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Photo: Getty Images

2017.03.08 18:00

REVIEW

UEFA CHAMPIONS LEAGUE / R16 2nd leg

試合を支配したナポリが完敗した「もう一つの試合」

勝負を分けたワンプレー:ナポリ 1-3 レアル・マドリー


UEFAチャンピオンズリーグ全試合を放送する『スカパー!』と『footballista』がコラボレーション。注目カードの勝敗を分けたポイントを、『footballista』執筆陣が詳細に分析する。


 スコアは第1レグと同様の1-3。しかし、内容は第1レグとははっきり異なる。

 ナポリは50分にわたって一方的な攻勢に立ってレアル・マドリーを自陣に押し込め、ほとんどサッカーをさせなかった。Rマドリーがナポリゴールに迫ったのは、相手のパスミスやイーブンボールを拾った4回ほどのカウンターだけ。サン・パオロを埋めた5万人の観衆は、Rマドリーがパスを数本繋いでポゼッションを確立するたびに凄まじいブーイングの口笛を浴びせるのだが、前半の45分でそれが起こったのはたったの3回に過ぎなかった。それ以外は、後方からパスを繋ごうとしてもナポリのハイプレスに押し戻され、仕方なくロングボールを蹴り込む、これの繰り返しだったのだ。

 ナポリが圧倒的なインテンシティによるハイプレスを90分間続けることができたかどうかはわからない。しかし後半の立ち上がり、前半同様にナポリがペースをつかんだ時点での試合状況は、「もしかすると」と思わせるだけのものだった。Rマドリーがゴールを奪うとすれば、ナポリのミスを突いてのカウンターか、さもなければセットプレーか、それ以外はあり得ないように思われた。


■テクニカルなサッカーの代償


 しかし、膨らみつつあった期待は、それからの5分間であっけなく萎むことになる。他でもないセットプレーからセルヒオ・ラモスが立て続けに2ゴールを叩き込んで(公式記録では2点目はメルテンスのオウンゴール)、ナポリのあらゆる希望を葬り去ったからだ。51分の同点ゴールをもたらしたこの試合2つめのCKは、ハムシクとディアワラのちょっとした呼吸のズレがもたらしたパスミスがきっかけ。ナポリがプレゼントしたようなものだった。
 
 セットプレーにおけるS.ラモスの驚異的な得点力は誰もが知るところ。ナポリのゾーンディフェンスに対して、遠目の位置からニアサイドに走り込んでフリーでジャンプし、身長で7cm優るラウール・アルビオルに楽々競り勝って高い打点でヘディングシュートを叩き込んだ。

 ナポリのサッリ監督は、第1レグの前日会見でセットプレーにおけるS.ラモスの危険性について、ゾーンディフェンスで対応し切れるのかと質問されてこう答えていた。「S.ラモスは今季ここまでセットプレーから8ゴールを決めているが、そのうち7点はマンツーマンディフェンスに対して挙げたものだ。マンツーマンかゾーンかという問題ではないことは明らかだ」

 とはいえ、この同点ゴール、そしてその5分後に生まれた逆転ゴールのいずれの場面においても、S.ラモスはナポリのゾーン守備の外からスタートを切り、誰にも邪魔されることなくフリーでジャンプしてボールを捉えている。これはマンツーマンディフェンスでは起こり得ないことだ。これから少なくとも数日の間、イタリアでは「マンツーマンか、ゾーンか」というセットプレー守備についての議論が続くことになるだろう。

 試合後、このテーマについて質問を受けたサッリ監督の答えは率直なものだった。

 「マンツーマンかゾーンかという以前に、我われと彼らの間には高さという点で大きなミスマッチが存在していた。高さだけでなく体格的にも、インパクト(当たりの強さ)という点で彼らに劣っていることは明らかだ。しかし我われのようにテクニカルなサッカーをしようとするチームが、フィジカルの面で多少の代償を支払うのは仕方がないことでもある。セットプレーの機会を与えればそれが大きなピンチになることは想定内だった。それを避けるためには、我われがボールを支配して攻め込み、相手をこちらのゴールから遠ざけておくしかない。最初の50分はそれが狙い通りにできていただけに、こちらのミスでCKを与えたのは残念だった」

 セットプレーは「試合の中のもう一つの試合」であり、そこではゲームのルールも選手の役割もまったく異なったものになる。その「もう一つの試合」において、ナポリが劣勢に立たされることは避けられないことだった。実際、44分に与えたこの試合最初のCKでも、S.ラモスはフリーでニアポストに走り込んでいる。ボールを捉えられなかったのは、キッカーのクロースが蹴ったボールが40cmほど高かったからに過ぎない。その意味では、2本目、3本目をぴったりとS.ラモスに合わせたクロースのプレースキックの精度にも、S.ラモスに対してと同様に脱帽するしかないだろう。


■ナポリが圧倒した左サイドのメカニズム


 試合は、少なくともベスト8への勝ち上がりという観点からは、S.ラモスが2点目をねじ込んだ57分の時点で終わっていたと言っていい。ナポリが勝ち上がるためにはあと4点必要になった残りの30分強は、ただやり過ごすための時間でしかなかった。

 だが、最初の50分におけるナポリの戦いぶりは、Rマドリーのチームとしての弱点を根こそぎあぶり出すような、興味深くまた見事なものだった。

 攻撃の糸口はいつものように左サイド。最終ラインに対するプレスがほとんど“存在しない”のをいいことに、左CBのクリバリがドリブルで中盤に持ち上がると、アンカーのディアワラ、左SBグラム、左インサイドMFのハムシク、左ウイングのインシーニェ、さらにはCFメルテンスも含め4、5人が中盤左寄りのゾーンに固まって数的優位を作り出し、ワンタッチ、ツータッチで細かくボールを動かして揺さぶりをかけ、余らせた1人をうまく裏のスペースに送り込む。

 24分の先制ゴールの場面もその典型的な形から生まれた。持ち上がったクリバリが、中途半端な位置に並んだベイルとモドリッチの間を通して、中盤ライン背後のハーフスペース(ピッチを縦に5等分した時、端から2番目と4番目のエリア)でフリーになったインシーニェに縦パスを送り込む。それに合わせて左のライン際を駆け上がるグラムにSBカルバハルが釣り出されて外に流れたため、パスを受けたインシーニェが素早くターンして前を向いた時には、その前でメルテンスとハムシクが左CBペペに対して2対1の関係を作っていた。インシーニェからのパスを受けたハムシクが、2人の間で躊躇するペペをあざ笑うように、裏に走り込むメルテンスにダイレクトでスルーパスを送り込んで一丁上がり。メルテンスはファーストタッチでペペを置き去りにするとそのまま左足でファーポストぎりぎりに正確なシュートを流し込んだ。

 Rマドリーは前線のベンゼマ、ロナウドがほとんどプレスをせず、ベイルもグラムの攻め上がりについて早めにポジションを下げるため、ナポリのCB(とりわけクリバリ)はまったくプレッシャーを受けることなくドリブルで持ち上がることができた。それに対してプレッシャーをかけざるを得ないRマドリーの中盤ライン(主にモドリッチ)が前に出るのだが、最終ラインの押し上げが緩慢なことが多く、2ライン間にはしばしば「おいしい」スペースが生まれることになる。そこにインシーニェやハムシクが入り込み、縦パスを引き出して危険な状況を作り出すというのが、この日再三見られたナポリの攻撃パターンだった。

 「試合の中のもう一つの試合」ではなす術なく敗れたものの、オープンプレーではRマドリーを苦しめた、というよりもほとんど圧倒したナポリ。敵地サンティアゴ・ベルナベウの空気と相手の圧倒的な個人能力の前に気後れしたような戦いしか見せられなかった第1レグとは異なり、自分たちの持ち味を(少なくとも50分の間は)存分に発揮したという点において、悔いのない戦いだったはずだ。ピッチを去る選手たちに満員のスタジアムから贈られた暖かい拍手にも、それははっきりと表れていた。

(文/片野道郎)



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明日はドルトムント対ベンフィカを西部謙司さんがレビュー、こちらもお楽しみに!

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