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Photo: Bongarts/Getty Images

2017.02.15 22:00

PREVIEW

UEFA CHAMPIONS LEAGUE / R16 1st leg

“ペップ後”の反動でバランス崩れた? いや、新監督は着実に

月刊フットボリスタ第42号『CLラウンド16大展望』より

戦前は有利と見られていたバルセロナとドルトムントがそろって敗戦。
例年にも増して好カードがそろった今季のCL決勝ラウンドは、
本当に何が起こっても不思議ではない。
パリ・サンジェルマン対バルセロナ同様、因縁対決として注目を集める
バイエルン対アーセナルは果たして――
発売中のフットボリスタ第42号から、
決戦に向けたバイエルンのチーム分析記事を公開!



スターの“なわばり”的確に
「悪い時」にも勝てる集団を

ロストフに負けるか!? 昨季までとは違うドイツ王者の歩みに
“今年こそ”の期待が膨らむガナーズファンも多いかもしれない。
しかし、かの名将の調整力を侮るなかれ。開幕から5カ月が経過した今、
チームは着々と問題解決、新たな強みまで手に入れようとしているらしい。


 就任した当初、新監督は「ペップ・グアルディオラのサッカーを継続する」と宣言していた。だが、半年が経った現在、それは社交辞令に過ぎなかったことがわかる。今のバイエルンにはカルロ・アンチェロッティの哲学が息づき、新たなスタイルを身につけつつある。

 まずは今季の戦術の変遷を振り返ろう。アンチェロッティは表面的にはペップと同じ[4-3-3]を採用したが、異なるメカニズムを選手たちに求めた。左右のウイングを中央に絞らせ、その分SBをオーバーラップさせるやり方だ。つまり左右のSBのアラバとラームは、攻撃時にはウイングのような役割を担う。

 なぜアンチェロッティはウイングを中に絞らせたいのか?のちに『キッカー』誌のインタビューでこう明かした。

「DFラインと守備的MFの間のスペースを突くためだ」


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 一般的に言うバイタルエリアに近い感覚だ。そこに選手が走り込むと、相手の守備陣にとっては誰がマークにつくか混乱が生まれやすい。アンチェロッティはミラン時代、クリスマスツリー型のシステム[4-3-2-1]を好んで採用した。その2列目のカカーとセードルフは、まさにDFラインと守備的MFの間のスペースを狙う役目だったと言える。バイエルンでは表記上は[4-3-3]だが、リベリとロッベンら左右のウイングが中に絞ると、実質的にはクリスマスツリー型とほぼ同じ配置だ。

 しかし、このメカニズムはバイエルンでは機能しなかった。ミュラーやビダルらがいるところに、リベリやロッベンが入って来ることで渋滞が発生してしまったのである。


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 ペップ時代はウイングが広がってピッチの幅を作り、SBが偽ボランチとして中央をカバーしてバランスが取れていた。それに慣れていた選手たちは、アンチェロッティの意図がわかりづらかったのだろう。このイタリアの名将は「リベリとロッベンが中に入るやり方に慣れていなかった」と失敗の要因を分析している。


[4-2-3-1]導入による2つの効果


 また、攻撃時にバランスが崩れたことが、守備にも大きく影響した。ペップ時代、ボールを失った後に素早くプレスをかけ、すぐに奪い返すことが徹底されていた。いわゆるゲーゲンプレッシングである。アンチェロッティの下でも、選手たちはそれを継続しようとした。だが、ボールの周りに味方がバランス良くいなければ、ゲーゲンプレッシングをかけても簡単にかわされてしまう。チームは不用意にボールを失う回数が増えただけでなく、すぐに奪い返すことも難しくなった。その結果、CLグループステージ第2節(9月28日)でアトレティコ・マドリーに1-0で完敗し、ブンデスリーガ第11節(11月19日)でもドルトムントに1-0で競り負けた。さらにその4日後、CLで格下のロストフ(ロシア)に3-2で逆転負け。アンチェロッティへの風当たりが強まり、「練習にインテンシティが足りない」といった選手たちの不満がメディアに漏れるようになった。

 だが、アンチェロッティは自分の戦術に溺れてしまうタイプではない。問題を解決すべく、第13節マインツ戦で新たなシステムにトライする。トップ下を1人にして[4-2-3-1]を採用したのだ。リベリとロッベンが中央に入って来ても、トップ下にはチアゴ・アルカンタラ(もしくはミュラー)しかおらず渋滞が起こりづらい。さらにこのシステム変更には、もう1つ大きな効果があった。選手たちのプレーエリアがはっきりし、互いの“なわばり”を侵さないようになった。


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 ビッグクラブを率いる際、チーム作りには大きく分けて2つのやり方がある。1つ目はスターでも特別扱いせず、全員に規律とハードワークを植え付けるやり方。2つ目はそれぞれの才能を発揮しやすいように、ピッチ上のプレーエリアを大まかに分けるやり方だ。前者の代表例はペップで、後者の代表例がまさにアンチェロッティである。チェルシー、パリSG、レアル・マドリーといったクラブで結果を出せたのは、“なわばり”を割り振るのがうまいからだろう。


「支配する」から「コントロールする」へ


 攻撃のシステムを整理する一方で、指揮官は守備のやり方にも変更を加えた。ハイプレスにブレーキをかけたのだ。

 「常にゲームを支配する必要はない。時には相手のDFにプレスをかけず、後ろに引いて守ることも必要だ」

 選手たちの意識は確実に変わりつつある。キャプテンのラームはこう語る。

 「昨季まで、僕たちは90分間ゲームを支配しようとしていた。だが、今季は状況に応じて後ろに引いて、カウンターを狙うことにも取り組んでいる。アンチェロッティ監督から、ゲームをコントロールすることを学んでいるんだ」

 イタリア的なエッセンスが加わったことで、正直、ペップ時代のような華麗なパス回しが見られる時間は減ってしまった。だが、悪い時間帯の対応力は確実にアップしており、強いチームと対戦した時にタフさを発揮できる可能性がある。

 決勝ラウンド初戦で当たるアーセナルは、ここ4年間で3度対戦した因縁の相手だ。2013年は同じラウンド16であたり、アウェイの第1レグを1-3で快勝したが、第2レグは0-2で落として冷や汗をかかさせられた(アウェイゴールの差で勝利)。2015年のGSもアウェイでは2-0で敗れている。今季、アーセナルのパス回しはさらにパワーアップしており、チームの完成度で言えば相手の方が上だろう。

 だが、すでに書いたように、現在のバイエルンは悪い時にこそ真価を発揮できる可能性がある。アーセナルのパス回しに圧倒されても持ちこたえ、カウンターという新たな武器によって勝機を得るのではないだろうか。

 美しいサッカーから、タフでしぶといサッカーへ――。アンチェロッティの改革は前へ進み続けている。


アンチェロッティ監督のアーセナル戦前日会見

(文/木崎伸也)

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