

1971年生まれ。大学でドイツ文学とスポーツ報道を学び、10年前からサッカージャーナリストに。『フランクフルター・ルントシャウ』、『ベルリナ・ツァイトゥンク』、『シュピーゲル』などで主に執筆。視点はピッチ内に限らず、サッカーの文化的・社会的・経済的な背景にも及ぶ。サッカー界の影を見ながらも、このスポーツへの情熱は変わらない。

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