選手の出来や監督の采配が分析されるように、
審判のパフォーマンスもまた評価の対象であって然るべき。
前回南アフリカW杯でも全64試合をチェックしジャッジングを分析した『footballista』編集長の木村浩嗣が、判定の内容とその正誤を、審判のたたずまいや在り様も含めてジャッジする。
【GROUP E ホンジュラス 0-3 スイス】
主審
ネストル・ピタナ(アルゼンチン)
副審
エルナン・マイダナ(アルゼンチン)
ファン・パブロ・ベラッティ(アルゼンチン)
ファウル数
ホンジュラス:17/スイス:18
イエローカード
ホンジュラス:1/スイス:0
レッドカード
ホンジュラス:0/スイス:0
この大会は選手が倒れてもプレーを止めないことで試合がスピーディーになっている。が、23分に飛び蹴りが胸に入り選手が倒れた時は相手のカウンターの好機であったが止めた。ケガの危険性があったからで、正しい判断。61分、スイスのエリア内でホンジュラスの選手が倒れたシーンは2度のスロー再生ではダイブ(笛も吹かれなかった)に見えたが、3度目のそれで足を踏まれているのがわかった。つまり誤審だったわけだが、許されるミスだろう。74分、相手DFに激突して倒れた選手に対し、この審判は「起きろ」というジェスチャーをした。まるでダイブだったかのように。これは余計だった。
【GROUP E エクアドル 0-0 フランス】
主審
ヌマンディエ・デジール・ドゥエ(コートジボワール)
副審
ソンギフォロ・イェオ(コートジボワール)
ジャン・クロード・ビルムシャフ(ブルンジ)
ファウル数
エクアドル:17/フランス:6
イエローカード
エクアドル:1/フランス:3
レッドカード
エクアドル:1/フランス:0
今大会最もフットワークが軽い審判だが、試合後の心は重かったのではないか。熱戦だったが、激し過ぎた試合でもあった。相手を踏みつけた行為が一発レッドにふさわしいものだったのは、抗議をしなかった本人が一番よくわかっているに違いない。これで止まらずさらにレイトタックルあり、密集での肘打ちあり……。そのいくつかは審判も見ていたがアドバンテージを取って流したことが裏目に出てエスカレートするばかりだった。止めてカードを出し、コントロールすべきだった。
【GROUP F ナイジェリア 2-3 アルゼンチン】
主審
ニコラ・リッツォーリ(イタリア)
副審
レナト・ファベラーニ(イタリア)
アンドレア・ステファーニ(イタリア)
ファウル数
ナイジェリア:17/アルゼンチン:6
イエローカード
ナイジェリア:2/アルゼンチン:0
レッドカード
ナイジェリア:0/アルゼンチン:0
ジャッジについて何も書くべきことがない試合というのがある。審判は黒子だから、それこそ理想的な試合運びと言えるのかもしれない。リッツォーリには緊張感や興奮を下げる表情なのか仕草なのか、不思議なソフトさがある。あの名審判ロベルト・ロゼッティも同じ雰囲気を持っていた。名審判を生むイタリアの伝統を受け継いでいるのだろう。後半、ナイジェリアの選手によるいくつかのラフプレーがあったが、無難に裁き切った。
【GROUP F ボスニア・ヘルツェゴビナ 3-1 イラン】
主審
カルロス・ベラスコ・カルバージョ(スペイン)
副審
ロベルト・アロンソ・フェルナンデス(スペイン)
ファン・ジュステ(スペイン)
ファウル数
ボスニア・ヘルツェゴビナ:20/イラン:17
イエローカード
ボスニア・ヘルツェゴビナ:1/イラン:1
レッドカード
ボスニア・ヘルツェゴビナ:0/イラン:0
ミスジャッジにも負の遺産はある。ジャッジへの不信感がそれだ。アルゼンチン戦でサバレタのファウルによるPKを吹いてもらえなかったイラン、ナイジェリア戦でジェコのゴールを誤ったオフサイドで取り消されたボスニア・ヘルツェゴビナ。FIFAの指導のせいでアピールシーンがあまりなかったこの大会で、初めて抗議によるイエローカードが出された(87分アンサリファルド)。疑心暗鬼をどう払しょくするかが注目されたが、詰め寄って怒りを露にするシーンがあるなど、カルバージョの振る舞いはいま一つだった。
(文/『footballista』編集長 木村浩嗣)